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平成21年5月 第2360号(5月27日)

九州国際大学の地域共創
  地域に立脚した大学の目指すもの−3−
  実践活動で成長する学生

(学)九州国際大学法人経営企画室 神力潔司

大学移転後初の商学・地域連携が始まる
 筆者は、平成17年度に『衰退する地域の商店街の活性化について』という地方自治体と地元商店街が主催する勉強会に、教育機関の一員として参画することとなった。元来は、地元コンサルタントに講師派遣を依頼していたが、コスト削減と地元店主の当事者意識を増幅させるため、地域の利害関係者に参画してもらい、様々な角度からの情報収集を試みるものだった。
 ここでも筆者は、学生の力を借りることとなる。大学から徒歩5分の商店街での学生の日常生活用品の購入は、ほぼなかったため、学生の目線で年末商戦のイベントのアイデアと集客ポスターの作成を、学生参加のコンペ形式で実施することを提案した。このイベントを契機に、過去四年間に及ぶ活動の成果や学生を活用した商学連携に興味を抱く教育職員との巡り会わせが突然に訪れた。
 平成18年には、この教育職員らとともに国土交通省の公募する『平成18年度全国都市再生モデル調査事業』に応募。見事に採択され「大学の地域連携とソーシャルキャピタルの構築」というテーマで調査研究活動を行った。これにはもちろん学生も参画した。
 同時に受託できた北九州市の「商学連携支援事業」やその他の受託事業を活用し、商店街内に空き店舗を借り受けた。この空き店舗が教室であり、学生の実践の場として活躍する。
 まずは、学生の参加への障壁を低くするために、学部の教務担当教育職員と相談しつつ、共同研究を進める教育職員が担当する授業を学外で実施する承諾をとった。商店街の活性化を念頭に講義と演習のテーマの設定を行い、急遽シラバスを作成し、“授業”という名の活性化提案へ向けた調査活動を実施した。
 初回は、この授業でどんなことを実施したいか受講生とともに考え、出てきた活動テーマの班分けを行うというものだった。
 例えば、「魅力発見プロジェクト」チームは、商店のヒアリングから開始した。各自インタビューを行い、フィールドノートに業態や価格帯、特徴などを記載、これらをもとに各店の魅力を発見していく仕組みである。そこから生まれたアイデアが、店の前に店主の手書きの黒板を設置し、客との対話の仕組みやきっかけをつくるというものだった。
 活動の成果は、「九州国際大学法学部地域連携プロジェクト」として次のサイトに掲載している(www.noguchi.co.jp/gion/index.php)。
 前述の商店街の空き店舗は、学生のアイデアにより「九国茶屋」というカフェに生まれ変わった。学生自らが改装し、接客からメニュー開発、経理処理の実践の場であり、学生自らが経営し、今では売上の中からアルバイト代を支給する仕組みにまで発展した。
 平成十九年度には、経済学部の教育職員と、「KIT&E(Kitakyushu Information Technology & Entrepreneur)」で知り合った北九州地域の企業経営者の理解と協力により、「ITは北九州をどう変えるか」と題した寄付講座をコーディネートする機会を得た。地元企業で活躍する企業人が、自らの経験とともに蓄えた知識を実社会の状況とともにわかりやすく講義して頂いた。
 毎回の講義終了時に、学生は「ミニッツペーパー」というミニレポートを提出する。講義の重要点を三ポイント記入し、感想を記述する。回を重ねるごとに非常に熱心になり、内容も充実してきた。現場を持ち、体験談で力説する企業人独特の話しぶりが学生の心に響いたのだと感じた。
 この寄付講座は、学生のキャリアデザインの一役も担っている。講義を担当している企業人講師は、講義中の学生の眼差しや質問に鋭く反応したり、連絡先アドレスを交換して、インターンシップの受け入れや自らの企業を学生の就職先としてアピールしたり、その場でスカウトするなどの効果も生まれている。
 実践活動で成長する学生諸君
 以上のように、教育職員と事務職員がそれぞれの得意分野を活用することへの理解が得られることにより、それぞれが持つ人的ネットワーク全てを人材という資源として活用することが可能となる。
 こうして創り上げられたステージで学生が活動する仕組みや方向付けを行うことで、現場を体験するとともに、様々な年代や考え方を持った人々とのネットワークに守られた実践の場に浸ることができる。この体験を通じて、現在の大学生に必要な事柄である『「脳みそ」と「体」で汗をかくこと』、『闘争心、忍耐力、体力、精神力』、『携帯世代に不足している“たてのコミュニケーション能力”』を自然と養うことができる。忘れてはならないのは、教職員は教育というステージを提供する上でのファシリテーターやコーディネーターに徹することも必要ということだ。
 その成果として、早期に就職が決定する者や公務員への就職を果たす者が続出している。
 当然、その影には学生自らの努力があり、学生生活を通じて体験したことを自信に満ちてアピールできるだけのコミュニケーション能力を身につけた成果でもある。大学という高等教育機関の大きな活動テーマや存在意義として「社会貢献」が重要視されている。
 社会科学系の地方の大学には、非常に取り組み難くはある。が、筆者の大学のように地域活動への参画を通して、まちづくりや地域づくりのための人材育成や地域の活性化へ向けた実践活動で直接的な地域連携に対応できる人材を育成することへも対応ができる。
 そのためには、キャンパス内のみではなく、地域というステージで、調査・研究活動を通じて更なる課題を発見するとともに、その成果を活用して、教育を実施する必要がある。大学の有する「人的資源」、「広域のネットワークによる最先端の知識資源」の存在をもアピールするためにも、学生のみならず教職員がともに参画する地域貢献・交流事業を手始めに、大学本来の活動目的である人材の養成・育成について、地域をフィールドとして実施できるよう学内体制を整えるべきだ。これは、キャンパスが住民に開放されるという物理的な問題よりも、大学の持つ資源や機能が地域社会に期待され、解放され、役立つ方向に制度を工夫し続けることである。
 地方の大学が地域の高等教育機関として地域に根付いていることの意味を再検討し、さらには教育機関と地域が相互に刺激しあえるよう、そのニーズを探る必要があると感じている。そのキーワードは、「建学の理念」、「教育目標」、「教育の理念」、「教育方針」であり、それを実行する具体的政策として「カリキュラム」、「教育技術」、「サポートシステム」を論じなければならない。その重要な役割を事務職員が担うときが到来したのではないか。これらキーワードを好循環させていく参考として図を提示する。
 非常に乱暴ではあるが、教育機関を製造業で例えるならば、「学生・生徒」という「素材」を「入学」という取引で「仕入」れ、その素材に対して「教育」という「加工」を施し、「人材」へと製品化し、「進学・就職」という形態でという「商品」として「販売」する。この商品の価値が高いと翌年の「仕入」における素材の品質は間違いなく良くなる。
 大学は、社会のニーズに敏感に反応し、人材育成のための教育という加工技術を常に磨くことが求められている。いたずらにカリキュラムの名称のみを変更するのではなく、その教育技術を工夫することである。
 また、教育技術を支援するサポートシステムは元来事務職員の役割であり、何の提案もせずに教育職員の秘書のごとく責任逃れ的な働き方をしていたならば、好循環への変革は全く期待できないものとなる。これらの仕組みがうまく機能してこそ、今後求められる大学としての基礎的な体制が整えられたと理解すべきではないだろうか。
(おわり)

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