平成21年5月 第2358号(5月13日)
■高めよ 深めよ 大学広報力〈30〉
こうやって変革した 27
文京学院大学 地域社会との共生めざす
作新学院大学 地域に頼りにされる大学
大学のアイデンティティーというか、使命、機能、それは「教育」と「研究」とずっと言われてきた。ここ十年来、これに「地域貢献」が加わった。今回は、この地域貢献に力を注ぐ二つの大学を取り上げた。文京学院大学(東京都文京区向丘、島田Y子学長)と作新学院大学(栃木県宇都宮市竹下町、太田 周学長)。文京学院大は、学生たちが、提携先の小・中学校で教育活動の補助や部活動指導をサポートする「学校インターンシップ」を実施するなど「地域社会との共生」をめざす。作新学院大は、学生たちが「まちかど店舗再生事業」に携わり、学生主体の店舗経営に取り組むなど「地域に頼りにされる大学」をめざす。二つの大学に地域貢献の意義と実践、それに対する広報の関わり、地域活動以外の独自の取り組みについても尋ねた。
(文中敬称略)
「地域貢献」に力を注ぐ
“学住接近”の大学だ。文京学院大の本郷キャンパスは東京メトロ南北線東大前の二番出口を出ると、すぐ正門だ。徒歩0分。同大は、1924年、島田依史子が創立した本郷女学院が礎。91年、文京女子大として開学。02年、文京学院大学に改称、05年に男女共学化した。
本郷キャンパスに外国語学部、経営学部、保健医療技術学部(臨床検査学科2〜4年次)、ふじみ野キャンパス(埼玉県ふじみ野市)に人間学部と保健医療技術学部。学校法人文京学園が経営、併設校に文京学院大学女子中・高などがある。
共学化について、島田が説明する。「学内に検討委員会を設け、共学化を先行した四つの大学を訪問して助言をいただき様々な対応を行いました。卒業生や学内に反対がなかったのも幸いしてスムーズに移行できました」
続けて、島田は大学を語った。「本学は、『自立と共生』を教育理念とする実学教育を一貫して行ってきました。建学以来の精神を大切にしながら地域社会、多文化社会、企業社会との共生に貢献する学びに力を注いでいます」
学校インターンシップ
「地域社会との共生」では、2004年度文部科学省の現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)に同大の「地域活性化への貢献事業〜共生社会創造を図る地域貢献活動と雇用創出〜」が採択された。
「このプロジェクトでは、地域の行政やNPO団体などの諸機関と大学スタッフ、学生たちが連携して地域住民の子育て支援や高齢者や障害者の福祉・介護支援といった多彩なニーズに対応しました」(島田)
地域貢献の白眉は「学校インターンシップ」制度ではないか。島田が話す。「地域の中学校から『クラブ活動の指導ができなくて困っている』という話が来まして、何か(地元に)協力できないかと検討して実現しました。教職課程の取得に関係なく、2単位取れます。科目にして責任を持ってもらい、人間力を育てるのが目的です」
地元から感謝の言葉
地元からは感謝の言葉が届く。「英語で落ちこぼれ気味の生徒の指導補助をしてくれて有り難かった」、「吹奏楽クラブの顧問が転勤でいなくなったとき、学生がサポートしてくれて生徒も喜んでいた」
地域との交流は、これだけではない。文京区では商店街活性化を目的としたフリーペーパーを制作。ふじみ野市では、共生社会学科の学生達が地域の方々と協働し、休耕田再生プロジェクトを毎年実施、秋には、「収穫祭」も行って交流を深めている。
国際交流を「多文化との共生」と同大では表現する。学生数が同規模の米のセント・ジョンズ大と交換留学制を実施、中国の大学などとも交換留学を行っている。留学生受け入れの寮も設けた。「学生の半分は留学体験をさせたい」と学長の夢はふくらむ。
外へ出よう、の広報
広報について、入試広報センターマネジャーの大島拓也が述べる。「いろんな機会に、いろんな媒体に情報を発信することが大事だと思います。学長は『どんどん、外へ出よう』と学生に呼びかけています。いくら素晴らしいことをやっても、外に伝わらなくては意味がありません」
