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平成20年9月 第2332号(9月24日)

高めよ 深めよ 大学広報力〈7〉
  千葉商大 学長が"ブランド" マスコミに再三、登場しPR

こうやって変革した(4)

大学広報力を高めるには理事長、学長ら大学のトップの理解が不可欠、と何度も書いてきた。これまでみてきたところでは、トップの広報に対する理解度は大学によって温度差がみられた。そうしたなか、学長自ら大学の「広告塔」になって奮闘している大学がある。知名度、それまでのマスコミ体験を生かしてテレビ、新聞、交通広告などに再三、登場して大学の広報・PRに余念がない。いまや「大学ブランド」にもなっている学長へのインタビューを中心に、その効用や浸透度にも迫ってみた。
(文中敬称略)

トップ自ら「広告塔」

 その大学は千葉商科大学(原田嘉中理事長、千葉県市川市国府台)、学長の名は島田晴雄。島田の経歴はまぶしいくらい。慶應大学経済学部を卒業後、同大大学院博士課程終了、米ウィスコンシン大にて博士号(労働経済学)を取得。慶大経済学部教授、小泉内閣の特命顧問、富士通総研経済研究所理事を歴任。〇七年四月から学長を務める。
 大学全入時代を迎え、学長としての島田の危機感は相当なものがある。「千葉商大をつぶしてはいけない」と冒頭から速射砲のように語りだした。
 「大学全入時代、教育のシステムそのものが問われている。早慶は二〇〇年安泰だろうが、日本の大学の八割は(今後どうなるか)わからない。時代は進化しており、大学も進化しなければならない。
 千葉商大は、東京にあった旧巣鴨高商のころ、千葉へ移った戦後一三年前にうちに来た加藤 寛前学長の改革の時代と幾多の苦難を乗り越え発展してきた。私の役目は、次の時代の大学のモデルをつくることだと思っている」
 いま、島田が最も力を入れているのは、来年四月に開設する新学部である「サービス創造学部」だ。日本有数のエコノミストでもある島田の持論は「生活サービス産業を勃興させ、雇用を創造すべき」。これまでも中古住宅流通市場、企業間保育ネットワーク、共同自家用運転手などを提言してきた。
 「これまでサービスは公的機関が担ってきたが、それではサービスが均一化し扁平なものになりがち。本来、サービスは民間セクターがお互い競争して創意工夫しながら作っていくべき。そのための人材養成が新学部の目的。大学はこんなに面白いものか、そう思われる学部、大学にしたい」
 島田によれば、新学部の大きな特徴は「公式スポンサー企業」の存在。観光、交通、健康、小売、流通など三〇社と連携、企業から講師派遣、学生は七週間あるいは十五週間にわたる企業留学(長期インターンシップ)をする。サポートする企業は島田のこれまでの広範な人脈が役立った、というより応援してくれた。
 この新学部の広報の仕掛けも怠りない。二月から七月にかけて朝日新聞、日経新聞、フジサンケイビジネスアイ、リクルートのキャリアガイダンスなどに「サービス創造学部」は学長の島田とセットで取り上げられた。朝日新聞(7・26)には「朝の講義は新聞読んでから 千葉商大新学部」の見出しが躍った。
 「サービス創造学部は一限の講義の開始時間を午前一〇時四〇分にしました。既設学部は九時開始だが、新学部は新聞を読んで意見を述べる講義もあるし、朝、新聞を読んでから講義に出てもらうため、そう決めた」と島田。この面白さに朝日が飛びついたか、大学側の”売込み”が功を奏したか、どちらかだ。
 島田が広報をどう考えているのか、について尋ねると、「広報は(大学の)全てだと思う」と熱っぽく語った。
 「学長に就任して、(広報関係で)最初にやったのは大学のホームページの総責任者、CIOになったこと。自分のブログを作って、ここから私の考えを発信している。メールが届いたら、必ず返事を返している。それから、OBや地元の商店街の人たち、それに全国の高校の先生ら約一万人にペーパーの『ニュースレター』を郵送している。こっちはアナログ的だが、地域社会などとの連携も大事である。大学内では理事会のほかに教職員から成る戦略会議を設け週一回開催している。やったことの結果をすぐ出すようにした」
 千葉商大は広告や広報で、学長を全面的に押し出している。「島田ブランド」といわれるほど。その島田ブランドが功を奏した記事もあった。七月二十四日の日経新聞夕刊で、「大学の温暖化対策 総長・学長立つ」の見出し。
 これには、小宮山・東大総長、尾池・京大総長と並んで島田・千葉商大学長の顔写真、コメントが、ほぼ三人均等に載った。学長の島田が著名でなかったら、こうした記事になったかどうか甚だ疑問で、千葉商大は得をしている、と感じた大学関係者は多い。
 また、千葉商大は充実した情報教育をやっている大学として知られる。前学長の加藤が推進した。学生が二四時間自由に利用できるものを含む五五〇台以上のPC端末、キャンパス内に張り巡らせた無線LAN、10GbpsのWIDEバックボーン接続…。
 広報担当の山田 武(商経学部教授)が「ぜひ見てください」としきりに勧める「島田晴雄の学長ブログ」を開いてみた。最新の九月十七日には「九月十四日のオープンキャンパス」と題して、こう書いてあった。
 〈どうぞ全く遠慮をすることなく、あらゆる機会を捉えて、本学では学生諸君のために何をしようとしているのか、どのような用意があるのか納得するまで質問し、議論してください。それが皆さんの人生を豊かにする重要な一歩となります。自分の目で見て、話してみて、そして納得した上で、ぜひ千葉商科大学を志望校として選択してくださることを祈っております〉
 さっそく、受験生から投稿があった。〈こんにちは。僕は、先日のオープンキャンパスにも訪れ、受験において最終確認をしました。高校で経験したことを、千葉商科大学さんで生かしたいです。僕の気持ちが、千葉商科大学さんに伝わるよう頑張ります〉
 島田は、どんな返事を書いたのだろうか。ブログには、きっと嬉しそうな文字が躍っているに違いない。「私の役目は次の時代の大学のモデルをつくることだ」という島田の夢は受験生の間にも浸透しつつある。
 島田が学長に就任して一年半。昨年に比べ、今年は受験生、入学者とも増えたという。「学長のせいではないですか?」と水を向けると、こんな返事が返ってきた。
 「多少の影響はあるかもしれないが、こうした人たちが頑張ってくれたおかげだ」。そういって、インタビューに同席した広報担当の山田のほうを指差した。山田は商経学部教授でありながら大学の入試広報事務部長を務めている。
 千葉商大には、学長の島田のほかにもマスコミ等で著名な教授が顔をそろえる。かつてNHKの「ニュースセンター9時」のキャスターを務めた宮崎 緑、経済問題でマスコミにしばしば登場する斎藤精一郎、ライフプランニング論の伊藤宏一らが教壇に立っている。
 山田は「確かにマスコミに登場して著名な先生もいますが、あくまで専門分野での実績を評価して(教授に)なってもらっています。そうした先生方を呼んできて何とか、ということはありません」ときっぱり。しかし、島田ブランドの効用を思うと、「そう」と一概にうなずけない。千葉商大は上手にやっている、のは間違いない。

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