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平成21年4月 第2357号(4月22日)

新刊紹介   格差の社会暴く 「学歴分断社会」   吉川 徹 著

 この国では、いま、格差が語られない日はない。地域間格差、世代間格差、教育格差、格差婚…右を向いても左を見ても「格差」だらけ。
 この現象を、著者は「格差論バブル」と皮肉るが、〈良い職に就くための手段にすぎなかった「学歴」が目標になった〉と、格差問題を生む主たる要因は学歴にある、と断じる。
 〈18歳で短大・大学に進学した大卒層と、残り半分の非大卒層の境界線を学歴分断線〉と呼ぶ。〈学歴分断線こそが格差現象の正体なのだ〉と言い切る。
 「学歴」というある種のタブーに切り込んだ志は立派だが、読んでいるうちに暗くなる。豊満なデータが重たく、希望や光明が眼前に見えてこない。かったるいのだ。この種の本の宿命か。
 それはともかく、大学全入問題に触れ〈日本社会が100年以上かけてやっと到達した高等教育の普及状況から、再び学校を間引いていかなければならないのは、何とももったいない〉と、こう続ける。
 〈この大学全入時代を招く最も大きな要因は、大学に行きたいと望む高校生が半数程度しかいないということにある〉、〈大学進学率50%は、調整しなくても頭打ちになるような「ガラスの天井」がある〉。これらの指摘は新鮮だ。
 わずかな光明は、@大学生が「高卒」と偽って採用された某市役所の学歴詐称事件、A安定した生活を送る山間地域の工場に優先的に正社員として採用される地元の高卒の若者―を紹介したくだり。ぬくもりがある。
 結論の〈大卒層も高卒層もメリット、デメリットを分け合いながら、お互いを尊重し、共生していく道を探らなくてはならない〉は筆を取った志に比べ凡庸すぎやしないか。

 「学歴分断社会」
 吉川徹著
 ちくま新書
 電話:048-651-0053
 定価740円+税

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