平成20年12月 第2342号(12月17日)
■"強い"経営を目指して 中期計画の実質化D
戦略遂行の先頭に立つリーダー 若手チェンジリーダーの登用も
リーダーによる戦略分配
戦略を遂行するには、トップの強いリーダーシップが求められる。今日のリーダーには、先見性のある戦略を明示すること、構成員に戦略を浸透させ納得を得ること、そして構成員の行動を目的達成に向けて組織することが必要だ。戦略への確信、責任感、信頼性、そして先頭に立って改革を推進する強い姿勢が求められる。しかし戦略は一人では実現できない。
ここに「戦略の分配」という手法がとられることになる。戦略をテーマごとに組織や個人に分配し、課題に落とし込んで行動指針とし、組織的に実現するものだ。戦略の全体目標と分配する部門目標との関係性や整合性を、明確に説明づけることがポイントとなる。戦略の部門の位置づけや意義の理解を前提に、分配する組織や人(責任者)の特定、期限の明示、権限の付与等が必要である。
戦略の分配は会議体で行われることが多いが、一般に課題遂行責任(者)や期限が曖昧な場合が多い。方針決定の際は、「誰が、いつまでに」を常に意識することが、実行性を保障する要件である。
では研究所調査を基に数大学のリーダーシップのあり方、特徴を見ていく。
トップと現場の連結
静岡産業大学の大坪 檀学長は、厳しい環境の中での大学再生には戦略の再構築が不可欠だとし「静岡産業大学の理念とミッション」を提起した。
教育に特化した大学モデル作りを掲げ、授業料に値する教育の品質を問うと共に、教員に教育のプロへの変身を求めた。戦略は大学全体の長期の行動基盤であり、建学の精神を誰でも解るよう構成員に伝達し続ける必要がある。そしてこれに基づき年度ごとの学長、学部長方針を提示する。
特筆すべきは、この方針提起に止まらず、方針の達成度報告などフィードバック、コミュニケーションシステムを整備した点だ。学長用、学部長・事務局長用、委員会用、教員・職員用に作られた業務報告書は、分担された課題の遂行状況をチェックすると共に、実践した上での課題、提案や要望、工夫、貢献策などをも記載する。「方針管理制度」と総称されるこれらのシステムは、掲げた目標を具体化し、創造的に推進する上で重要である。
まず学長方針で課題ごとに執行責任者を明確にし、その進捗状況を月次、四半期、年次で報告させる。この「活動状況」「業務実績」報告と合わせ、「提案要望事項」「事務改善・要望事項」等で知恵やアイディアを記載している。単に計画が出来たかどうかだけでなく、方針の実践過程での問題点や改善点、さらには様々な提案事項や要望を集約することによって、方針がより現実を踏まえて遂行できるようになる。これらを一冊にまとめて閲覧・配布し、情報公開と政策・方針の共有を図っている。
リーダーシップの発揮
山梨学院大学は、「個性派私学の旗手」をキャッチフレーズに、地方にありながらブランド確立の戦略を明示し、実行してきた。
経営の四つのコンセプトを掲げ、重点育成サークルに多額の投資を行い、全国的な知名度を上げる活躍を作り出すと共に、ロースクールや小学校、現代ビジネス学部を設置するなど積極的に事業を展開してきた。また特色・現代GPを七つも獲得(大学短大計)しており、これも全国屈指の成果である。
この原動力に理事長・学長のリーダーシップがある。「学園づくりの目標」を具体化する毎年度の「運営方針」「事業計画」を立案、これを理事長・学長が直接全教職員に説明し徹底を図っている。この方針は法人本部長と事務局長による全学の諸機関、部課室のヒアリングをもとに取りまとめられ実態を反映したものとなっている。
