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平成21年6月 第2362号(6月10日)

「質の向上」の取組み
  最終報告(案)の概要
  公的質保証・大学の質保証体制・環境整備に対する国の支援を!

 ○第T章「私立大学における教育の現状と今後の課題―学士課程教育の『質の向上』に関わるアンケート結果の概要」(第U章〜第Z章の提言の背景となる)
 アンケートでは、@教育方針・目標、A入学者選抜と初年次教育、B教育内容・方法等、C学習成果の評価、D卒業の認定と学位の授与、E教育改善・教育の「質の保証」に関するシステム、の六つの事項に沿って、私立大学の教育の現状と質の向上へ向けての施策や計画を、詳細な30項目にわたって尋ねた。(%は回答を得たもののうちの割合)
 @教育方針・目標(建学の精神を教えているのは83%で、そのうちの41%が正規の授業科目を配置)、A入学者選抜と初年次教育(少子化による大学全入時代にあって、学生確保の面で二極化している。86%の大学で何らかの初年次教育を実施など)、B教育内容・方法等(教育課程の編成において、教養科目等が94%の大学で適切に位置づけられている。教育方針・目標は98%の大学で情報開示している。単位の実質化では、ほとんどの大学で授業時間を厳格化しており、日常的学修を進めるよう努力している大学は33%。学習成果の評価では、74%〈東京〉の大学で教員間の共通の成績基準を設定しているなど)、C学習成果の評価(GPA制の採用は43%、検討予定を含めると85%など)、D卒業の認定と学位の授与(学力達成度を適切に定めているのは70%で、学位授与の条件及び達成度の開示は56%など)、E教育改善・教育の「質の保証」に関するシステム(FD実施大学は94%、SD実施大学は55%、質保証の整備体制73%、その専従部署設置は20%、なお、今後、質の保証に向けて、学士課程教育の適切な実行のために必要な改善点として、学力達成度の測定・評価方法の確立と厳正な成績評価・成績評価基準の明確化及び教育効果の点検・評価制度、学部・学科の教育研究目的の達成状況検証の仕組みの確立、質保証体制・PDCAサイクルの確立とFDとSDの連携による質保証などを挙げている)
 私立大学は、国の公教育機関として、7割以上の学生の人材育成を担当している。私立大学の教育改善と発展は、直接国に大きく貢献するものである。国はこの点を銘記し、本アンケートで見られた優れた取組みや発想を実現させるべく、私立大学に対して一層の支援を行うよう期待したい。
 ○第U章「私立大学における内部質保証システム(PDCAサイクル)」
 大学内部の質保証システムの重要性を述べ、次にアンケート結果を通して、内部質保証体制の整備について分析している。
 内部質保証の取組の基本は、自己点検・評価と情報公開である。その実現を期すためにどのような点検・評価体制をとるのかは、各大学が考えるべきことである。その際大事な点は、PDCAサイクルを確実に機能させ、恒常的に点検・評価を維持できる体制を整備すること、さらに自己点検・評価を日常の取組として行える体制を構築することである。学内における組織の位置づけ、組織編制、業務範囲、権限などを整備し、それに見合った教職員を配置することである。
 ○第V章「私立大学の学士力―21世紀型教養教育への貢献と責任―」
 第二次大戦後の日本の高等教育は、アメリカの教養教育型を導入したが、その教養教育の有り様は、一般教養的位置づけであった。昨年12月、”学士力”をキーワードに「学士課程教育の構築に向けて」が答申されて、グローバル化社会における高等教育の在り方が示された。
 この”学士力”の概念が名実ともに日本の大学教育に定着するかどうかは、「教育力」のダイナミックな反応にかかっている。日本版”学士力”が日本への海外からの留学生を通して、世界基準の一つとして世界に貢献できるようにしたい。
 ○第W章「大学間の学生移動の促進―学士課程教育の質保証・向上の実質化」
 教育制度が元来異なる国々の国境を越えた頻雑な学生移動や教育プログラムの乱立が、教育の質保証問題を惹起させ、ヨーロッパにおけるボローニャ・プロセスの契機となった。このことを思うならば、一国の同じ教育制度の内にあっては、e―ラーニング等の遠隔地教育プログラムと大学間学生移動を組み合わせた教育の実現が、評価だけでは困難な質保証・向上の実質化を促進するものと期待される。
 それぞれ特徴のある多くの大学を擁する我が国の高等教育の総資源を活用し、総力をあげて学士課程教育の質保証・向上に取り組む方策として、本構想は意味を持つと考えられる。
 ○第X章「国際交流と私立大学教育の質の向上―留学生30万人計画を活かして」
 大学の質保証システムの国際的な枠組みづくりの推進に当たり、世界規模での競争力を身につけるとともに、諸外国の高等教育機関等との協働作業を推進する力量が問われている。グローバル化の進展の中を生き抜く我が国の私立大学においては、この「競争」と「協働」とが時代の新たなキーワードとなり、最重要の実践課題となっている。
 「留学生30万人計画」の推進に当たり、私立大学の個性・独自性を活かして留学生対策の各種プログラムを魅力あるものにしていくことが大学全体のグローバル化、ひいては日本社会のグローバル化に役立つ。
 国は、留学生受け入れについても、各私立大学の取組みを支援するスタンスで臨むべきであろう。
 ○第X章「私学振興における国家の質の保証について」
 平成20年度の国立大学法人への運営費交付金等は、一校当たり143億円平均であり、私立大学への経常費補助金は、一校当たり3.3億円平均である。私立大学は学生の7割以上の人材育成を担っているにもかかわらず、平等に使われるべき国民の税金が国立大学法人と比べて極端に低いという実態がある。
 公正な公財政支出を図り、適性な環境の下で各大学が自助自立の努力を重ね、「教育立国」を実現させるような施策を講じることが、私立大学のこれまで以上の質の向上を図る上で欠かせないのではないか。
 ○第Y章「私立大学の質の向上を目指して」
 我が国における大学の質保証体制は、大学設置基準・設置認可・アフターケア・認証評価による@公的な質保証体制、「自己点検・評価」の実質化・「FDとSD」による教職員の意識改革・専門的組織の編成によるA大学内部の質保証体制の整備、そして、B大学団体による大学の質保証のための環境整備の取組み、の三つに大別される。
 特に、Bの取組みでは、@の公的な質保証が有効に機能するように国に対して「政策提言」するとともにBの私立大学内部の質保証に対しては、「改革支援」により、私立大学の質の向上を一層促進させる役割を担うことが重要である。

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