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平成21年1月 第2343号(1月1日)

PDCAサイクルの構築がカギ 認証評価2サイクル目に向けて

日本高等教育評価機構 評価事業部長 伊藤 敏弘

 財団法人日本高等教育評価機構(佐藤登志郎理事長)は、平成十六年に私立大学等に対して第三者評価を実施する機関として発足した。翌十七年、大学の認証評価機関として、文部科学大臣から認証された。その目的は、大学の自律的な改善・発展を支援し、教育研究活動等の質の保証をすることである。特徴として、@大学の特性・特徴に配慮し、個性を重視した評価を行うこと、A各大学の規模や構成に合わせて選任された大学の教職員を主体とした有識者による評価(ピア・レビュー)を中心に行うこと、B大学と評価機構とのコミュニケーションを重視しながら評価を実施することなどを挙げている。一方、認証評価制度は平成十六年四月一日に始まり、全ての大学、短期大学及び高等専門学校は、その教育研究水準の向上のため、教育研究、組織運営などの総合的な状況に関して、七年のサイクルで評価を受けることが義務付けられた。あと一年で認証評価が二サイクル目に入るが、社会情勢の変化とともに、教育振興基本計画、中央教育審議会の「学士課程教育の構築に向けて」、九月に諮問された「中長期的な大学の在り方について」、あるいは、大学分科会「評価機関の認証に関する審査委員会」の審議なども影響し、今後、当初の評価のあり方から変容してくるのではないかと推測できる。一サイクル目の経験を踏まえて、認証評価の現在の状況、認証評価上の課題、あるいは、二サイクル目を受けるに当たっての注意点や変更点を、同評価機構の伊藤敏弘評価事業部長に解説してもらった。伊藤部長は、PDCAサイクルの重要性を指摘するとともに、目標の明確な設定が重要であると訴える。

