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教育学術オンライン

平成21年4月 第2355号(4月8日)

学士課程教育構築の方法論になるか
  企業のインストラクショナルデザイン活用(上)

放送大学ICT活用・遠隔教育センター特定特任教授 内田 実

 一、概要
 米国等ではインストラクショナル・デザイン(ID)は企業活動の中に深く組み込まれ活用されている。日本でもIDの活用は必須となってきた。
 本稿では、次項以降で「企業で活用されるIDモデル」「具体的な活用事例」「これからのIDの活用の方向」を説明する。
 まず、米国等での活用の経過であるが、筆者がIDという言葉を最初に聞いたのは一九八〇年代末のIBM社のID導入により一二%の教育費用削減という報告を読んだのが最初であった。(この頃はIDではなくISD:Instructional System Designと呼ばれていた。今でも米国ではISDということが多い)その後、米国では多くの会社がIDを取り入れ、自社の業務に合わせたIDモデルを開発し企業教育に適用した。
 やがては教育だけでなく品質管理や組織エンジニアリング、チェンジマネージメント等にIDが取り入れられていった。これらにおいては、組織に属する人員の能力変容が必要であり、そのためにIDを活用したのである。つまり、業務に必要なコンピテンシー(技術、知識、態度)を分析定義し、そのコンピテンシーで実施できる業務を明確にすることにより、企業能力の向上を図ったのである。

 二、企業で活用されるIDモデル
 IDモデルにはいろいろなものがあるが、一番知られているのはADDIEモデルである。ADDIEは、@ニーズ調査・初期分析(Analysis)、A設計(Design)、B開発(Development)、C実装/実施(Implement)、D評価(Evaluation)のそれぞれの頭文字を取っている。図1はADDIEモデルの中の分析プロセスをニーズ調査と初期分析に分けたLee&Owensのモデルである。
 これを元に企業におけるIDモデルを考えると「基本的インストラクショナルデザインモデル」と「入出力モデル」が考えられる。
 @企業における基本IDモデル(図2参照)
 企業においては、経営方針に基づき戦略を立て、それに必要な組織や人員、機材など、いわゆる「人・もの・金」を準備しなければならない。この中から教育ニーズが生まれる。
 また、企業における受講者は通常従業員であるが、現状の従業員の状態やその仕事、環境等を分析すると現場が必要としている教育ニーズが明確になる。このニーズを詳細に分析することにより、どのような人材が必要であるかを明確にすることができる。この人材は階層構造化されて組織体制となる。その必要な人材イメージの職務を詳細に分析し職務定義(Job Descriptions)を行い、現状との差を明確にすると教育体系、教育項目表(学習目標一覧)ができる。
 あとは、具体的な教育を企画、実施、評価していくことになる。
 A入出力モデル
 教育とはある条件の受講者を教育・学習というプロセスをへて新しい能力・コンピテンシー(技術、知識、態度)を持った人員に変容させることである。IDにおける入出力モデルは、教育結果としてのコンピテンシーを保証し、求める業務ができるようにすることである。
 タスク分析では理想的なタスクを詳細に定義する。もちろん、理想的タスクとは、正常時のことだけをさすわけではなく、障害や事故等の発生時などの理想的な対応なども入っている。この理想的なタスクを決定できたら、それに必要な学習目標を技術(Skill)、知識(Knowledge)、態度(Attitude)として定義する。
 この学習目標が教育結果として担保されなければならないのである。この学習目標を含む教育実施計画を教育機関の外にも公開しレビューを行う。学習者のコンピテンシー習得状況とそのコンピテンシーを利用した業務の実施結果を報告書として作成する。
 そして、図3の中には矢印は無いが、その報告を関係者全員に配布説明してレビューを受けるとともに分析結果や教育方法などにフィードバックするのである。
(つづく)

図1 ADDIEモデル


図2 企業における基本IDモデル


図3 入出力モデル


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