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平成20年9月 第2330号(9月10日)

地域共創 ―高島平再生プロジェクトとは―<上>
  高齢化団地を甦らせろ! 地域通貨導入で新たな公共創出も

  大東文化大学 環境創造学部環境創造学科教授 山本孝則氏

 社会への貢献・共創は大学の生き残りのキーワードとなっている。「東西文化の融合をはかり、新たな文化の創造をめざす」という建学の精神のもと設立された大東文化大学(渡部 茂学長)は、現在、日本有数の大規模団地である東京都板橋区の高島平地域を再活性化させるプロジェクトに取り組み、注目を集めている。同大学の取組の実態、学生への教育効果、現代GPの裏側等を三回にわたって取り上げる。寄稿は同大学環境創造学部環境創造学科教授、山本孝則氏。

 高島平再生プロジェクト(以下高Pと略記する)は、二○○七年度現代GP「地域活性化への貢献」(地元型)部門で採択された、「地域・大学連携」事業の一つである。いま少し具体的に言えば、「高齢化で困っている団地(限界団地)は、そこに組織的な形で学生が入居することで、若い息吹を得て元気を取り戻す。逆に、厳しい少子化にさらされている大学は、学生の快適な住居と社会的な教育フィールドとを得る」ことで、地元地域と大学が互いに助け合う協力プログラムである。その限りでは、一見どこにでもありそうな地域・大学連携に過ぎない。厳しい高齢化にさらされている大規模団地に地元の大学が関与して学生が入居したのは、高島平が初めてではない。ましてや、学生が高齢化団地でボランティアを行うことも、地域商業の活性化に学生が協力することも、高島平に固有というわけでもない。
 だが、この高Pはいま、テレビ、新聞、ラジオ、雑誌報道を通して全国津々浦々、日本中で知られる存在になった。その報道ぶりは、○七年十二月から○八年七月五日までの約半年間で、NHK、主要民放局を始めとするテレビ放送が六回、五大全国紙の紙面を賑わせた数だけでも七回に及んでいる。政府系広報誌も巻き込んだこうした動きは、今後もしばらく続くものと予想される。
 一体、高Pの何がかくも大きな関心の渦を日本中に引き起こしたのだろうか。
 以下、この問いを念頭に置きつつ、@高Pを支える基本視点、A高PがGPを取得したことで遭遇した「予期せぬ難問」の本質を考えるなかで、「地域・大学連携事業の最先端としての高P」の普遍的な意義を明らかにすることが本稿の目的である。なぜ「普遍的な意義か」と言えば、高島平の経験がこの地域にとどまる、個別的なものに過ぎないならば、全国レベルのマスコミ報道の嵐にさらされることはなかったと考えられるからである。
 この点に関する傍証として、七月五日放映の「アド街ック天国」(テレビ東京系、毎週土曜九時放送)の高島平特集が、高Pにいかなる関心を寄せたかを示しておこう。
 「昭和一九七二年に誕生した高層団地。現在、高島平では高齢化が進み、団地には空き室も現れ始めています。そこで二○○四年に『高島平再生プロジェクト』が発足しました。大東文化大学の山本孝則教授は、高齢化団地の現実に一矢報いる為、このプロジェクトを推進する一人。二○○八年四月からは一六名の大東大の学生が[大東大が一括借り上げした―筆者]高島平団地に住み始めました。その一六名は早速自警団を結成。夜の見回りなどにも乗りだし高齢化の進む街に積極的に溶け込もうとしています。高島平ではこのプロジェクトを通じて、再び未来へと繋がる日本の最先端を目指しています。」(「アド街ック天国」ホームページ高島平特集より)
 高Pの目的は、@入居学生を中心とする学生、A団地住民(地域住民)、B大東文化大学(学校法人)に「三方得」の状況を創り出すことで、高島平地域に「新たな公共世界」をもたらすことである。
 @学生は、コミュニティ・ボランティアを行うことで得た地域通貨「サンク」を、大東文化大学への家賃の一部に使うことができる。サンク加盟店にはこのほか、大東文化学園生協のほか近隣のレストランなどでも使うことができるが、ここでは「家賃」の割引のケースで代表させている。A団地住民は、学生の団地入居をサポートとすると同時に「社会的スケールの学びの場」を提供することで、学生のコミュニティ・ボランティアを享受できる。B大東文化大学など高島平地域のサンク加盟店(割引ポイント受け入れ店)は、地域内での社会貢献度を高めるとともに、全国に高島平への関心を喚起することで、社会的評価を向上させることができる。
 「新たな公共世界」では、コミュニティ・ボランティアと市場経済が融合することにより、「資本主義市場経済にはなじみにくいが、地域には必要な仕事(work)」が実現できる道が開かれている。例えば、路上で遊ぶ子ども達に声をかけ安全を見守り、身寄りもなく体の不自由のお年寄りの話し相手をするなど、高度経済成長以前には「地域に必要な仕事」は当たり前のこととして行われていた。その後の経済大国化の時代に、そうした仕事は専ら行政の財政支出に委ねられるところとなった。
 しかし、中央・地方を問わず財政破綻が深刻化しているという事情に加え、真の地域自治の実現という民主化ニーズ―真の改革の原動力―を前に、「民」を主体とした公共世界の実現が切実な課題になってきた。高Pはこうした二十一世紀の社会経済の基本的な基調を踏まえた上で、現代GPを介して「二十一世紀初頭の大学教育改革」という性格も兼ね備えるようになった。のちに見るように、「真の地域自治の実現」と「大学教育改革」という二つの必然性のせめぎ合いから、高Pは予期せぬ迂回を強いられることになるが、それは後の話である。
 話を戻そう。高Pをベースとする教育改革の特徴は、コミュニティ・ボランティアのフィールドと教育のフィールドを一体化し、課外活動(社会実践)と座学の講義・ゼミ活動が有機的に結びついていくことである。ボランティア=教育フィールドとしては次の三つが準備されている。
 (1)多世代共住・多文化共生分野―留学生を含む大東大生が高齢化団地にサブリース方式で入居することで、大東大と高島平団地を多世代共住・多文化共生のモデルに鍛えていく。
 (2)自然との共生分野―プラスチック資源の再生利用、都市での農業体験を通して、人間の原点である自然界との関わりを学ぶ。
 (3)都市公共性の基盤分野―地域通貨サンクポイントにより「市場経済とコミュニティ・ボランティア」との融合を進めることで、高島平における市民社会の質的発展をはかる。
 以上三分野のボランティア=教育拠点として、現代GP採択を機に用意されたのが、団地内の「コミュニティ・カフェサンク」と同店内に併設されたミニFM放送局である。カフェサンクは、去る五月十八日に正式オープンにこぎ着けた。テープカットの主役は、多世代共住・多文化共生を掲げる高Pのビジョンに従い、留学生のガルディ君(内モンゴル出身、環境創造学部四年)、二丁目団地在住の渡辺純子さん(七○歳代)であった。
 多世代・多文化をリンクするカフェサンクという舞台を得たことで、高Pは大きく展開していく空間的な基盤を持つに至った。それと同時に、現代GPなどの大学教育改革を伴う地域連携活動に内包された「予期せぬ難問」に遭遇することになる。この点は、カフェサンク内での各種「学習教室」を始めとするコミュニティ・ボランティアの実態、ミニFMの経験などとともに、次回以降でやや詳しく掘り下げていきたい。
(つづく)

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