平成20年11月 第2339号(11月19日)
■"強い"経営を目指して 中期計画の実質化B
トップとボトムの"結び目"が鍵 誰が責任を負うのか明確に
理事会改革
戦略の遂行にとって重要なのが、組織のあり方だ。ミッションの実現、目標・計画の実行を組織運営の中軸に据えなければならない。多くの大学が戦略目標の実現における理事会責任を明確にし、教授会、事務組織が一丸となる仕組みを作り上げようとしている。まずは法人・学園全体の運営に最終責任を負う理事会機能を強化しなければならない。
研究所調査によると、理事構成は七人〜一四人の間が最も多く、学内理事四〜八人、学外理事三〜六人。京都ノートルダム女子大学のように、大学関係者のみの理事構成から企業経営者三人を理事に登用したり、逆に多かった学外理事を減じ学内者を理事として経営機能を強めたりしている。
理事の構成は法人創設以来の歴史を反映したものにならざるを得ないが、実質統治機関としての機能強化が不可欠だ。常任理事会など日常経営組織を強化することや理事の責任分担の明確化も求められる。
二四項目に上る重点事業を学内理事全員に割り振って責任を明確にした国士舘大学や日本福祉大学の執行役員制は、経営の全事項・課題に誰が責任を負うのかという個人責任を明確にして、現場指揮権も含む確実な執行を行う試みである。厳しい改革推進には、この計画を最後までやり抜く「憎まれ役」が不可欠だ。
調査では、理事会開催回数は、年数回と一〇回前後に二極化している。広島工業大学では、年間一七回開催し、最高意思決定機関としての実質機能を果たしているが、統治にふさわしい理事会運営が求められる。
教学組織との連結
経営と教学の政策一致、協力体制の構築も重要だ。研究所調査では、理事長と学長が分離している法人が八割を超えており、経営・教学の「政策調整組織」があると回答した大学は四四・二%にのぼる。理事会で統合を図る大学も多く、大阪経済大学は学部長四人(教員理事は八人)、職員三人(事務局長、本部長)が理事となり、学内合意と政策の徹底を重視している。
女子栄養大学では学園構想協議会、国士舘大学では定例学内理事懇談会、大妻女子大学は拡大常任理事会など、経営と教学が定期的に協議しながら政策推進を行っている大学も多い。
広島工業大学では毎朝のミーティングで理事長、学長が懇談し、毎回の教授会に理事長が出席するなどの努力をしている。経営と教学が共通の基本目標を掲げ一体的に運営されることが、全学が力を合わせて改革に取り組める源となる。
トップ機構だけを整備し、その権限を拡大しても、それが教学、学部教授会や各部局、事務の現場に貫徹されねば意味がない。政策を浸透させ、方針の具体化を図り、構成員の行動を目的に向かって統括する機関の役割が極めて重要だ。このトップとボトムの結び目にある機関をどう設定するかが中期計画の実質化を左右する。例えば理事と学部長、事務局幹部が率直な議論と“本音で”一致した目標と計画を持ちうるかが、その後の政策の実効性を担保する。
さらに学長の下での一義的な政策決定も重要だ。例えば、大学評議会があっても学部教授会との権限関係があいまいでは機能しない。どの議事が決定事項で報告事項なのかの峻別も重要だ。各機関の決定権限を法令や原則に基づき改めて明確にすること、仮に一学部の反対があっても大学としての意思決定は行われなければ、法人と大学が一体的に教育や事業を展開することはできない。
政策を策定する組織
将来計画の策定システムは法人の歴史により様々である。周年事業を契機に初めて策定した神奈川大学や大妻女子大学では、新たに理事会の下に教学関係者も巻き込んで将来構想策定委員会を期間限定で設置した。一方、福岡工業大学、星城大学の戦略会議、京都ノートルダム女子大学の中期計画総合推進室、日本福祉大学の学園戦略本部や企画委員会などは戦略の策定、遂行、評価のための機関を常置している。
トップの下に有力な若手教職員のプロジェクトを設置し、企画を提案させて改革を断行し成功した例もある。いずれにせよ日常運営組織を政策目標で統括すると共に、中期計画の策定と推進を担う機関が恒常的に組織運営の中軸に位置づくことが重要である。
政策を推進する上で、トップダウンか、ボトムアップかもよく議論になる。調査でも典型的だったのは、京都女子大学と京都ノートルダム女子大学である。
京都女子大学は三年スパンでの学部新設を中心とした改革が定着しており、「研究会」といわれる教職員の自由な提案を重視した計画作りを行っている。
一方、大学や小中高各学校の独立した運営が定着している京都ノートルダム女学院で、学校間の一体性と共通した目標作りという風土改革に着手するには、上からの改革提起が有効性を持つ。今の風土や運営システムを一気に変える場合はトップダウンの要素を取り入れないと難しい場合もあろうし、改革の気風が根付いている所では、現場の知恵を結集するボトムアップが有効である。つまり、実現すべき課題や環境による。
しかし、原則的には政策は現場の実態から出発し、現場の実際の教育や業務の指針とならないかぎり有効性は持ちえない。山梨学院大学や中村学園大学、広島工業大学もトップの強いリーダーシップで運営されているが、その政策の基には現場の丁寧なヒアリングや提案がベースになっている。政策が共有され構成員の活動指針として機能しているか、現実の財政や人事、業務が目的実現に向かって統制されているかが重要だ。
戦略を推進する組織
最後に強調したい点に、事務組織における企画部門の位置づけや役割がある。研究所調査でも、中期計画の原案立案部署を聞いたところ、法人事務局長、担当事務部署などもっぱら事務局が担っているケースが三三%、その他は教職共同で取り組まれている。
桜美林大学の企画開発室、大阪経済大学の企画室など、企画専属部門を事務機構として位置づける所が多くなっている。また、福岡工業大学のように全体企画を担当する改革推進室のほかに分野ごとの企画部門として教育改善支援室、産学連携支援室などを設置、日本福祉大学でも企画事業局の他に教育開発室や事業開発室を置いて、教育改革や社会連携、社会貢献事業の開発に当たっている。
先駆的で、現実性のある政策の立案と遂行には、こうした企画専門部署の強化・拡充は大きな力になる。ただ委員会等で議論するだけでは深みのある長期的な政策策定は困難だ。データ分析や調査、他大学のベンチマークを通してこそ革新的な政策立案や到達度評価が可能となる。
職員の開発力とマネジメント力量の向上、プロフェッショナル化もまた経営力を左右する。市場とニーズに向き合う現場からの情報発信、先駆的な課題設定や解決方策の提起の水準が、改革全体のレベルを規定するようになってきた。大学運営に積極的に職員を参加させ、提案を生かすよう努めなければならない。
どんなに斬新なプランがあっても、それを決定し執行する統治機構が機能しなければただの紙切れである。中期計画の実質化は、まさにこの組織運営のあり方にかかっている。