平成21年7月 第2365号(7月1日)
■高めよ 深めよ 大学広報力〈37〉
こうやって変革したb
広報室設置で巻返し マーケティングも強化 D実績広告Eで大反響
文教大学
教員採用で高い実績を上げている大学がある。文教大学(大橋ゆか子学長、埼玉県越谷市・神奈川県茅ヶ崎市)もそのひとつ。埼玉県を中心に全国の公立学校の教員採用試験では全国トップクラスである。数年前までは、宣伝広報活動をあまり行なわなくても受験生は集まったが、ここ数年、受験者は微増・微減の繰り返しが続いた。これに危機感を持った文教大は昨年四月、広報マーケティング室を設置して、広報力強化に乗り出した。広報担当理事には広告代理店出身の教員が抜擢された。「これからの大学広報は、広報とマーケティングを同時にやらないと駄目だ」という同理事に、これまでの文教大の広報、これからの広報を語ってもらった。
(文中敬称略)
圧倒的な小・中の教員採用
文教大学は、1927年に設立された立正裁縫女学校が前身。66年に立正女子大学として開学、埼玉県越谷市に越谷キャンパスを設ける。76年に名称を文教大学に改め、翌77年に男女共学にした。85年に、神奈川県茅ヶ崎市に湘南キャンパスを設けた。
越谷キャンパスに教育学部、人間科学部、文学部、湘南キャンパスに情報学部、国際学部、女子短期大学部がある。湘南キャンパスは、レンガの外壁を擁し、しゃれた外観の建物。テレビドラマや車や食品のコマーシャル撮影のロケ地にも使われた。
広報担当理事に抜擢されたのは、情報学部教授の横内清光。大手広告代理店、博報堂の出身。
まず、横内が文教大学を語る。「大学創設以来、建学の精神である人間愛の精神の上に一人ひとりの学生の個性を大切にするきめ細かな教育を行っています。全学部で教員免許を取得することが可能で、人間性豊かな教員を多く輩出しています」
文教大が教員採用で実績を出し始めたのは、開学10年ぐらいたってからだという。「それまでは、いかに教員採用試験の合格者を増やすか、など大変な苦労があったと聞いています。その間にノウハウを蓄え、独自の方法論を身につけたのだと思います」
最新の「大学ランキング2010」(朝日新聞出版)の資格・採用試験(教員)では、文教大は、小学校の部では228人で、大阪教育大(315人)、愛知教育大(278人)、東京学芸大(239人)といった教育系国立大学法人に次いで堂々の4位、中学校の部では、64人で8位に食い込んでいる。
少人数の専門教育
「少人数の専門教育、教員による熱心な指導、職員による手厚い学生支援が役立っていると思います。とくに、一クラスが20〜40人と少ないのは授業に遅刻したりすると目立ちます。同じ目標を持つ学生が採用試験に向けて自主的な勉強や面接練習したりしています」(横内)
この数字には満足していないようだ。同大教育学部の新聞広告には、こうあった。〈教員免許状を取得していても、正規の先生になるのは厳しい状況が続いています。27.6%(平成17年3月)、これが全国平均正規採用率です。これに対して、文教大は50.9%で二倍近い実績を誇ります〉
申し分ないようにみえるが、「三年くらい前から、大学トップは危機感を持っていました。本学のよさを、もっと外部に伝える必要がある、と私に広報担当を引き受けてほしい、と懇願してきました」(同)
横内がこれまでの広報について説明する。「2000年くらいまでは、新聞の連合広告をやるぐらいでしたが、受験生の確保はできたようです。しかし、その後、景気の影響もあるのか、地方からの受験生が少なくなって受験生の微減が続きました。
受験生が減るということは、偏差値にも影響して、よい生徒が集まらなくなる、ということになりかねません。これは、まさにマーケティングの問題です。有用な顧客(学生)を集める必要がある。そこで、その分野の専門家の私に白羽の矢がたった次第です」
二足のワラジをはくことになった横内がまずやったのは、前述の教育学部の新聞広告だった。「具体的な数字を入れた、いわゆる実績広告でした。これに『文教大の教育学部は凄い』、『これでは他の大学はかなわない』と全国の先生方は驚いたようです」
続いて、「大学選びの基準が変わる」「人間愛、ていねいに、たくましく、育てる」といったキャッチコピーや、各学部ごとの新聞広告なども手掛けた。コピーは横内自ら作ったという。最初の新聞広告は口コミをよんで、PR効果は大きかった。
横内は、マーケティング論を語った。「大学も企業と同じように、四つのPが必要なのです。プロダクト(製品開発)は、時代に合ったカリキュラム開発だし、プライス(価格の設定)は授業料をどうするか、プレイス(良い環境)はコンピュータや語学などの教育環境、最後のプロモーション(推進活動)は、大学のやっていることを社会にどう伝えるか、です」
地域との連携も熱心
横内には、まだまだ、やりたいことがある。「文教大の名前は、受験生らは知っているが、一般の人はまだ知らない人もいる。もっと知名度や認知度を上げる必要がある」と力説する。
卒業生の活用もそうだ。「本学には、全国に9000人の教員OBがいます。これまで、あまり広報活動をしなかったのも、このOBが学生を送り込んでくれたという面もあります。これからは、OBともっと密接にきめ細かく連携していきたい」
教員採用が注目されるが、文教大は地域との連携も熱心だ。教職員と学生による地域連携活動が、文教大学の教育の特色だという。「専門領域をもつ私立大学として、社会や地域と連携して信頼される大学として進んでいきたい」。
取材を終えた四日後の朝日新聞埼玉版(6・27)には、次の記事が県版トップで掲載された。〈文教大学と越谷市は26日、教員の研修に関する協定を結んだ。大学教員と小中学校の教諭が一緒になって指導法を考え、学校現場に伝える。新学習指導要領の実施に先駆けて教諭の指導力強化を図る考えだ〉
記事には、大橋ゆか子学長と吉田茂・越谷市教育長が握手している写真が添えられていた。
健康栄養学部を設置へ
「本学は時代のニーズに沿った学部新設を行ってきた」(横内)と胸を張る。2010年4月には健康栄養学部を設置予定(認可申請中)。栄養・スポーツ・臨床など多彩なカリキュラムでカラダとココロの健康と食を考える管理栄養士を育成する。
横内はこれからの広報を語った。「これからは伝統の教育学部は内部のエンジンとして、引き続き大学を引っ張る原動力になってもらいたい。外部に対しては、ユニークな存在感のある大学として、それぞれの学部の魅力をきちんと伝えていきたい」
そして、こう続けた。「そのためには、広報とマーケティングを同時にやらないと駄目だ」。自説を繰り返した。