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平成21年4月 第2354号(4月1日)

高めよ 深めよ 大学広報力(27)
  こうやって変革した

 若者の「理工離れ」がいわれて久しい。どこの理工系大学、大学理工学部も受験生集めでは難儀している。そうしたなか、環境や「就職力」に力を注いでいる工業系単科大学、技術系女性のキャリア教育や「学長力」で気を吐いている情報工業系大学がある。前者は日本工業大学(柳澤 章学長、埼玉県宮代町)、後者は広島工業大学(茂里一紘学長、広島市佐伯区)。この二つの大学は、連載の前号(3月25日付)で女子栄養大学常任理事の染谷忠彦が述べた「“この大学の特長はこれだ”という確信が持てた時、大学は一校一校がすべて違うオンリーワンの存在になれる」という言葉と重なってみえた。工業の名のつく二つの大学を尋ね、理工離れや広報の体制、難しさなどを聞いた。
 (文中敬称略)

オンリーワンをめざして

大学の特長

日本工業大学
環境教育と就職力

広島工業大学
技術系女性 教育と学長力

 日本工業大学は、1907年(明治40年)、東京・小石川に設立された東京工科学校にさかのぼる。その後、東京工業学校、東京工業高等学校を経て、1967年(昭和42年)に日本工業大学が開学した。
 工学部の単科大学で、機械工学科、電気電子工学科、建築学科、システム工学科、情報工学科の5学科。今年4月から、ものづくり環境学科、生活環境デザイン学科を新設、システム工学科を創造システム工学科に名称変更した。
 環境系2学科を新設
 同大の理事・総務部長、藤田則夫が語る。「ものづくり環境学科は、工場の環境がわかる機械工学のエンジニアの養成、生活環境デザイン学科は、高齢者らの福祉、介護に向く建築物を作る手法などを学びます」
 環境系学科を新設したように、同大は環境教育の重視、環境への配慮を謳っている。藤田が続ける。
 「国際環境規格ISO14001の認証を取得、キャンパス全体がエコ・ミュージアムになっています。学生、教職員、学内外の枠を超えた環境分野研究奨励助成金制度を創設したり、あらゆる角度から環境に取り組んでいます」
 同大は、工業高校からの入学者が多い。現在は70%台だが、開学当初は100%だった。このため、出身高校によって入学後のカリキュラムが異なる。
 藤田が説明する。「工業高校卒業者は、基礎学力の強化を狙う『工学発展コース』、普通高校卒業者は、一からの工学知識を集中して学ぶ『工学集中コース』に分かれます。機械工学科は、『工学集中コース』が一から製図を学習するのに対し、『工学発展コース』では、製図実習を行います」
 また、工業高校の生徒向けの「日本工業大学建築設計競技」は22回を数える。昨年は68高校から295件の応募があった。07年からは「マイクロロボコン高校生大会」を始めた。いずれも人気が高い。「うちは、工業高校の教員になる卒業生が多い。彼らが全面的にバックアップしてくれています」(藤田)という。
 「工房」による教育も同大の自慢だ。実践技術と専門知識を平行して学ぶ教育プログラムで、「機械加工」「エンジン」「2×4木造建築」「ロボット創造」「ネットワーク構築」などがある。
 広報室主事の広瀬由紀子が語る。「学生個々の希望に合わせた様々な種類の工房で、ものづくりを体験します。同時に専門の理論やプロジェクト管理能力などの総合力を身につけ、実社会で活躍できる『カレッジマイスター』を養成します」
 就職率(就職希望者の決定率)は、ほぼ100%。昨年度は、「就職に『超』強い大学400」(読売ウィークリー、8月3日号)の「就職決定者数300人以上 就職率」で、前年に続き14位にランクされた。
 充実した就職支援
 「就職に強い理由は充実した就職支援にある」と藤田が胸を張る。「就職支援システムは、学生一人ひとりの就職活動状況が教員と就職支援課との間でリアルタイムに把握できます。本学の学生を採用したい約10000社の求人情報が業種別、勤務地別などで絞れ、希望する企業の把握が簡単になりました」
