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教育学術オンライン

平成20年10月 第2333号(10月1日)

高めよ 深めよ 大学広報力〈8〉
  東京駅前に講座開く オープンキャンパス東京ドームに5000人参加

こうやって変革した(5)

情報が東京に集中していることもあって、東京以外にある大学がニュースやイベントなどを全国発信(広報)する場合の不利は否めない。今回は、関西の大学でありながら東京、そして全国に向けて意欲的に情報を発信し続けている大学を取り上げる。JR東京駅前にいち早く東京キャンパスを設置、東京ドーム・プリズムホールでオープンキャンパスを開催するなどの動きは他大学からも注目されている。この原動力はどのへんにあるのか、そして広報活動における「関西発全国行き」の難しさなどを聞いた。(文中敬称略)

”東征”する立命館大
 この大学は立命館大学(総長・学長 川口清史、京都市)。(学)立命館は京都に朱雀、衣笠キャンパス、滋賀にびわこ・くさつキャンパスがあり、大分県別府市には立命館アジア太平洋大学がある。
 東京駅の八重洲口にJR東日本が建てた超高層ビルのサピアタワー(地上三五階、地下四階)がある。ここに立命館大の東京キャンパスが〇七年三月に誕生した。同四月から「京都文化講座」、「金融と法」、「最新中国セミナー」などの講座を開講した。
 サピアタワーには、立命館大のほかにも関西の有力大学が続々、入居した。京都大学、関西大学、関西学院大学、甲南大学など関西では名だたる大学が続いた。各大学とも社会人向けの講座を開いたり、学生の就職支援、入試情報の発信、文部科学省など官公庁の情報収集などの活動をしている。
 立命館大の東京キャンパスについて、広報課長の細野由紀子が説明する。
 「東京キャンパスは、京都に生れ、百年を超える歴史と伝統を持ち、最先端の教育と研究実績を持つ立命館の、新たなる知の発信基地として設けました。講座は、ビジネスマン、実務家、社会人が対象です。定員はすぐに埋まるほど盛況で、京都学の講座には、首都圏にお住まいの立命館OB、OGの方も結構います」
 かつて、東京では「立大って、立教大のことだろ」といわれたそうだ。東京キャンパス開設は、立命館大の教育や研究を首都圏の人たちに発信することにより、大学の知名度や認知度をアップさせる狙いもあるようだ。
 これまでも立命館大は、ブランディングを行ってきた。〇七年十月、これまでのシンボルマーク「Rits」をよりシンプルに「R」一文字にした。「〇七年に新総長が就任したことから、新しいイメージを出していこうという気運が起き、これがリニューアルに踏み切る動機付けになった」と細野。
 ブランディング手法について細野が続ける。「教育改革に真摯に取り組む立命館を端的に表現し、浸透させることを第一義に検討しました。うちならではの強みは『学生成長力ナンバーワン』という結論になり、彼ら学生こそが『未来を生み出す人になる』というキャッチコピーを創りました」
 九月二十三日、東京文京区の東京ドーム・プリズムホールは立命館大に乗っ取られた。「立命館オープンキャンパス in TOKYO」の会場では、入試説明会、模擬授業、入試対策講座、保護者対象の講演会、個別の入試相談のほか、立命館OBの元東京ヤクルトスワローズ監督、古田敦也(八八年経営学部卒)、タレントの眞鍋かをりらをゲストに呼んだトークイベントなどがあった。首都圏の高校生やその父母、卒業生ら延べ五〇〇〇人が詰め掛けた。
 古田元監督を使うあたり、立命館大の広報・宣伝活動は水際立っている。「古田さんは、昨年から実施しているブランディングポスターにも出てもらっています。『未来を生み出す人になる』という立命館のコピーにも似合う人です。受験生はもちろん、受験生の母親も、いいイメージを持ってくださっています」と細野は笑顔を絶やさない。
 昨今の受験生が大学を選ぶツールは「一位がオープンキャンパス、二位がウェブ」だという。立命館大のように地元だけでなく他都市で開く大学も多い。東京勢も負けてはいない。慶應大は八月、大阪市内で初の大学説明会を開催。早稲田大も同月、相互の学術協定を結んだ関西大でオープンキャンパスを開き、ともに関西の高校生に大学の魅力を伝えた。
 ウェブのほうも立命館は積極的だ。大学サイトランキング(〇八年八月)の総合得点では全国の大学で第六位と高い評価を得ている。受験生向けの「Rits Net」と在学生向けの「RS web」ともに力を入れている。
 「在校生は、ほとんどがウェブを利用しています。学園通信は、ボランティアの学生記者(約七〇人)がいて、記事を企画し、執筆しています。そうしたこともあって、学園通信は思い切って今年からペーパーを止めてウェブだけにしました」
 広報活動で、ニュースなどを関西から全国発信する難しさを細野に聞いた。
 「東京に情報が集まり、マスコミも集中しているのは事実です。情報発信の、いわばキーマンは東京だと思う。そこに、どれだけ知ってもらうか、それには発信し続けるのが大事だと思う。早慶が大阪まで来て情報発信する時代です。そういう動きは大いに刺激になります」
 立命館大は地元・京都で月に二、三回、記者会見を実施している。東京での記者会見は「年数回だが、今後増やしたい」と話す。
 「京都での記者会見は、新聞の京都版には載ります。ちょっと話題になりそうなのは関西版に掲載されますが、余程でないと全国版には載りません。今年になって、六月に山形大学と学生・職員交流を実施した件と七月に日本商工会議所と留学生の受け入れ促進や就職支援で協力協定を結んだ件では東京キャンパスで会見を開きました。文科省担当記者やこれまでに取材してくださった記者の人たちに出席を呼びかけました」
 大学広報の仕事のひとつに不祥事対応がある。これに触れないわけにはいかない。立命館大は今年度入試で定員を超えた新設の生命科学部の新入生に他学部への「特別転籍」(転部)を促した。「国の私立大学等経常費補助金を確保するのが狙い」と新聞に報じられた。日本私立学校振興・共済事業団は、今年度の同補助金二五%(約一五億円)の減額を決めた。
 「立命館の常識が世間の非常識である、ということに気がつくのが遅れました。広報として反省しています」と細野は淡々と語った。
 「これまで、(定員を超えた学部の新入生の他学部への転部は)長年にわたってやってきたことだったので、新聞社からの問い合わせに、最初『どこがおかしいのだろう』と反応してしまいました。このように、初期対応がまずかったため、記者会見も遅れてしまいました。『これは、おかしい』と即座に気がつかなければ広報の役目を果たしたとはいえません。学内外で信頼してもらえるよう、(世間の常識に則って)きちんとやっていくだけです」
 不祥事が発覚したのが四月で、検証して学内処分などが行われて一応の決着をみたのが六月。発覚から約五か月後に開いた東京ドームでのオープンキャンパスは活気を帯びたものとなった。関西、いや千年の古都にある大学はそうしたイメージより、ずっとしたたかにみえた。

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