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平成21年7月 第2365号(7月1日)

科技政策研
  日本は博士減少傾向
  大学・大学院の教育に関する調査

 科学技術政策研究所は、このたび「大学・大学院の教育に関する調査」プロジェクトの研究成果を公表した。同プロジェクトは、第三期科学技術基本計画のフォローアップの一環として実施されている12のプロジェクトの一つ。我が国の理工系大規模研究型大学院の実態調査、博士課程修了者の進路動向の把握などを行なった。概要は次の通り。

 第一部では、大学院教育を担当する教員への聞き取り調査(日本10大学(56名)、米国2大学(14名)・英国2大学(14名))などを通じて、理工系分野全般について、優秀な大学院生の確保と大学院教育の質の向上に関する国際比較や、特定分野に関して日米各2大学のカリキュラム比較を行なった。
 @大学院教育の実質化と質の保証の重要性
 日本の一部の大学院で、体系的なカリキュラムの整備など大学院教育改善の取り組みが始まっている。しかし教育改善は、教員の意識や努力への依存が大きいとの認識があり、教育に注力できる環境の整備などが要望されている。
 米国では、修士課程相当の期間におけるコースワークを通じた基礎と幅広い知識の確実な習得が、その後の研究活動を充実させているとの認識から、そのための教育・研究指導体制が整備されている。英国では、博士課程学生の多様な進路に対応するために汎用的なスキルの習得機会を提供し、学生の増加に対応するために、従来は研究室の指導を通じて教えられていた研究手法を科目化するなどの効率化が進んでいる。
 A優秀な学生を博士課程に惹きつける環境整備
 日本の教員は、博士課程進学を躊躇する学生の増加を憂慮している。この背景には、博士課程終了後の就職に対する不安等が上げられている。少子化の中でアカデミック・ポストの拡大は必ずしも見込まれないことから、進路の多様化やポストドクター後のキャリアパスの不透明さの解消等を通じて、優秀な学生を博士課程に進学させることや、大学教員が教育・研究に注力できる体制の整備などを通じてアカデミック・キャリアを魅力的にする重要性が示された。
 B入学する学生の質の確保の重要性
 日本では博士課程の定員充足に苦心する中、入学者の学力や意欲等の低下を危惧する声があった。また留学生は、経済的支援や英語による授業が限定的であることから、海外の優秀な学生が日本を留学先に選んでいないのかではないかとの懸念が示された。
 第二部では、2002年度から06年度にかけて、我が国の大学において博士課程を修了した者(満期退学者を含む)全員を対象に、博士課程を置く全大学(414校)に対して調査票を送付し、414大学全てからデータを回収した。回収した個人単位データの件数は75197人分あり、これは文部科学省「学校基本調査」における集計値とほぼ一致する。
 博士課程修了者の進路情報は各大学において必ずしも充分に把握されているとは言えず、特に人文・社会科学分野の修了者や博士課程終了後数年経過したものの動向については「不明」となる割合が高い。
 博士課程修了直後の職業を見ると、ポストドクターになった者が全体(02〜06年度修了者合計)の15%、教員職に就いたものが全体の約半数を占めている。また、専門的知識を有する職(小・中・高教員、医師等)にも全体の17%の者が就いている。
 研究分野別に見ると、博士課程修了直後に研究開発関連職に就いた者の割合は、理学・工学・農学分野で特に高い。また、ポストドクターになった者については、理学・農学分野でその割合が高くなっている。
 日本人の博士課程修了者(以下、日本人修了者)のうち修了直後に海外へ移動した者は全体の2%に留まっており、その多くが米独英などの欧米のポストドクターになっている。
 日本人修了者のうち博士課程修了直後に米国でポストドクターになった者は、年数の経過とともに日本に帰国する比率が高まり、修了後五年経過した者では半数以上が帰国している。
 留学生の博士課程修了者のうち博士課程修了直後に日本に留まった者や第三国に移動した者は、母国に戻った者よりもポストドクターになる割合が高い。
 留学生の博士課程修了者のうち博士課程修了直後に日本に留まっていた者でも、年数の経過とともに日本を離れる傾向がある。

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