女子栄養大学の経営は、理事会―常任理事会―部長会―業務連絡会のラインによって行われるが、これらの会議には全て理事長が出席し、直接的な指導や確認がされる。方針の実行部隊となる業務連絡会は、部長・課長により構成され、重点課題に基づく業務方針や課題の進行状況、問題点が討議される。全員が発言し理事長や常任理事からアドバイスや具体的指示があり、トップの考え方や方向が示される。トップが直接現場を掌握し、日常的なコミュニケーションを行いながら業務を推進することは実態を踏まえた経営の展開に重要な役割を果たす。
理事長からは定期的に基本政策、学園の年間方針や年度経営の重点事業、予算編成方針が全教職員に直接伝達される。これらは文書化され学園の教職員に改めて配布、周知される。
理事長の全職員面接も始めた。トップとの直接の対話は、構成員が一致して目標に向かう上で大切だ。
中村学園大学で月二回、全教職員を対象に行われる「朝礼」はユニークな取り組みだ。理事長や学長から毎回交替で、直面する情勢や経営・教学の課題、方針について直接教職員に語られる。また教員、職員、管理者を対象とする研修会でも理事長が一時間をこえる講演を必ず行う。課題共有と政策の浸透、トップとのコミュニケーションの強化による改革の推進という点で重要な取り組みだ。
最近訪問した神奈川大学や大妻女子大学でも、トップが強いリーダーシップを発揮している。大妻女子大学では、理事長の所信の中に、学園の直面する現状と解決方策を鮮明に提起することで大学改革の進むべき具体的な方向を指し示した。また、神奈川大学では、理事長の強いリーダーシップの下で初めて教員組織や事務局改革に着手し、理事会構成の改革も推し進められてきた。
チェンジリーダー
戦略の実現を実質的に担う幹部層、特に中堅管理者の役割も極めて重要である。大学ではトップダウンもボトムアップも不可欠であるが、その接合を担うのは、戦略目標を理解しつつ現場も熟知しているミドル層(中堅管理者)である。ミドル層を戦略の具体化と実現の中核部隊と位置づけ、ここを基点にトップとつなぎ、課員を業務遂行に組織し戦略の創造的実践を行う。これをミドル・アップダウン・マネジメントと言う。
現場のニーズや問題点、競争環境を把握している中堅幹部が戦略策定に参画し、かつ策定後はその実践の先頭に立つ。それをトップが統制することを通じて戦略の実現を図る。
そのためには、改革の中核を担う教員・職員幹部の層の厚さが問われている。多忙な業務に奮闘するミドル層の目標実現への目線の高さが、戦略の水準を決める。単なる管理サイクルを回すだけの管理者から、戦略目標に従って現場を変革する、新事業を創造する、これを課員を巻き込みながら推し進めるチェンジリーダーが求められている。
戦略重点を構成員の行動指針にし、戦略と個々人の業務課題を接合することで初めて目標は実践される保障を得る。この遂行システムが目標管理制度で、要に中堅管理者が居る。常に目標の実現にチャレンジする改革型業務を作り出せるか否かは、現場の管理者の姿勢にかかっている。年功型管理職人事の転換はトップの決断で実行可能な施策である。有力な若手チェンジリーダーの登用、職場風土の変革こそ、戦略経営を支える大きな力となる。
終わりに
大学の発展にとって、持続的改革は欠かすことができない。市場ニーズや競争環境に対応して、適切な自己革新が継続的にできるか否かが問われている。経営戦略と教学戦略の一体化による真の改革ビジョン、法人・大学一体の目標の確立なしには、厳しい環境の中で本当の評価向上につながる改革は実現できない。
その推進は、理事会だけ、あるいは、教授会、事務局だけ頑張っても困難である。理事長をトップとする経営システムと学長をトップとする管理運営機構、事務局の現場からの政策提起や創造的な具体化の総合力が必要だ。その点でマネジメントとガバナンスは目標に向け融合されねばならない。教職員の知恵と力を生かした戦略経営の確立による改革の持続こそが、激変する環境の中で大学が前進できる「保障」である。(おわり)