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平成20年12月 第2342号(12月17日)

高めよ 深めよ 大学広報力〈16〉
  きめ細かい指導で実績 生き残りは学生募集 画期的な「資格特待生」

こうやって変革した(13)

 小さな大学のでっかい改革を取り上げる。共愛学園前橋国際大学(平田郁美学長、群馬県前橋市)は一学年約二〇〇人の地方の小さな大学。九九年の開学から三年間ずるずると志願者、入学者が減少していった。何とかしなければ、とプロジェクトチームをつくり生き残り戦略を練った。そして、英検二級などの資格があれば授業料全額免除といった様々な戦術を編み出した。それに沿って改革を遂行、翌年から志願者・入学者とも増えていった。志願者は現在も増減はあるものの順調で、就職状況も好転した。この改革の立役者に生き残り戦略を聞いた。彼の渾身のレポート(要旨)も許諾を得て掲載した。これぞ大学広報力。(文中敬称略)

共愛学園 前橋国際大 小さな大学の改革力

 立役者は、前橋国際大で入試、就職そして広報担当と、“一人三役”の入試広報・就職センター長の岩田雅明。岩田が「私学経営」(2008・12月)に寄稿した「地方・小規模大学の生き残り戦略」のレポート(下に掲載)は大学関係者に大きな反響を呼んだ。
 岩田に聞きたいことは、大半、彼のレポートに記されている。別項のレポート(要旨)では総論を掲載、ここでは各論、具体的なことを岩田に質した。
 改革の嚆矢となった資格特待生制度を発表したときの受験生の反応を聞いた。岩田によると、「本当に全額ですか」という驚きと「制度のお陰で進学が可能になりました」という感謝の声が交錯したという。
 次に、「大学の生き残りはイコール学生募集だと思うんです」という岩田に同大改革で行った学生募集の手法について尋ねた。
 「うちを志願する高校生の多くは進路を選択する際、いろんな大学を順に検討するのでなく、何か一つの視点や体験をもとに選ぶんです。大学に請求した資料に親切なメッセージがあったとか、進学相談会で説明してくれた人が役に立つ話をしたとか。
 ひとつ良い点に目が行くと他もよいと思い込んでしまうのです。そこで、オープンキャンパスや進学相談会では、『良い感じ、体験』のみを与えることを心がけ、大学の中身も“良い感じ、体験”が多いものになるよう改善してきました」
 『良い感じ、体験』を一貫して与え続けるためには大学がどういう方向で学生を教育していくか、どういう大学像をめざしているか、という学内の共通理解も肝要。キャッチコピーを作るのも効果的だという。同大は「ちょっと大変だけど実力のつく大学」を作った。
 岩田のアイデアだった。「楽しいキャンパスライフ」というような甘ったるいコピーが氾濫するなか、この「ちょっと大変だけど」は異質だった。「逆に変わっているのが注目されて、大学名を覚えてもらうためにも大変有用でした」
 さて、具体的な広報活動はどう行っているのか。岩田は、こう確信している。「うちのような入学定員二〇〇人の大学では二〇〇人プラス一〇%程度の入学者が得られれば学生募集(入試広報)は成功といえる」。こう続けた。
 「うちのような大学の規模では、広報活動でマスの広告媒体を使う必要はありません。関心を持ってくれた高校生をいかに繋ぎ止め、出願に至らせるかに主力をおくべき。『関心を持った高校生』という母集団を形成する必要がある。第一次的には受験雑誌やウェブサイトが中心になります。
 第二の広報手段が大学のHPやパンフレット。いずれも高校生が進路選択のさい、重視する媒体なので毎年、相当な力を注ぎます。制作会社任せにせずに自分たちで作るべきです」
 学生募集と就職を同じ部署で担当していることについては「うちは人が少ないから何でもやらないと…」と屈託なかった。そして「高校の先生はビジネス社会の情報に弱い。学生募集で高校に出かけ、大学生の就職事情を合わせて説明して喜ばれたことも多々あります」と笑顔で語った。
 就職支援にも力を注ぐ。就職担当者は岩田と同様、キャリア・コンサルタントの資格を取得。内定者には「内定キャンディー」を送るセレモニーもやる。近年ではANAなど大学生の人気企業や上場企業への内定者も出るようになった。
 前橋国際大が開学して十年経たないうちに群馬県内の私大は一〇大学と三倍以上になった。「入学してよかったか」を入学一期生に尋ねたとき、「そう思う」が三五%だった。それが卒業時は六〇%になり、今年の卒業生では、八六%までに上昇。「入学して力がついたか」も、今年は「そう思う」が八〇%になった。
 この学生の「満足度」アップには、教員らの「きめ細かい指導」が背景にあるようだ。「開学以来、非常勤講師を含めた全授業で授業評価を実施しています。高評価の教員が模範授業をしたり、逆に評価の低い教員は学内外の研修参加を義務付けています」(岩田)。
 岩田は、東京都立大学法学部卒業後、共愛学園に勤務、短大、大学の企画・交渉・設立に従事。現在、大学の入試広報と就職の責任者。「キャリアプランニング」などの授業の企画と、講座の一部も担当する。
 岩田は、いまの気持ちをレポートの最後に、こう書いた。
 〈私も以前はライバル大を蹴落として、自分の大学を何とか勝ち組にしようと努力したときもあった。しかし現在は、競争関係を維持しながらも、共存の道を探るべきではないかと考えている。(中略)厳しい環境の『地方』ではあるが、調和の取れた存続を、適度な競争環境の中で実現する道を今後とも求めていきたいと考えている〉
 岩田のような大学人が、日本私立大学協会の仲間にいることを誇りに思う。

