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平成21年6月 第2362号(6月10日)

新刊紹介
  国立大学法人化の渦の中
  「落下傘学長奮闘記」
   黒木 登志夫 著

 大学の先生は概して、専門のことには極めて熱心だが、専門外には醒めた感じになる。この先生は、どっちになるか、国立大学法人化で学長になった基礎医学者の汗と涙の物語。
 著者は昭和11年生まれ、東北大学医学部卒。日、米、仏の3カ国の5つの研究所で癌の基礎研究を40年間やってきた著名な研究者。<大学の管理運営の経験は全くなかった>
 2000年の癌学会で、旧知の岐阜大教授との立ち話で「学長選に推薦する」といわれ、「(推薦だけなら)どうぞ」とうなずいた。2001年6月から<学長になってしまった>
 岐阜大に着任して二週間後、国大協総会に出席。<この総会は、国立大学の歴史に残る重要な会議だった。国立大学法人化に対応する国大協の「法人化枠組み」案が提出された>
 この日を境に、大学法人化の混乱に巻き込まれる。落下傘学長に抵抗する教員、文部科学省の圧力、大学予算の削減…これまで経験したことのない「専門外」と対峙する。
 法人化は2004年に実現。二章の「松尾レポート」も読み応えあるが、法人化後の三、四章「法人化で何が変わったか」が落下傘学長の面目躍如。
 <法人になったとき、「学部あっての大学」から「大学あっての学部」へというスローガンを掲げた>
 <毎年1%ずつ運営費交付金が減らされている。もう、限界だ。さらに削られるようであれば、旧帝大を除く国立大学の教育と研究は崩壊するだろう>
 九章「東大一人勝ち」も光る。<最先端の大学を支援すると同時に、地方大学も単科大学も支援しなければならない。Wカップで勝つには、Jリーグが力をつけなければならない>
 「思いつき学長」と卑下することなかれ。思い入れある学長の卓見だ。

 「落下傘学長奮闘記 大学法人化の現場から」
 黒木登志夫著
 中公新書ラクレ
 рO3−3563−3669
 定価920円+税。

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