 ―認証評価制度が始まり六年目となります。これまで評価事業部長として各大学の評価を行った率直な感想を。
 私立大学の評価を、二〇〇七年までの三年間で五八大学、二〇〇八年度は五八大学の評価を実施しています。
 その中で感じることは、PDCAサイクルの重要性です。PDCAサイクルは、目標(プラン)、実行(ドゥ)、評価(チェック)、改善(アクション)を行い、教育と経営の継続的な改善を行っていくためのマネジメントシステムです。
 大学として何をするのか、どこに向かうのかといった明確な目標を掲げた上で、その達成に向けて実行をし、取組がどうだったのかを評価します。
 しかし、目標が明確に設定されている大学が少ないように感じます。自己点検を行うために学生などからアンケートを取って情報収集をして、客観的な分析を試みようと努力する大学もあるのですが、それも目標が設定されていないので、分析結果をどのように生かすのかがはっきりしていない場合もあります。
 評価結果をその後の改善に繋げられなければ、評価自体が重荷になってしまうのではないかと思います。
 また、評価には自己評価と外部評価がありますが、我々が行っているのは外部評価です。しかし、重要なのは自己評価です。
 自己評価では、データやエビデンスを収集して、現状がどうなっているのかを自己分析します。重要なのは根拠であって、単なる感想文ではいけません。こうした自己分析を下に、自己評価をするわけです。
 今後の改善方策で、「これが課題である、これを検討すべきである」と、まるで他人事のようなコメントを自己評価報告書に書いている大学もありますが、それは評価機関である我々の仕事で…(笑)。
 ―環境マネジメントシステムの認証である「ISO14001」を認証取得している大学などは、感覚的に分かりやすい。
 国際標準化機構(ISO)の環境管理(14001)や品質管理(9001)、情報セキュリティ(27001)などの第三者認証では、その認証を継続するためにマネジメントサイクルを構築し、PDCAサイクルを運用することが求められています。
 この運用は、我々の求めているPDCAサイクルと同様のものなので、こうした認証を取得している大学は感覚的には理解しやすいと思います。
 一方、認証評価を、文部科学省の設置審査のようにイメージしている大学があるのではないかと感じます。ある一定の基準があって、「これだけやれば」、「この基準までやれば」、「他の大学がやっているから」と、評価が目的化してしまっている大学です。審査に通れば、それで一安心で、後は何もしないのでは困ります。第三者評価は、PDCAサイクルという継続的な改善の循環の中の、一つのチェックポイントでしかありません。
 ―認証評価後に評価機構からのフォローアップはありますか。
 せっかく認証評価を受けて頂いて、「はい、終わり」ではしようがないので、評価後のフォローアップも検討中です。どのくらいの負担で効率的にできるのかを検討しているところです。
 現在は、認証評価後のフォローアップは原則として大学にお任せになっています。大学が評価は“負担”としか受け止めていないようなところも感じますので、大学自身の改善のためという意識が浸透するまでにはしばらくかかると思います。
 繰り返しますが、評価のための評価、評価機関からの指摘がなければ特にその後の改善をやらない、それでは意味がありません。
 ―評価体制の構築のポイントは何ですか。
 キック・オフの時点で、全教職員が関わる意識付けとシステム作りができればよいと思います。ある程度準備が進んでしまってからでは、「自分たちには関係のないところで、なにやら上の委員会などで勝手にやっている」と見られてしまいます。
 今後の方針を決める中で、今はどういう状況なのか、現場に知ってもらえる機会として、何が問題で今後どういう方向に向かうのかの意識を持ってもらって、自己評価に全員が関わってもらうことが良いと思います。
 評価機構のスタッフに、「学内の意識改革に来て欲しい」という要請もあります。学内の担当者がいくら説明してもなかなか聞いてもらえないこともあるから、研修会で外部講師として話してもらって意識改革をやるのは、とても効果的だと思います。
 自己評価報告書の作成についても、留意点や今後どういう作業が関わってくるのかを予め共有しておきます。そうでないと担当の教員が個人的に書いてしまって、それで「これが報告書」と提出されても、後から内部ではなかなかものが言えないでしょうしね。
 ―評価担当者(リエゾン・オフィサー)の適性はありますか。
 一概には言えませんが、文部科学省の設置基準の申請などに関わっており、かつ、大学全体を知っていて、必要な担当者にすぐに声を掛けられる人がよいのではないでしょうか。
 一一項目の評価基準には設置に関するものも多いので、大学関連の法令や、それに関係する提出物が理解できていると、評価内容もどういうものかがイメージできやすいと思います。
 それから、大学全体を知っていて、内部の様々な担当者にすぐに声を掛けられるということも非常に大事です。こちらの質問に答えられる人が分からないので、ドタバタしてしまいますね。
 大学によって事情は異なるのでしょうけど、設置基準も担当したことがあり、大学全体を把握している事務局長、総務部長などがこれまで多く登録されています。
 あるいは、最近ではインスティテューショナル・リサーチ(IR)部門を設置し、大学のあらゆるデータを収集、どのデータがどこの部署にあるのかが、はっきりと分かるような体制にし、その部署の方が担当者であれば、うまくいくのではないかと思います。
 ―受けた大学からの声はどうですか。
 アンケートでは、「自己点検評価をやって、自分の大学を見直すことができた」、「学内の意識が高まった」、「新しいことをやるにしても、協力してくれる先生が増えた」といった声が聞かれます。評価結果というよりは、評価を受けるプロセスを通じて、いろいろと知ることができたと。評価結果よりもプロセスの中で学内の見直しを皆で共有できたところに意味があると思います。
 ―評価結果を活用できている大学と出きていない大学の違いは何ですか。
 トップの意識です。
 トップが、「義務でしょうがないからやらなければならない」と考えるか、「やるからには活用しよう」と考えるか。
 非常にうまく評価を活用している大学もあります。新しい試みを始めた大学が、その評価のために認証評価を使ったり、大学改革や戦略の構築に利用したり。トップの意識が変われば教職員も変わりやすいですね。
 ―二サイクル目はどうなってきますか。
 昨年十二月二十四日に中教審から答申された「学士課程教育の構築に向けて」の内容なども評価のポイントになってくるかと思います。特に、学習成果とプログラム評価が大事と考えます。答申は多岐にわたるので、どれをどのように評価基準に盛り込むかは頭の痛いところです。
 また、今回の答申がでたことで、大学の取組がPDCAサイクルではなくて、「これをやればよい」という基準化してしまう恐れもある。個性化や多様性とは逆行しているのではないかなと。
 基本はPDCAサイクルであって、繰り返しになりますが、目標を立てたものに対して、どうだったかという基本があった上で、社会の変化に対応する。それができていればいいですね。
 ―PDCAサイクルの周期はどのくらいの長さが良いのですか。
 法律では認証評価の実施は七年に一度と定めていますが、文字通りにPDCAサイクルを七年周期で回せばよいものではありません。
 かといって、無目的に毎年やればよいというわけでもないので、何年サイクルにするかの判断は難しいと思います。また、大学全体のサイクルと、各部署でのサイクルが異なる場合もあるでしょう。
 担当者の異動が多い部署は毎年やるべきだし、成果が一年では見えない部署では二〜三年で一サイクルでも良いのでは。
 ―一サイクル目での指摘が問われることもありますか。
 一サイクル目での評価で、「改善向上計画を書いて下さい」とお願いをしています。評価を受けた大学では、この自己評価報告書を作成しているはずなので、作成後はどのように実行されたか当然質問されるでしょう。
 二サイクル目において、一サイクル目の評価は関係ないのではなくて、前の評価を絶えず見直さなければなりません。そういう意味では、二サイクル目の方が、目標に対してそれができていなければ、指摘は強くなると思います。
 担当者が異なる場合は、きちんと引き継げているかどうかも大事なポイントになるでしょうね。
 ―今後評価を受ける大学、あるいは、二サイクル目に向けてのアドバイスをお願いします。
 ほとんどの大学は、評価を受けるのは初めてです。だから、分からないことも多いと思います。そういう時は、評価機構に遠慮なく問い合せて欲しいと思います。連絡が来なければ、こちらもアプローチのしようがないのです。分からないことは、コミュニケーションを通じて確認していただくことが大事だと思います。
 評価機構では、大学からの要請があれば評価の事前相談も行っています。大学によっては、二回来て欲しいというところもあれば、全く連絡がないところもあります。相談を通して、よりよい評価にして行きたいと思います。評価機関のための評価ではなく、大学のための評価なのですから…。
 まだ、受身の大学がほとんどです。しかし、一サイクル目を受動的に受けたか、能動的に評価を使うかでその後の意識も運営も違う。今後七年間で相当差が出てくるのではないかと思います。
 是非とも、評価を「改革の機会」と能動的に捉えていただければと思います。

 伊藤敏弘(いとう としひろ)氏
 米国オレゴン州ポートランド州立大学経済学部卒業
 一九九三年 日本私立大学協会へ入職
 一九九七年 同協会事務局主任
 二〇〇五年 財団法人 日本高等教育評価機構 評価事業部長
 執筆は、教育学術新聞アルカディア学報、学校法人、IDE、『国立大学法人化の衝撃と私大の挑戦』発行所:エイデル研究所、大学教育学会誌、『よくわかる認証評価発行所』:エイデル研究所等

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