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平成21年5月 第2358号(5月13日)

新刊紹介
  「大学進学の機会」
  ―均等化政策の検証―
  小林 雅之著

 今回も教育格差がテーマ。前回の本欄で取り上げた「学歴分断社会」(ちくま新書)の吉川徹や「学歴と階層」(朝日新聞出版)の苅谷剛彦らの格差論とは“隔たり”があるように読んだ。
 以前に紹介した著者の「進学格差」(ちくま新書)に比べ、豊富なデータと分析で埋められた分厚さにたじろいだ。こうした本を手にした時、“キーワード”を探すといい。それが見つかると読みやすい。
 「無理をする家計と学習・生活環境の劣った学生」がそれだった。無理をする家計は重い教育費を負担する家庭。学習・生活環境の劣った学生は生活費を切りつめたり、アルバイトを増やすなどしている学生を指す。
 要点は、〈無理をする家計と学習・生活環境の劣った学生の存在によって、彼らの意志とは関係なく、教育機会の階層性の問題が日本では大きな政策課題にならなくなった〉、〈無理をする家計と学習・生活環境の劣った学生が、結果として、日本における教育機会の不平等の問題を顕在化、深刻化させず、政策問題として重要視されなかったことを強く示唆している〉
 “隔たり”は、〈マクロレベルでは、教育機会の地域間あるいは所得階層間の格差は縮小している〉、〈高所得層に占められている国立大学というイメージは、目につきやすい東京の国立大学や高偏差値の大学によって作られたものである〉といった箇所。
 大学で教える苅谷剛彦と内田樹が中央公論三月号で「お金と学力」のテーマで丁々発止やっていた。著者が加われば、もっと議論が深まったはずだ。
 著者が言いたいのは、教育格差を政策問題にすべき、にある。でないと、無理をする家計と学習・生活環境の劣った学生があまりに可哀相だ。


 「大学進学の機会 均等化政策の検証」
 小林雅之著
 東京大学出版会
 03-3811-8814
 定価6000円+税

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