平成20年11月 第2339号(11月19日)
■トップセミナー 私大の教育・研究充実の研究会
留学生問題・大学連携なども協議
「私立大学における学士課程教育の構築」テーマに
(財)私学研修福祉会(廣川利男理事長、東京電機大学学事顧問)主催の第三一回私立大学の教育・研究充実に関する研究会(大学の部)が「私立大学における学士課程教育の構築」をテーマに去る十一月五日、六日の両日、東京・市ヶ谷のアルカディア市ヶ谷を会場に開催された。同研究会には私立大学一三五大学から、学長、学部長、学校法人の理事長等一九六名が参加し、テーマに掲げた「学士課程教育の構築」についての基調講演のほか、「留学生三〇万人計画」に関わる意見発表、「大学間の多様な連携」をテーマとしたシンポジウム、さらには、グループ・ディスカッションなどが二日間にわたって行われた。(短大の部は2面)
基調講演・意見発表
第一日目の開会にあたり廣川理事長は「政治面、経済・金融面ともに不安定な暗い風潮の中、先頃、ノーベル物理学賞と化学賞受賞のニュースが駆けめぐり勇気を与えてくれた。このような快挙を成し遂げるためには、国際化の流れの中で教育・研究の充実を図らなければならない。二十一世紀型市民を育成し、社会に対する責任を果たすためにも、今、学士課程教育の構築が叫ばれている。この研究会で様々な私立大学の抱える課題を協議していただきたい」との期待を込めて挨拶した。
また、佐伯弘治同研究会運営委員長(国士舘大学理事長、流通経済大学学園長)からは、中教審諮問の「中長期的な大学教育の在り方について」に触れ、その議論には学士課程教育構築のための諸改革も大いに関わってくることから、「この研究会における私学人の声を文科省、政府に聞いてもらわねばならない」と挨拶した。
基調講演に入り、鈴木典比古国際基督教大学(ICU)学長が「私立大学における学士課程教育の構築」と題して、私学人の心構え、何を目指すのかなどを述べた上で、ICUの実践について紹介した。
同氏は、はじめに、「日本の高等教育の大半を支える私学は、これまでの“受け身”の姿勢からチャンスと捉えて前向きにこの度の学士課程教育の構築に取り組みたい。私学にとって極めて厳しい状況の今こそ、知恵を出して汗を流さずにいつするのか」と気構えを促した。
次に、学士課程の三段階としての@入学者選抜、A教育課程、B学位授与における様々な課題を挙げた上で、Aの教育課程で身につけさせるべき「学士力」の四つの要素である知識理解力、汎用的技能、態度・思考性、統合的な学習経験と創造的思考力について解説した上で、学士力は「教育力」の関数と見なせるとして、二十一世紀型市民を育成する教育力の有無こそが大学にとって重要になると指摘した。
また、ICUでは一貫してリベラルアーツ教育を実践しており、今なお改革の途上であるが、その概要を簡潔に紹介した。
テーマ中心的な一般教育には対話形式のクラス・マネジメントが有効であるとして、@授業は肉体労働(授業中に万歩計)、A机や椅子は移動可能に、B教員の動く空間確保、C前回授業の不明点解消、DTA活用とディスカッション、E教員の一方的な授業独占なし、Fシラバスの充実などを挙げた。また、改革のポイントとして、二年次の終わりまでに三一のメジャー(専修分野)から専攻を決めることや教員アドバイザーの役割等を示し、今後の課題を述べて講演を終えた。
休憩後、「留学生三〇万人計画の目指すもの」をテーマに意見発表が行われた。
まず、佐藤東洋士桜美林大学理事長・学長が「留学生三〇万人の受け入れ是か非か」の視点から、各種データを基に発表した。我が国と主要国における留学生の受入れ状況及び政策の差異がかなり大きいことを示し、国際化の流れの中で留学生をより多く迎えることで学生や教員のモビリティも上がり、活性化させることもできる。教育の質の向上のチャンスと捉えればよいのではないかと述べた。特に、諸外国と比べて欠けているのは、学生寮の少なさである。
留学生の最大の関心事は、何と言っても生活の基盤としての住まいの問題であり、諸外国における学士課程教育では、全員が寮生活をすることが当り前になっている。寮生活を通して学生は成長するものだと強調した。
続いて、佐藤弘之法務省東京入国管理局留学・就学審査部門首席審査官が、「留学生・就学生の適正な受入れ」について、留学生・就学生の外国人登録者数の推移(留学生=一二万五五九七人〈平成十五年〉→一三万二四六〇人〈同十九年〉、就学生=五万四七三人〈同十五年〉→三万八一三〇人〈同十九年〉)などを示した上で、現段階で、六省会議では審査の迅速化や提出資料の簡素化等の具体的方針は出ていないが、三〇万人計画達成に向けて、在留許可申請に対して性善説に立って対応していきたいと述べるとともに、入管で全てを管理することは不可能なので、大学に入学した留学生については、出席率や成績(取得単位数など)をチェックするなどして、入管と大学とが連携して不法残留等を防ぐような手立てを講じていきたいとの考えを述べた。併せて、就学生についても日本語学校を卒業後に留学生として迎え入れるべく、十二分に対応していく必要があると加えた。
シンポジウム 大学間の多様な連携
第二日目は、「大学間の多様な連携」をテーマに、金沢工業大学の石川憲一学長、沖縄大学の桜井国俊学長、明治大学の納谷廣美学長らが講師・パネリストとしてシンポジウムが開催された。コーディネーターは京都産業大学の坂井東洋男学長。
学士課程教育の充実のために、大学間連携の試みがどのように行われているか、どうあるべきかがポイントとなっている。地方の大学、都市の大学という立場から先進的な取組事例を紹介、会場からの声も交えて“大学の連携”について意見が交わされた。
はじめに、石川学長が金沢工業大学における多様な大学連携活動について述べた。国内外の大学、研究所等に学生を派遣する連携大学院方式、修士課程の単位互換が可能な連合大学院方式等の取組のほか、海外機関との連携・国際交流活動を詳細に解説した。
続いて、桜井学長が沖縄大学の地域に根ざした大学間連携活動を紹介した。地域共創の一環として、同大は提携大学である京都精華大学の学内NPOの技術的支援の下、那覇市のホテルのISO取得を支援する等の取組成果を発表した。また、単位互換制度の本格的活用により、学生が他の地域に出て“自己相対化”を図ることにつながっている事例等についても触れた。
最後に、納谷学長が明治大学の都市型総合大学としての連携活動を解説した。都市型大学として明確な「地元」が無いことから、日本全国を「地元」と捉え社会連携を通じて地域再生人材の育成に取組んでいる。
また、地域・大学間連携により、新しい価値を生み出したり、課題を解決する等の取組がこれからの大学の役割として認識されることになると締めくくった。
その後に、会場から質疑が寄せられ、様々な意見も飛び交った。
昼食休憩をはさみ、四班に分かれてのグループ・ディスカッションも行われて閉会となった。