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平成20年10月 第2336号(10月22日)

大学教務部課長相当者研修会を開催 239大学・423名が熱心に研修
  「学士課程教育の質の充実」テーマに

 日本私立大学協会(大沼 淳会長)は、去る十月十五日から十七日まで、神戸市のクラウンプラザ神戸において、平成二十年度(第四六回)大学教務部課長相当者研修会を開催した。同研修会は、大学教育と学術研究の充実に果たす大学教務の役割の重要性に鑑み、大学改革の新たな展開とそれに伴う諸問題を踏まえた上で、同協会の大学教務研究委員会(担当理事=小出忠孝愛知学院大学学院長・学長、委員長=橋本弘一帝塚山大学特別顧問・理事)が準備を進めてきたものである。折しも中央教育審議会の「学士課程教育の構築に向けて」の答申を待つところであり、本年のテーマを「学士課程教育の質の充実」とし、同協会加盟の三八四大学から二三九大学・四二三名が重要課題について協議した。

 学士課程教育を一層充実させていくため、ディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、アドミッション・ポリシーの三つの方針により教学経営を行うことで、社会からの信頼に応える人材育成につながる。そのための改革が検討され、教育の質保証への対応も課題となっている。
 このたびの研修会では、講演や教育改革への取組事例の発表、学問分野別の班編成による班別研修等、三日間にわたり、情報交換も含め多くの参加者が諸課題を協議した。

 【第一日目】
 同協会の小出秀文事務局長が開会の挨拶、続いて同研修会の開催地である同協会関西支部支部長の森田嘉一京都外国語大学理事長・総長が歓迎の意を表すとともに、「教育の質保証は各大学が責任を持って教育の充実を図っていかなくてはならない。そのような折柄、時宜にかなったメインテーマを据えた研修会で、各大学の発展方策や高等教育の在り方について議論を深めていただきたい」と挨拶した。
 また、橋本委員長は「協会の中でも最大の参加人数を抱える研修会だが、規模が表すように教務担当者は大学運営における中核的存在であり、まさに教育改革の只中にある。この研修で得た成果をもとに、自らが講師となって広めていただきたい」と挨拶した。
 研修・協議では、はじめに小出事務局長が「私立大学を取り巻く諸情勢と当面する重要課題」について解説を行った。
 同委員会から、橋本委員長が「私立大学の原点 固有の理念と目的 建学の精神」と題して、私立大学として、ガバナンス強化、経営基盤強化等の課題を挙げ、学士課程教育の充実、教員・職員の意識改革を必要とする私立大学教育の在り方を述べた。それぞれの目標を持ち、個性豊かな大学を目指す上でも、八ヶ岳(多峰山)型の大学評価が望ましいと締めくくった。副委員長の古矢鉄矢北里大学事務副本部長・学長室長は、「『学士課程教育の質の充実』と本研修会の研修目標について」と題して、同委員会の取組や活動報告、研修課題と三日間の日程の説明を行った。
 研修第一日目の最後は、「大学における教養教育―工学教育・研究体験をとおして―」(大学の未来像シリーズ)と題して、岩崎俊一東北工業大学理事長が記念講演を行った。新しい時代の教養教育は、エリートの規範としてではなく、一般社会人の現代的問題を捉えた教育であることが必要、と述べた。さらに、岩崎理事長が日本学術会議において提案した新たなモデルを紹介。創造(仮説の提唱と実証)と展開(標準化と普及)、統合(実社会との融合)が循環しながら社会とともに発展していく形全体を「国の文化」と表している。これを新しい社会構築の基本概念とし、科学技術教育における教養教育に重要な役割を持つものとして提示した。
 会場を移して、情報交換会が行われ、小出担当理事が挨拶を述べ、橋本委員長の乾杯で、参加者の歓談の輪が広がった。

 【第二日目】
 はじめに「今後の高等教育政策の動向」と題して、文科省の片山純一高等教育局高等教育企画課長が講演を行った。ユニバーサル化とグローバル化の波に晒されている「学士課程教育の構築」と「教育の質保証」問題、「教育振興基本計画」や「九月十一日の中教審への諮問」等、教育の質の充実に関わる高等教育政策の諸動向を解説した。
 次に「実効ある学士課程教育を支える学生調査とIR(インスティテューショナル・リサーチ)」と題して、山田礼子同志社大学社会学部教授が講演した。「学士力」について、他国との共通性(教育目標)を挙げ、学士課程教育が重視されていることを解説した。初年次教育は学士課程教育の一環として、二年次以降との継続性がなくてはならない、日本の大学の特性に合った初年次教育、各大学に合ったオリジナルが必要等と述べた。初年次教育評価をどう学士課程教育に活かすか、については、結果をデータ化し、分析、報告することが必要。そのためにIR部門を組織する重要性を説いた。
 昼食休憩を挟んで、「教員・職員・学生による教育改善を促す『ティップス先生からの7つの提案』」と題して、夏目達也名古屋大学高等教育研究センター教授が、同大学の取組事例を紹介した。同大学では「ティップス先生」というキャラクターを使って、FDやガイダンスでの活用を前提に教育実践をまとめた冊子、WEBサイトを作成している。FD実施の際にはテキストが必要として、それにより主催者の意図の明確化、改善のための具体的内容の明示、内容の振り返り等の利点を挙げた。FD・SDについては、教育・学生支援活動の日常的改善が必要と締めくくった。
 次に、「初年次教育の総合化と学士課程教育への展開」と題して、岩井 洋関西国際大学学長補佐が同大学の取組を紹介した。実践事例として、初年次サービスラーニング、KUIS学習ベンチマーク(学習到達目標)、eポートフォリオの活用等について解説した。なかでも、eポートフォリオは学習成果の総合化ツールとして、ゼミを軸として作成指導を行い、学生に対する評価とプログラム評価のための定性的データとなる。初年次教育においては目標設定と振り返りの習慣化に有効で、以降はキャリア・ポートフォリオとしての活用につながる。初年次教育の課題について、学士課程教育全体を貫くプログラム策定、教育効果に関するアセスメントと評価、部局間連携とSDが必要である等と述べた。
 休憩の後、会場を移動して班別研修に移り、班ごとに分かれて協議に取り組んだ。多様化した学生への取組、単位制度の実質化、厳格な成績評価等の協議課題をもとに、協議・情報交換が行われた。

 【第三日目】
 午前中は、前日に引き続いて班別研修、昼食後には一堂に会して講演が行われた。「学生多様化時代の大学入学者選抜の在り方を考える」と題して、(株)旺文社の大塚憲一教育情報センター長が同社のデータ等をもとに、二十年入試結果と二十一年入試展望、高大接続と大学入試について詳細に解説した。
 すべての研修が終了し、最後に橋本委員長が総括の挨拶を述べて、同研修会の全日程を盛会裏に終えた。

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