 大学広報は広瀬ら三人体制。プレスリリースは年20回以上、大学プレスセンターを通じて発行する。広瀬が最後に語った。
 「日本工業大学を知ってもらうのが原点。工業系しかアピールできないというハンディを逆に強みに、ターゲットをしぼってやっていきたい」。「ハンディを強みに」に力がこもった。
 女性の感性、資質生かす
 広島工業大学は、学校法人、鶴学園が運営する。1956年(昭和31年)、広島高等電波学校を創設。1961年、広島工業短期大学を開学。1963年に同短期大学を改組して広島工業大学が設立された。
 2006年には情報学部を設置して工学部、環境学部の2学部8学科から3学部12学科に再編された。情報環境工業大学といっていいかもしれない。
 現在、同大の学生に占める女性の比率は6%と決して多くはない。「この数字をもっと増やしたい」と学長の茂里は力説する。
 同大の女子学生キャリアデザインセンター(JCDセンター)は3月11日、公開シンポジウム「女性の働く環境について考える」を開催。講演「女性が活躍する社会整備に関するわが国の方向性と実践」やパネルディスカッションに230人が出席、盛況だった。
 JCDセンターは、同大の「技術系女子学生の継続的なキャリアデザイン」が文部科学省の2007年度「新たな社会的ニーズに対応した学生支援プログラム(学生支援GP)」に採択されたのとほぼ同時に設立された。
 学長の茂里が、JCDセンター設立について説明する。「女性の社会的活躍が急務とされる昨今、女性の感性、資質を生かせるよう、社会環境の整備は重要な課題です。女性が、自分なりのキャリアプランを描き、キャリアアップを図っていけるような支援を行うことが目的です」
 茂里は、ウエットに富む学長だ。大学のホームページのブログ「学長日記」は人気だ。昨年10月某日の「天国から見えますか?」の日記は泣かせる。学生の保護者が亡くなったとき、大学からの弔意とは別に、茂里は手紙を学生に書く。
 〈お父様のご逝去に関する知らせを受けました。つらい思いをされていることと拝察いたします。今は少しは落ち着きましたでしょうか。もう一年で卒業という時に、お父様も無念のことと思います〉
 手紙を「学長日記」で紹介しつつ、自らの気持ちを吐露する。〈亡くなられたお父様。仲間と一緒に、広島工業大学で勉強し続けている(息子さんの)姿が天国から見えますか〉
 広報担当の石津香世が話す。「威圧感のないフランクな学長です。オープンキャンパスにはフル出場で、自ら『学長カフェ』を設けて、高校生や保護者と語り合っています。ここで、うちの大学を受験することを決めた生徒もいます」
 月2回、就職相談も
 就職部には学長相談コーナーがある。「月2回、学生の相談に応じています。地元の企業経営者の集まりや高校訪問も積極的に出ています。(石津を指差しながら)こういう(職員の)人たちに使われているんですよ」。茂里は笑顔で語った。
 「うちは、卒業後も3年間、相談窓口を設けて、職場のあらゆる相談に応じています。離職率の低さが証明しています」(石津)。就職率96.9%、正社員率100%、専門職率88.3%、早期離職率12.2%…具体的な数字で説明した。
 大学広報力は、これまでは遅れていたという。「地域の大学として知名度など磐石だったのと、広報宣伝で学生を集めるものではないという考え方があった。少子化、理工離れといった厳しい環境を迎え、05年から広報面でも打って出ることにした」(茂里)
 PR会社の力を借りるなどして、「大学が見えるような形」の大学広報に舵を切った。茂里が取材の終わりに語った。
 「いま、第二ラウンド、4月からオープンする新講義棟『三宅の森 Nexus21』をシンボルに、様々な学生が楽しんで学べる大学を目指していきたい」。Nexusは「絆(きずな)」という意味だ。

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