平成21年3月 第2351号(3月4日)
■高めよ 深めよ 大学広報力〈24〉
志願度1で存在感示す 「就職」と「資格」で人材を育成
名城大学
こうやって変革した(21)
東京と大阪という大都市圏に挟まれた名古屋の大学。“両雄”の間で、どのように存在感を示そうとしているのだろうか。少子化や大学全入で厳しさを増す全国の大学にあって、ちょっと気になるところ。この名古屋を含む東海エリアで「大学志願度」ナンバーワンになったのが名城大学(下山 宏学長、名古屋市天白区)。志願度トップになったのは、どのようなことを行ってきたのか、それを、どう広報してきたのだろうか。大学人なら誰しも知りたくなる。東京と大阪の間で存在感を示してきた源泉
を取材した。名城大は、これまで就職率は際立って高く推移してきたが、ここへ来て、ご他聞にもれず、世界同時不況の波を被っているという。そのあたりも合わせて尋ねた。(文中敬称略)
東京と大阪の間で奮闘
名城大は一九二六年、名古屋高等理工科講習所として開校。四七年、名古屋専門学校設置。四九年、名城大学開設(商学部のみ)。五〇年、法商学部・理工学部・農学部を増設。五四年、薬学部、〇三年には人間学部を設置。現在、八学部・二一学科、在学生一七〇〇〇人を擁する総合大学。
東海エリアで「大学志願度」トップになった調査は、「高校生に聞いた大学ランキング2008」(リクルート調べ)で、高校三年生を対象に行った。ちなみに、関東エリアでは早稲田大学、関西エリアでは関西大学だった。
就職決定率99・5%
ランキングついでに、「就職率全国総合ランキング(文系)」(週刊東洋経済、〇八年十月十八日)を見てみると、同大の都市情報学部が同率トップ(九七・三%)になっている。
このように「就職力」には実績があり、大学としても力を入れている。〇七年度の就職決定率は九九・五%で、従業員五〇〇人以上の大企業への就職率は五四・三%。広報を担当する常勤理事の池原喜忠が説明する。
「本学は、学生生活を『就職』と『資格』の両面を組み合わせた体制で、社会に求められる人材の育成を進めています。この体制によって学生、卒業生は社会から評価を得ており、結果的に就職に強い名城大を実現しています」
東京と大阪の谷間にある名古屋だが、大阪と並んで「ものづくり」の街。就職率は立地条件も影響する。愛知県は、世界のトヨタを抱え自動車産業などが地域を支えている。工業出荷額四〇兆円、製造業就業者数九八万人(いずれも〇五年度)と、二位に大差をつけてトップ。自動車産業は、完成した車に限らず、繊維、機械、金属、セラミックなど裾野は広い。
広報課長の青山和順がキャリア教育について説明する。「就職の支援では、一年次から進路支援講座や各種ガイダンスを開講、卒業生らで構成する『就職アドバイザーネットワーク』登録者が就職相談にあたっています。一六万人を超えるOBのバックアップも強い味方です。
学生一人ひとりの考え方に合わせたキャリアアップを実現するため、一年次から四年次まで一人の指導担当者がサポートする『個別指導担当制』を実施。資格取得の支援やインターンシップの紹介などの指導を行っています」
青山によると、インターンシップのランク(学生参加数)は全国で一九位(中部地区でトップ)、出身大学社長数は全国で二二位(中部地区でトップ)、上場企業役員・管理職数は中部私大トップ。〇七年度の求人社数は五年連続増加の一万六一六社。こうしたランキングは同大の「大学案内」で紹介するなど「広報力」もなかなか強かだ。
順調に推移してきた「就職率」だったが、昨年来の世界同時不況の影響で厳しくなっている。池原が語る。
「不況の影響はじわじわときています。今回、内定取り消しになった学生は一〇人出ました。キャリアセンターの就職支援グループが責任を持って不安をなくし、就職先の世話をしています。就職に向けて動き出した三年生への影響も少なからずあると考えています。学生には、危機意識と緊張感を持って就職活動にあたるよう指導しています」
名城大にはユニークな一七歳で入学、二〇歳で大学院進学も可能な「飛び入学制度」がある。理工学部数学科が、高校二年修了者(一七歳)を対象として導入。卓越した能力と柔軟な思考力を有する高校二年修了生を受け入れて、早い段階で高等教育の機会を提供するのが目的だという。
「入学すると全員が奨学金給付生となり、授業料・実験実習費が支給されます。既成の学問の枠にとらわれない特別授業(総合数理プログラム)を受講します。拠点となるのが各種の実験機器やコンピュータを備えた『総合数理ボランティアサロン』で、飛び入学生をはじめさまざまな世代の受講生が集い、自然科学や社会科学を幅広く学びます」(青山)
ノーベル賞候補が2人
飛び級と重なり合いそうだが、昨年、京都産業大の益川教授がノーべル物理学賞を授賞して京産大志願者が急増したのが話題になった。実は、名城大には、ノーベル賞候補が二人いる。カーボンナノチューブを発見した大学院理工学研究科の飯島澄男教授と青色発光ダイオード(LED)の発光に世界で初めて成功した同研究科の赤ア 勇教授。
池原が語る。「今年も記者会見の準備などノーべル賞受賞の対応はとっていました。残念ながら今回は見送られましたが、朗報は来年以降に持越しです。理工学部の一年生の学科選びでは、飯島先生と赤ア先生の研究実績への関心の高さを反映して、関連学科の材料機能工学科を選ぶ学生が増えているそうです」
名城大スポーツも頑張っている。女子駅伝部は全日本大学女子駅伝対抗選手権大会(優勝一回)、全日本大学女子選抜駅伝競走大会(準優勝二回)常連校。女子駅伝ではOB、在校生が一体となって応援、母校愛を確認し合うという。
「昨年十月、仙台で開催された全日本大学女子駅伝では、二年連続の三位。アンカーの四年生の佐藤絵里選手は区間賞を獲得しました。四年生は佐藤選手一人という若いチームですので、来年に大いに期待しています」(青山)
広報が現在、力を入れているのは、「MS―15」の徹底。「Meijo Strategy―2015」の略称で、二〇一五年(平成二十七年)までの名城大の基本戦略。「名城育ちの達人を社会に送り出す」をミッションステートメントとして、長期と中期のビジョンがある。
二〇一五年をマイルストーンとした長期ビジョンは、総合化、高度化、国際化により、広く社会に開かれた日本屈指の文理融合型総合大学を実現する。二〇一〇年までの中期ビジョンは、社会から評価される大学をめざして、教育力、研究力、就職力、社会力、資源力の向上に努める、というもの。
最近の広報の成功例
池原が、広報との関わりを語る。「このMS―15は、二〇〇五年に策定、二〇一五年までの戦略構想をコミュニケーションツールとして発信し続けています。卒業生や父母に信頼される大学ブランドの確立という広報としての目標もあり、これを学内外に、どう広報していくか、日夜、腐心しています」
最後に、青山は、最近の広報の成功例を話してくれた。それは、この一月、景気の悪化を受けて、一般入試に合格して四月に入学する新入生のうち、家族の失業や給与削減で家計が急変した学生に対して、前期の授業料を免除する―という記者発表だった。
「不況を理由にした新入生への経済支援は中部地方では初めてだったので、新聞各紙も大きく取り上げてくれました。広報は時代をつかみ、タイムリーで、かつ素早い対応が大事なことを改めて学びました」(青山)。名城大広報は、奢ることなく東京と大阪の間で強く、巧く存在感を示している。