平成21年4月 第2357号(4月22日)
■高めよ 深めよ 大学広報力
こうやって変革した
3年かけて「改革」成就 手作りの広報 時代のニーズに対応
桜美林大学
何度も言うようだが、少子化、大学全入時代と大学を取り巻く環境は厳しさを増している。そこから抜け出すには「大学改革」は避けて通れない道である。現在、各大学において教育、研究、地域貢献といったそれぞれの分野で、様々な改革が行われている。日本の私立大学で初めて学部や学科を取り払って「学群」制度を取り入れるという大きな改革を行った大学がある。桜美林大学(佐藤東洋士学長、東京都町田市)は、3年がかりで、これを実施した。同大の学生は『リベラルアーツ』と、『プロフェッショナルアーツ』という二つの学問に溌剌と取り組むなど一定の成果を挙げている。この大きな改革の進み具合、そして、この改革に広報はどう関わったのか、このあたりを広報担当の副学長と広報部長に聞いた。(文中敬称略)
私大で初めて「学群」採用
桜は、この大学のためにあるみたいだ。取材に訪れた4月10日、大学に向かう通りは、満開を終えた薄いピンクの花びらが大乱舞、桜吹雪を体いっぱいに浴びた。米・オベリンカレッジに留学した創設者・清水安三がオベリンの生涯に建学の趣旨を重ね、学園用地が桜の林に囲まれていたところから、「桜美林」と名付けたという。
1946年、桜美林学園が設立され、高等女学校と英文専攻科を開設。50年に桜美林短期大学を設立、桜美林大学は66年に文学部英語英米文学科と中国語中国文学科の1学部2学科で開学した。副学長の大越孝が大学を語る。
「本学は、キリスト教主義教育により全地球規模で活躍できる国際人の育成をめざしています。英語や中国語など外国語教育に重点を置き、17ヶ国語のうち何カ国語でも自由に学ぶことができます。アメリカ、イギリス、中国、台湾、韓国など約100の大学への海外留学が可能です」
桜美林大の大きな変革は2005年度から行われた。日本の私立大学で初めて学部や学科の垣根を完全に取り払った「学群」制度を取り入れ、07年度にはすべての学部が学群へ移行した。学群制採用は、国立の筑波大学が嚆矢だった。
大越が説明する。「縦割りの学部制を、学群という時代のニーズに柔軟に対応できる新しい組織に作り直しました。これによって、学生は自由に学びながら自分の道を見出していく『リベラルアーツ』と、自分の夢や目標に向かって専門的なことを学んでいく『プロフェッショナルアーツ』という二つの学問に取り組むことができます」
リベラルアーツ学群も
05年、文学部総合文化学科を分離独立させ、総合文化学群を設置したのを皮切りに、06年、健康福祉学群とビジネスマネジメント学群を設置。07年には、文学部、経済学部、国際学部を融合させ、リベラルアーツ学群を設けた。07年、総合文化学群に映画コースを設置。ビジネスマネジメント学群には07年、キャビンアテンダントコース、08年、フライト・オペレーションコースを新設した。
「学群」という全く新しい制度を作ったからには受験生、保護者らに名称、そして、その内容を伝えなければならない。しかし、それらを一口で伝えるのは容易ではない。総合文化学群を設置した際の広報について、広報部長の神谷満男が説明した。
「総合文化学群は演劇、造形、音楽の3領域あります。説明するには、どうしても文字が多くなって印象に残らないと考え、新聞広告などでは、『Art College』を共通テーマに、劇作家・演出家の平田オリザ(05年度退職)ら3人の先生が学生に語りかける手法を取りました。広告関係者からは『大学の体温が伝わってくる』と好評でした」
大学の体温伝わる広報
08年、ビジネスマネジメント学群にフライト・オペレーションコースを設置したときも、マスコミ等で話題となった。同コースは、操縦士ライセンスを取得、民間航空の国際線・国内線で運航するパイロットを育成する。この広報宣伝も一味違った。大越が語る。
「新聞広告では、パイロット養成のコース開設を、3回にわたって『空へ』『翼よ』『夢を』というタイトルで、カラー、全5段で伝えました。さらに、ほとんど自前で3分間の広報宣伝の映像ソフトを作り、銀座と渋谷の街頭大型ビジョンで流しました。若者はもとより、OBからも反響がありました」
学群制を取り入れてから4年目に入った。大越に、学群制広報の進捗状況について尋ねた。「学群を知ってもらおう、と最初に設置した総合文化学群では、『Art College』を打ち出して広報宣伝を行ってきました。その後も工夫を凝らした広報を行い、ようやく学群制は浸透したのではないでしょうか。大学全入時代にさしかかりましたが、本学の受験生数は大きく落ち込むことなく確保できています」
同大の広報は、大学としての広報を司どる広報部(4人)と受験生への広報(入試)を担当するアドミッションセンター(10人)が同じ席に着く。副学長の大越が広報担当で、戦略広報会議を主宰する。
基本的なプレスリリースの発行状況は「必要に応じて発行しています」(神谷)。大きく広報するような強い大学スポーツはありますか?と問うと、大越は「うーん、強いのはマイナーなもの(スポーツ)が多いですかね…」と苦笑いした。
この取材のすぐあと、同大のソングリーディング部が全国紙に取り上げられた。ソングリーディングとは、ジャズやヒップポップに合わせて踊る団体のダンス競技で、〈桜美林大のチームは日本に敵なしで、今回、米国で開催される世界大会に出場する〉とあった。小さいが、桜の美しさのように凛と輝いているようだ。
どの大学も気にする、というより大学案内に掲載必須の「大学ランキング」について、桜美林大広報は懐疑的だったのが印象的だった。神谷が話す。
「大学ランキングの就職率や国家試験合格率などの順位を大学案内などに出して、その大学が可視できるでしょうか、そう考えると疑問です。受験生や保護者に伝えるべきは、あくまで中身です。やるべきことは、それを、繰り返し、積み重ねていくことだと思います」
みてきたように、ここ数年、同大広報部は、学群の広報宣伝活動がメインだった。広報として、どのようなところに力点を置いてきたのだろうか。神谷が続ける。
桜美林らしさ求める
「お仕着せの、画一的な広報は止めよう、とやってきました。桜美林らしさがアピールできる広報宣伝をめざしてきました。広告会社が持ってきたコピーやデザインに対しても、桜美林らしさをめぐって徹底的に議論します」
桜美林らしさとはどういうことですか?と問うと、大越が引き取った。「マンモスの私大や国立大とは規模や予算が違い、同じことはできません。身の丈にあった、手作りの広報。言い方を変えれば、自ら汗をかいて、何を打ち出すか、を常に自らに問いかける広報、ということかな」
学部制をやめて、学群制を採用するという、大胆な改革を3年かけて、いや、わずか3年で浸透させた。この自信が、こう言わせているような気がしてならない。桜美林大の改革、そして同大広報のチャレンジは、まだまだ終らない。