平成21年2月 第2348号(2月11日)
■[新刊紹介]
「進学格差」小林雅之著
入り込みやすい本である。〈大学教育は、いまや持ち家に次ぐ、人生で二番目に高い買い物なのだ。それでも、我が子の教育には金を惜しまない。そんな親の思いが日本の高い大学進学率を支えてきた〉と書き出す。
第一章から“直球”だ。〈(教育機会や進学の費用負担が顕在化しなかった背景には)親が子どもの教育に要する費用を負担するのは当然だという社会の風潮がある。(中略)皮肉にも「無理する家計」とアルバイトに精を出す学生の存在が所得階級間格差を社会的問題とさせなかった〉
第二章では、〈自宅通学ができる地域と自宅外通学をしなければならない地域の高等教育機会には大きな格差がある〉と断じ、大学進学率の地域別格差、教育観の性別格差、所得階層格差をあげて立証する。平易な文章に理詰めの説得力が嵌っている。
終章の第五章で、〈家計の経済力が進学を規定するようになれば、親世代の高所得層→子世代の高学歴→子世代の高所得層という教育による社会階層の再生産構造が強化される〉と、〈教育による格差の拡大を防ぐためにも公的負担が求められる〉。この正論が実現されない背景にもっと肉薄して欲しかった。
いくつかの提言をしている。奨学金のあり方や機関補助と個人補助の再検討も意に適うが、共振したのは寄付・基金の強化。〈日本にとって参考になるのは、多額な寄付に基づく基金が支えるアメリカの大学独自の奨学金〉で、〈日本にも寄付募集や基金創設など資金調達の多元化が見え出したのは明るい材料〉と書く。
惜しむらくは、資産運用取引で駒澤大学が一五四億円もの損失を出すなど“資金調達の多元化”の事件に触れられていない。原稿締め切りの関係だろう。下司の勘ぐりになるが、事件が書き込めたら「提言」は変わっていたのだろうか。
小林雅之著
ちくま新書
電話:048-651-0053 定価:680円(+税)