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平成20年12月 第2341号(12月3日)

高めよ 深めよ 大学広報力〈15〉
  福島大学 女子陸上で"全国区" 会津大学 コンピュータに特化

こうやって変革した(12)

 少子化、大学全入時代を迎えて都市部の大規模大学と地方の大学の格差、二極化が指摘されている。福島県内にある国立大学法人の福島大学(今野順夫学長、福島市)と公立大学法人の会津大学(角山茂章学長、会津若松市)も、地方の大学として、この荒波に立ち向かっている。それでも、福島大は幾多の五輪選手を輩出した女子陸上、会津大学は、日本のシリコンバレーをめざすコンピュータ専門単科大学というように、それぞれ独自の個性(強み)を保持している。こうしたキラリと光る“独自性”が大学の知名度を挙げ、受験生獲得や就職にも役立っているようにもみえる。二極化というアゲインストの風が吹くなか、両大学に、大学改革の取り組み、広報の役割などを質した。(文中敬称略)

気を吐く地方の大学

 福島大学は、〇四年四月に国立大学法人となったのを機に、全学を再編、理工学群(共生システム理工学類)を創設、従来の三学部を人文社会学群の三学類(人間発達文化学類・行政政策学類・経済経営学類)として継承、総合大学となった。
 キャンパスのある福島市はゆっくりとした街だ。大学案内には、〇五年に「土の中の子供」で第一三三回芥川賞を受賞したOBの作家、中村文則(〇〇年、行政社会学部卒)が登場、こう語っている。
 「福島は、今まで生きてきた中で一番いい土地です。人はあたたかく、遊べる街であって、街から五分も歩けば美しい川が流れていて。あのゆっくりとした環境は、自分の将来を考えるのに最適な場所でした」
 北京五輪に五人出場
 さて、福島大学を全国区にしたのが女子陸上の活躍。川本和久監督の指導で、女子走り幅跳びの池田久美子、同四〇〇メートルの丹野麻美ら国内トップクラスの選手を育てた。北京五輪には丹野ら五人のOGや現役が出場。陸上リレー中継のときは一〇〇人を超える学生らが学内の食堂でテレビ観戦した。
 広報担当の企画総括グループリーダーの上野圭三が陸上競技部を説明する。「池田さんや丹野さんらの活躍で福島大の名前が全国区になったのはうれしい。大学の戦略として陸上部を強化したのでなく、あくまで川本監督の指導力。監督を頼って全国から選手が集まってくる」
 上野は、学内の陸上競技場で練習中の北京五輪一六〇〇メートルリレーに出場した佐藤真有(旧姓 木田)とのスナップ写真に応じた。そして、続けた。「陸上競技部には男子部員もいます。福島大学トラッククラブという組織があり、陸上部員の指導だけでなく、シニアやジュニアメンバーの育成も行っています。このクラブにも広報担当がおり独自の広報活動も行っている」
 広報の基本方針制定
 大学広報への取組みは白眉だ。昨年二月、大学として「今後の大学広報の在り方に関する基本方針」を定めた。〈大学広報は、大学の存在意義や社会との関係性について人々の具体的イメージを形成していく手法として位置付けていく必要がある〉と謳っている。
 上野は、この方針について「学部依存でなく、大学全体で広報力を強めよう、と作った。具体的には情報を一本化する、HPを充実させる、プレスリリースを臨機応変に出す。これらは教員にも浸透して、研究会の開催などの情報が即座に入るようになった」と語る。
 就職は、同大OBが多い県庁、地元自治体や東日本の企業を中心に順調に推移している。行政政策学類は国家公務員、県庁や地元自治体など地方公務員志望者、経済経営学類は福島高商以来の歴史・伝統もあり金融やメーカーに進む学生が、それぞれ多いという。
 取材の最後に、上野は広報(マスコミ)の有難さと難しさを語った。
 「女子陸上部がマスコミに取り上げられるのは有難いが、『学生主役の大学』『充実した教養教育』を書いて欲しい。これらが広まってこそ、ほんとうの全国区の大学になる」
 世界中から教員集める
 会津大は一九九三年の設立当初から個性的な大学だった。コンピュータ理工学の専門単科大学としてスタート。公募によって世界中から集めた教員群像、二四時間利用可能なワークステーション、徹底した英語教育…。
 初代学長の国井利泰が「会津にシリコンバレーを作る」というスローガンを掲げ、国際性の高い大学として設計された。国井は開学の一年前、米国の情報工学と電気電子の学会の学会誌に英文で教員募集を告知した。
 いま、“会津バレー”にはソフトウェアのベンチャー企業が二二社、総売上げ三五億円で、地域の伝統産業である漆器業の規模を超えた。大学のねらった「若者が地域に残ることができる仕組みをつくり、小規模な大学ながらも県民の期待に応える教育機関」は順調に進んでいる。
 昨年十月には、ベンチャー体験工房「会津IT日新館」をスタートさせた。日新館は、江戸時代にトップレベルとされた会津藩の藩校の名称。広報を担当する企画予算課長の岡部 隆が説明する。
 「IT日新館は、地域振興のニーズに対応できる人材育成のための『基本コース』と、学生が自主的にチームをつくり、テーマから新サービスに結びつく課題を設定して研究を進める『ベンチャー体験工房』の二つの授業で構成されています。
 こうした模擬的ベンチャー立ち上げをめざす教育機関ができたのは、大学発ベンチャーが二〇を超えるまで生まれ、うちの大学と密接な関係を求める地元の企業の交流という素地があったからこそです」
 就職率は「開学以来、IT系企業を中心に多くの求人があります。就職率は毎年ほぼ一〇〇%に達する」(岡部)という。会津大のコンピュータ分野の将来をイメージしやすい就職支援なども定評のあるところだ。
 IT系企業では、分社化や合併、リストラなどが比較的頻繁に起きる。これに対しては、学内の進路対策委員会が中心になって、定期的に企業調査や分析を行い、常に学生に新しい情報を発信しているという。
 現学長の角山は「会津大の卒業生は海外の展示会などに出しても、物怖じせず、堂々と仕事をこなしていると県内企業幹部からお褒めの言葉を頂いたことがある。国際的な環境を持っているキャンパスで育ったからだ。そのような自然体で世界に雄飛できる学生を今後とも育成していきたい」と話している。
 広報面では「特別なことはしていません。でも、このように(本紙の取材)、ときどきマスコミから取材がきます」と岡部。会津大が主催するコンピュータ関係の国際学会や「パソコン甲子園」は地元テレビや地元紙などが取り上げる。
 人気のパソコン甲子園
 今年が六回目の「全国高等学校パソコンコンクール」は十一月八日、九日の二日間、会津大学を会場に開催された。全国四三都道府県、四四〇チーム、一二六一名の参加者から予選を勝ち抜いた三〇チーム六〇名が出場して熱戦を繰り広げた。上位入選者には推薦入学制度があり、これまでにも入学者が出ている。
 福島大とのライバル意識の有無を問うと、岡部が答えた。「本学は、コンピュータ専門大学、本学ならではの教育・研究を通して地域に貢献したいと考えています。専門分野の異なる福島大学を、特にライバルと意識してはいない」
 福島大学にも同様の質問をしたが、同じような返事だった。両大学は福島県内の一六大学とコンソーシアムを結成、年二回の会議を持つなど“連帯”を強めている。福島大、会津大には、こんなことを期待したい。切磋琢磨し、地方の大学のキラリと光る存在感をより強く示してほしい。

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