平成21年5月 第2360号(5月27日)
■改革担う大学職員 大学行政管理学会の挑戦 11
中部地区研究会の新たな展開
会員主体の研究会を目指して
一、研究会の発足と創設期の活動―大学行政に係る見識を高めるために―
「中部地区研究会」は、「大学行政管理学会」設立の趣旨に鑑み、なお一層の学会活動の活性化を目指し、@会員資格の緩和に伴う若手職員の活躍の場の提供、A東海・北陸地区会員を中心とする横断的な活動の場の展開を視野に入れて、02年11月16日大学行政管理学会西日本支部(中部/近畿/中国・四国/九州・沖縄各地区)の中の地区別研究会として設立された。その立ち上げに際して、「第一回中部地区研究会」に原 邦夫氏(当時大学行政管理学会会長)を招いて、大学行政に係る識見を学んだことを皮切りに、その後は「フォローアップセミナー」と「マネジメント入門セミナー」の二つのセミナーを中心に活動を展開してきた。前者のセミナーでは、主に中部地区の大学をはじめとする大学職員の諸先輩から実践的な話題を提供していただき、大学職員が、互いの意見を交しながら知識・技能の集積を目指し、大学職員としての役割とあり方について鋭意検討してきた。また、後者は、名古屋大学や名城大学の高等教育研究者を招聘し、大学経営に係る戦略的マネジメント能力の育成を目的に開催された。
いずれのセミナーも「中部地区研究会」として、国公私立大学の分け隔てなく、それぞれが帰属する大学固有の問題に対する意識レベルの高揚とともに、各大学共通の課題や取り組みに係る情報共有の場としての役割を果たしてきた。
二、その後の活動―他大学の実践事例から学ぶ―
現在、大学は厳しい競争時代に入っており、大学職員の新しいあり方とその力量の問題が議論されている。このことは、08年12月24日に中央教育審議会から発表された『学士課程教育の構築に向けて』(答申)の中においても「大学職員の職能開発」として提言されている。このような議論が活発化する中で同研究会では、他大学のGRから大学職員の役割を学ぶこととした。その一例として、立命館大学 大学行政研究・研修センターの実践報告をもとに、大学職員の新しいあり方とその力量について研究することとした。同センター発行の『政策立案の「技法」』(2007)によれば、大学職員の新しいあり方とその力量に関する議論は、@問題発見と課題の特定、A政策立案・提起、B成果の創り出しに要約されている。実際にこの研究会では、これまでの安穏とした大学職員のイメージが大きく変化していくことや職務を遂行しながら大学の政策を考え、実行していくことは、非常な体力、精神力が必要であることを実感させられた。そして、自らの職責のなかでその実りを止揚させ、それ以上の次元の違った大学職員理念へと転換させていこうとする姿に、新時代の大学職員像を垣間見ることができた。また、論文で提起された政策が実行され、新たに生まれた課題を当該論文執筆者だけでなく、関係教職員を巻き込みながら取り組まれている様子が窺え、「個人単位」ではなく、「大学組織全体」の力量、推進力が感じられた。
ともあれ、大学職員の能力開発推進に向けた環境整備が、大学にとって重要な課題の一つであることを再認識した次第であった。
三、研究会の新たな展開―会員主体の研究会を目指して―
以前に同研究会で開催したワークショップにおいて、大学職員が日頃感じている職場の良さと課題を明らかにする試みがあった。そのなかで良い点とされたものに、「職場の雰囲気がよい、風通しがよい、学習意欲や資質の高い職員がいる」という点が挙げられている。一方、課題としては、大学の中には「動くと損」という雰囲気があり、実際のところ言い出した人がやらなければならない、定員割れを起こしているといっても中にいる人は「案外のんびりしている、危機感が薄い」とするものであった。この課題に対応し、「各大学の動き(情報)の共有↓集約↓発信」を定期的に運用する方法の確立、そのために企業のグループ会社の事業研究・発表の必要性が提案された。また、大学の特徴として組織がフラットで意思決定のルートや責任が不明確な場合が多く、意思決定のスピードをあげる方策について研究・解明する必要も提起された。総じて、協働と機動力を持つ人事制度や、組織力強化と人材育成というテーマの必要性を指摘したものが多かったと言える。これらの指摘を受け同研究会は、これまでの理事を中心とした世話人会による企画・運営から会員の参加型へと運営を改め、08年10月に「企画推進ワーキング」を立ち上げた。具体的には、@大学の教育・キャリア・学生支援などの大学改革をテーマとする企画、A組織・財務・人事を取り扱う組織開発等をテーマとする企画を検討するために二つのワーキンググループを設置することとした。
新たな企画・運営での第一回研究会は、09年2月に「認証評価」をテーマとし、中部地区のみならず関東・関西からも学会員に参加していただき、成功裏に終えることができた。第二回研究会は、FD・SDコンソーシアム名古屋と共催で、来る7月4日に「大学経営とリクスマネジメント―学生の安全を確保するためのリスクマネジメントワークショップ―」として開催する。昨今の新型インフルエンザへの対応に見られるようにリスクマネジメントにおける初動体制、危機管理シミュレーション、迅速な社会への情報発信の方法論等を学ぶワークショップ型研修を予定している。
最後に、大学教員の能力開発と並んで大学職員の能力開発が重要な課題としてクローズアップされている環境下で、「中部地区研究会」では、「大学行政・管理の多様な領域を理論的・実践的に研究することを通して、全国の大学の横断的な職員相互の啓発と研鑽を深める」ことを設立目的とした大学行政管理学会の趣旨に立ち返り、会員主体の研究会を目指して活動を進めていきたいと考えている。
今後、大学が生き残るためには、大学職員の能力開発は、重要な課題である。従来のような指示待ちで事務処理だけを行なう、いわゆる事務屋から、戦略的思考や高度な専門的知識を有し、意欲と熱意を持って自ら課題を発見し解決できる自律した大学職員へ、そして、「人材」を超える「人財」への転換が望まれている。「人財」への転換を図るべく「中部地区研究会」を自己啓発・自己研鑽の場として大いに活用していただくよう多くの会員の参加を期待しているところである。