「外へ出よう」のひとつが外部の各種大会やイベントに積極的に参加すること。2月、経営学部の学生が文化庁メディア芸術祭のアニメ部門で審査員会推薦作品に選ばれた。昨年11月には、経営学部の四人が携帯電話回収システムの提案で日経ビジネス特別賞を受賞した。これらは各メディアに取り上げられた。
島田は、大学のこれからを語る。「(大学を)広げる時代ではないと思います。適正な規模を見極め、教育力をあげて社会に必要な人材を送り出していきたい。学生はもちろん、卒業生や保護者の方に『ここで学んでよかった』と言われ続ける大学でありたい」。最後に「ずっと」の三文字を付け加えた。
小粒でもキラリと光る
作新学院大学は、1885年、船田兵吾が創立した私立下野英学校が前身。1899年、下野中学校と改称。47年、下野中学校と作新館女学校が合併、高等部と中等部からなる財団法人作新学院に。67年、女子短期大学を開学。
作新学院大学は89年に経営学部の一学部で開学した。00年、地域発展学部、02年、人間文化学部を開設、05年、地域発展学部を総合政策学部に改組。現在、三学部と女子短期大学部からなるコンパクトな文系の大学。
学長の太田が大学を語る。「小粒でもキラリと光る大学をめざしています。生きた教養と専門的力量をあわせ持った学生を育てていきたい。学問とともに学生が地域活動へ積極的に参加することを鼓舞しています。大学は、社会の役に立つ存在だと思います。本学は、住民・企業・自治体から頼りにされる大学をめざしています」
06年度の文部科学省の現代GPに、同大の「衰退する都市郊外・近郊の持続的再生支援」プログラムが採択された。事務局次長の太田 寛が説明する。
「このプログラムでは、学生参加のまちづくりがコミュニティー再生の新しい可能性を拓く、をテーマに地域の人と一体になって取り組みました。それが具体的な形になったのは総合政策学部の前橋明朗准教授のゼミの学生が経営するチャレンジ・ショップです」
学生ショップが人気
前橋ゼミの学生は、06年、那須烏山市でチャレンジ・ショップ『ざ★ぱんち35』を開いた。地産地消(地元で生産、地元で消費)をねらって、カレーやスイーツを販売、売れ行きも良く好評だった。
08年には、鹿沼商工会議所の協力を得て、10月に『ざ★ぱんち21@鹿沼』を東武鉄道の新鹿沼駅前にオープンさせた。地元産のにらを生かした「にら焼きそば」や「にらチヂミ」が評判。学生10人が交代で店に出ている。
「こうした実務体験だけでなく、設置した地域センターを核に、栃木の歴史、文化、産業など『栃木学』を学ぶとともに、県出身で成功した経営者の講演会を開催しています。こうした実習と座学で、地域の中核となる人材を育てていきたい」(事務局次長の太田)
また、栃木県内には外国人が数多く住んでいる。日本語が理解できず困っている人も多い。昨年4月から人間文化学部の教員と学生たちがNPO法人の日本語教室を開講した。「少人数で教えてくれるのでわかりやすい」とブラジル、ペルー、ボリビア、中国の人たちに喜ばれている。
「本学は、県内出身者が78.8%と圧倒的。全国から学生を集める、のでなく地元の生徒を集め、育て、地元に返す循環ができたらいいなあ、と思っています。これこそ究極の地域貢献ではないでしょうか」(学長の太田)
就職率は大学98%、短期大学部100%。就職先は県内が多い。「教員とスタッフが一体となって、『面倒見のよい大学』をめざし、学生の個性と適性にあったキャリア選択が功を奏しています。作新学院の卒業生がさまざまな分野で活躍しており、そうしたOBの支援も大きい」(同)
教育の中身伝える広報
広報について、学長の太田が語った。「学園広報誌『作新の風』の発行など作新学院の法人広報におんぶしているところもあります。元巨人の江川選手以来、高校のほうは全国区です。大学も高校に負けず、広報でも小粒でキラリと光る存在になりたい」
具体的には?と尋ねると「大学は、どんな人材を養成するのか、を広報していくことが大事です。それは教育の中身を伝えることです。学生数に比べて教員数は国立大より多く少人数による面倒見のよさ、地域貢献、就職率の高さ、といった、うちのよさを、どんどん伝えていきたい」。山椒は小粒でも…太田学長は、そう続けたげだった。