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平成21年6月 第2364号(6月24日)

高めよ 深めよ 大学広報力〈36〉
  こうやって変革した 33

国際基督教大学
圧倒的な「学生の満足度」
リベラルアーツ教育「大改革」に広報も貢献

 大学ランキングの「学生の満足度」で圧倒的な高さを誇るのが国際基督教大学(ICU、鈴木典比古学長、東京都三鷹市)。教養学部のみの学生数3000人という小さな大学だが、受験生や大学関係者からの評価は高い。少人数教育、リベラルアーツ教育で知られ、全国の大学学長からの評価でもベスト3に入る。08年には、1学部6学科から1学部1学科にする「大改革」を行い、これを受験生ら外部に伝えるのに広報が一役買った。2年連続で受験生は増え、広報戦略は成功したようだ。ICUの広報担当者の口からは、自分の大学を「他の大学と性格が異なる」「独自の大学」「ユニークな大学」とためらいもなく出てくる。小さくてユニークで大きな存在感があるICUの広報はどのように行われているのか、担当者に聞いた。(文中敬称略)

入学後に「専攻」選ぶ大学

 キャンパスの広さと緑に圧倒された。正門から「滑走路」と呼ばれる約600mの長大な直線道路が貫く。両脇の染井吉野が満開になると桜のトンネルになる。東京ドーム13個分あり、空を貫く木々の間に校舎が点在。中島飛行機三鷹研究所跡で、隣接する都立野川公園は70年代まで、ICUのゴルフ場だった。
 広報センター長、大西直樹(教養学部教授)が語る。「オープンキャンパスなどでICUに来た高校生の中には、このキャンパスに魅せられて受験したという学生もいます。広いキャンパスを移動するための自転車を持つ学生も少なくありません」
 ICUは一九四九年、日米のキリスト教指導者による会議で創設が決まった。高松宮様が設立準備委員会の名誉総裁に就任、当時の日本銀行総裁、一万田尚登も設立のための募金運動に奔走、五三年、初代学長に湯浅八郎を迎えて開学した。
 少人数教育とリベラルアーツについては同大のHPに、こうある。〈「教養ある市民を育むための教育を、日本に」。ICUはまだ戦後間もない頃、日米の多くの人々の熱意によって生まれた。当時まだ日本にはなかった、四年制教養学部大学のはじまり。学問分野という垣根を越えた教養教育重視型のカリキュラム、学生数が3000名程度の少人数教育、受け身ではなく学生が自立的に学んでいく校風といった特徴は、いまも変わらない。このようなスタイルの大学は「リベラルアーツ・カレッジ」と呼ばれ、17世紀に欧米で生まれた〉
 1学部1学科体制に
 08年の1学部6学科を1学部1学科体制にした大改革はこうだ。教養学部は07年までは人文科学科・社会科学科・理学科・教育学科・語学科・国際関係学科の6学科。これを、これまでの専修分野に学科横断的専攻制度を統合、「31のメジャー(専攻)」にした。この中から、学生は単一メジャー、ダブルメジャー(二つの専攻)、メジャー・マイナー(主専攻・副専攻)の三種類の方法のうちいずれかでメジャーを履修する。
 大西が苦笑しながら説明する。「当初、私は、この改革には反対でした。受験生らに(改革を)どう説明するのか、と追及したところ、それじゃあ、お前が広報をやれ、と07年から広報センター長になった次第です」
 大西のいう「一世一代の大改革」を、どのように広報したのか。「特別予算も組まれ、広告会社を選んで動き出しました。しかし、広告会社の意図する金を使って大きく広くという”ばら撒き広報”は役に立たず、一年でやめ、大学独自でやることにしました。
 ICUの一学年の定員は620人、そのうち一般受験は250人、つまり3000人の受験生が確保できれば十分なので、ピンポイントの広報戦略を考えました。キャッチコピーを”入学後に専攻(メジャー)を選ぶ大学”にし、入学前に専攻を決めず、学びながら専攻を選べることを訴求しました」
 ピンポイント広報戦略
 この訴求ツールで最も役に立ったのは、パンフレット「ICU 入学案内」(A4サイズ、137頁)。作成に携わった広報センターグループの田島貴子が説明する。
 楽しいキャンパスライフを紹介する大学案内が多いなかで、硬派の大学案内といえよう。「世界基準。ICUが選ばれる7つの理由」のタイトルで、@レイタースペシャリゼーション、A教育水準保障、B少人数教育、Cアドヴァイジング、D英語教育プログラム(ELP)、E多様性―日英バイリンガリズム、などについて教員や学生のコメントをまじえ、丁寧に説明する。
 英語教育プログラム(ELP)は、こういうことだ。ICUは全学共通科目として語学教育を据える。大学の教員の3分の1が外国籍である。授業は英語でも開講される。4月入学生は、ELPと呼ばれる一連のクラスを入学から約2年間にわたって履修する。その際にTOEFLのスコアによるクラス分けが行われる。
 ELPでは全て英語によって授業が行われ、高等教育の場で学ぶためのルールや思考方法、そして英語力を身に付けることが目標となる。9月入学生および留学生に対しては、JLP(日本語教育プログラム)が用意されている。
 入学案内が受験の決め手
 「高校生に、どうすれば読んでもらえるか、を考えて作成しています。入学した学生のほぼ一〇〇%が、この入学案内を読み、その大多数が受験の決め手になったと言っています。高校訪問や入試説明会、オープンキャンパスで配るほか、学内に置いてあるものを学生が改めて読んでいる姿もよく見られます」(田島)
 この入学案内のほかの広報ツールはどんなものがあるのか。「オープンキャンパスも役立っています」といいながら「うちのような小さな大学は口コミ、が大事なんです」と大西は、口コミを強調した。
 「ICUの学生は真面目だし、愛校心が強いんです。高校訪問をお願いすると喜んで引き受けてくれます。学生も広報に一役かってくれています」と田島は嬉しそうに話す。
 恵まれた教育環境にいる学生だからできるという面もあるかもしれない。留学制度が充実している。3年次以上の学生を対象とする交換留学は、現在21ヶ国58大学と協定が結ばれており、一学年約600人のうち100人近くがこの交換留学制度を利用して留学。キャンパス内には三つの男子寮、四つの女子寮、一つの男女共生寮(グローバルハウス)がある。
 大西がこれからのICU、広報について語った。
 「3000人という学生数でも、ICUのめざす教育を実現するには多いと思う」とこぼしながら「面倒見のよさを誇る教員、真面目でディスカッションに強い学生という、ICUのよさを、これからも強めていきたい。
 広報については、これから、さらに伝えるべきことは大学の教育の中身だと思います。ICUのユニークなよさを伝えるには、大学に来てもらったり、高校訪問するなど対話を大切にしたい。熱意が伝わる手づくりの広報を心掛けていきたいと思います」
 大きな改革をバネにして、手づくりの広報を心掛ける独自性にこだわる。そして、もうひとつ上をめざす広報担当者が存在する大学は強い。

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