「地方・小規模大学の生き残り戦略」(要旨)

 地方にあり、規模も小さな大学にとっては、大変な時代になったと思う。実感としては、大規模な量販店に押されている、街の小さな商店といった感じである。
 前橋国際大学は九九年、国際社会学部社会学科の一学部一学科の群馬県内で三つ目の私大として開学。入学者は初年度こそよかったが、開学から三年間、ずるずると減少した。
 〇一年、プロジェクトチームを編成して戦略を練る。入学者の減少要因を調べた結果、「学ぶ内容がわかりにくい」ということに収斂した。そこで、受験生に学ぶ内容が明らかになるよう、「英語」「国際」など四つのコースを作った。
 同時に、応募者の増加策として「資格特待生制度」を設けた。実用英語検定二級など指定の資格を取得した者は全員授業料を全額免除にした。入学試験の結果に関係なく特待生になれる画期的なもの。翌〇二年は志願者、入学者とも増加した。早い時期に戦略を練ったのは結果的によかった。
 定員割れしている大学には、それなりの理由がある。@大学はこれまで学生募集に苦労しなかった、Aつぶれた大学がほとんどない、B大学トップは任期が短く長期的視点に立った思い切った改革を行う土壌が乏しい―などによる。
 “大学進学”というマーケットは@大学を卒業した人がリピーターとして再び顧客になることはないA社会人、シニアをターゲットにした入試は地方の小規模の大学ではマーケットになり難い。やはり、高校生をターゲットに、高校生が魅力を感じる大学創りに大学のパワーを注ぐべきだ。
 基本的な戦略として大学がまず行うべきことは、高校生とその保護者の根本的なニーズに応えること。それは「社会で生きていくために必要な知識・知恵を身に付ける」こと。このためには、@社会の力を借りる、A学生のコミュニケーション能力の向上を図る―ことだ。
 ニーズを満たす手段として「ウォンツ」を考える必要がある。大学のケースでは『社会福祉』『経済』『外国語』など学部、学科への入学志願となるが、これらは社会環境や時代のトレンドで変化する。現在の設置状況や将来の必要性を予測することが肝要だ。
 「福祉」とか「看護」とか、社会の必要性が高まると、どの大学も設置するが、すぐに供給過剰になる。地域としての適切な供給を意識すべき。「ウォンツ」を考えるとき有用なのが「SWOT分析」といわれるものだ。
 長期的な戦略としては、成功している根本的な原因を探り、その中から独自性を構築していくべきだ。戦略は実行されて初めて成果が出る。なぜ、この国では、立案された戦略が実行に移されないのだろうか。
 それは@戦略が抽象的である。戦略はどう行動すべきかがわかる具体性がなければだめだA実行を先送りする風土にも原因があるB実行を担当するスタッフの意欲が低い。自ら参加し、意見を言い、納得できた戦略は「自分の戦略」になる。
 大学は、コンサルタントなど外部の知恵を使うことが多い。しかし、大学は自ら知恵を絞って戦略を立案、自分自身で遂行すべきである。大学のことは大学の人間が一番知っている。答えは全て、内部にある。
 様々な事情から地方の大学に入学したい、あるいは入学せざるを得ないという高校生は必ず存在している。地方の小さな大学も生き残っていかなければならないのである。
 同時にそれぞれの地方にあって、それぞれの大学の存続の必要性は必ずあると思う。人間社会での適切な生き方を教えるべき大学は、自らが社会で秩序あるあり方を示す必要があるのではないだろうか。(前橋国際大学 岩田雅明)

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