平成20年9月 第2330号(9月10日)
■"地域共創"の研究協議会開く 講演・事例発表など地域活性化に示唆
「夢・知恵・元気」を出せ!
小野晋也衆院議員「地方再生リーダー育成」の基調講演
日本私立大学協会(大沼 淳会長)は、去る八月二十七日、東京・市ヶ谷のアルカディア市ヶ谷において「平成二十年度“地域共創”に関する研究協議会」を開催した。研究協議では、「地方再生リーダー育成の考え方と私大協会への提案」をテーマにした自由民主党中央政治大学院学院長の小野晋也衆議院議員の基調講演をはじめ、(財)総合研究開発機構(NIRA)地域活性化研究会座長の山ア 朗中央大学教授、文部科学省高等教育局大学振興課の今泉柔剛大学改革推進室長の二人の講演のほか、高崎経済大学、岐阜経済大学からの具体的な事例発表が行われ、同協会加盟校から一〇〇大学・一二〇名余が参加して熱心に耳を傾けた。
同研究協議会は、私大協会基本問題研究委員会の担当(担当小委員長=小林素文愛知淑徳大学理事長・学長)のもとで開かれた。開会に当たり小林担当小委員長は「今日、地域活性化が叫ばれ、あらゆる分野で地域共創のネットワークづくりが必要とされている。特に高等教育関係機関に対する期待は大きい」などと挨拶して研究協議に入った。
●夢・知恵・元気
始めに小野議員が基調講演に登壇した。同氏は、これまで自民党文部科学部会長や文部科学副大臣等を歴任。文教関係に精進しており、現在では、自民党中央政治大学院学院長として、地域再生を担う人材を育む人間学講座を展開している。
同氏は、地方再生のリーダーに求められる資質として、個人の人生経営、地域(国家)の社会経営、大学の教育経営の面において、「夢」、「知恵」、「元気」がなければならないと語り、個人の人生設計では、自身の目標達成に向けて「自分の持てる力」を認識するとともに「他の力をどう活用し」社会に貢献できるのかを念頭に、将来の夢を抱き、知恵を絞って元気よく前進することが必要である。また地域(国家)の社会経営については、スペインの建築家アントニオ・ガウディのサグラダ・ファミリアを例に、綿密な設計図(知恵)を基に、世界一荘厳な教会建築の夢を抱き、その意志が、現在でもなお、鎚音を元気に響かせていると語った。
さらに、大学の教育経営についても、司馬遼太郎の「坂の上の雲」を建学の精神になぞらえて、長期的視点を持ち、日々の教育活動を着実に歩むことが大切であると力を込めた。
講演の最後に、「私大協会への提案」として、「地方再生プロジェクトコンテストの開催」、「教員職員・学生が一体となっての地方再生キャラバンの実施」などを提案し、今後の同協会の活動に期待を寄せた。
同氏の講演に対し、フロアから黒田壽二金沢工業大学学園長・総長(同協会基本問題研究委員会担当理事)より、「人間力とは『夢・知恵・元気』の三つに集約されるという示唆に富む話を伺った。地方では自分の大学だけの活動には限界があり、多様な選択肢を利活用して元気に地域再生に取り組んでいきたい」との感想が述べられた。
●人口減少時代の地域
午後からの講演では、まず、山アNIRA地域活性化研究会座長が、「地方再生へのシナリオ―人口減少時代の地域活性化―」と題して、社会環境を転換する条件のほか、人口減少時代の地域政策、豊かな地域社会の実現など、文科省の知的クラスター創成事業審査委員等の経歴等からの広い視野での地方再生施策の在り方の解説があった。人口減少時代の地域では、これまでの地域経済を支えてきた諸制度が行き詰まり、もはや制度的枠組に依存し続けることができなくなると論じ、一〇年後には、国土の九五%以上が人口減少地域になっているだろうと語った。
すでに地方生活圏の中には、産婦人科・小児科及び高度医療サービスや福祉支援サービス、商店街等の流通業など、生活水準を左右するサービス機能を維持できなくなりつつある地域も増加しているなどと述べた。その上で、地域政策の在り方として、@地方都市の都心のコンパクト化、A広域的生活圏構築のための都心へのアクセス確保、B生活の質の向上などを目指す必要があるなどと語り、低密度居住地域への対応にも言及した。
●戦略的連携を推進
次に、文科省の今泉大学改革推進室長が「大学間連携の現状と展望」について、大学を取り巻く状況、大学間連携の現状と支援などについて講演した。
同氏は、改正された教育基本法に明記された大学の教育・研究・社会貢献を目指した多様性と機能別分化に触れた上で、私大の厳しい経営環境の中で、今後の大学間連携の重要性を強調した。また、連合大学院、各種の連携協定を紹介し、政府の各種政策に対応した戦略的大学連携支援事業及び共同学部・共同研究科制度の概要なども説明した。
併せて、大学間連携で期待される効果として、@大学にとっては多様で特色ある教育研究の推進や教育水準の高度化、A学生にとっては、高等教育を受ける機会の実質的拡大、B地域にとっては、地域企業等との連携が促進されて地域の活性化が進むと結んだ。
●取組事例発表
引き続いて、取組事例としてNIRAリサーチフェローの新井直樹高崎経済大学地域政策学部非常勤講師から「大学と地域の連携のあり方―高崎経済大学地域政策学部の取り組みを事例に―」と題しての事例発表が行われた。
同氏は、大学と地域をめぐる環境の変化について、「地方分権時代の地域資源や地域の知の拠点の重要性が高まっており、経営・教員・学生の地域社会への参画による地域活性化への期待が大きい」と述べ、同大学の建学の精神である“地域社会のリーダーづくり”を目指して、今後も地域政策学部を中心に、地域連携を強力に推進していく考えを示した。研究面、教育面を通しての地域企業や行政機関等と連携した各種施策や調査・研究、プロジェクト、さらに文科省に採択されたプログラムなどの多くの実績を踏まえ、今後は大学と地域の対等なパートナーシップを目指していきたいと締めくくった。
取組事例の二つ目は、鈴木 誠岐阜経済大学経済学部教授・地域連携推進センター長・地域経済研究所長が「地域シンクタンクとしての地域連携推進センター」と題して発表した。
同氏は、同大学が一九九八年に地域社会との連携による教育活動の推進を目的に、大垣市の中心市街地に「まちなか共同研究室・マイスター倶楽部」を設置した。その活動に対する高い評価を背景に、二〇〇三年にはその上部組織「地域連携推進センター」を設立したと経緯を述べ、センターの運営は、「コミュニティ政策」、「自然環境」、「地域・人間スポーツ」、「地域情報化」、「地域福祉」を代表する教員及び研究・教育・学生支援に係る事務局で構成する運営委員会で行っている。
同センターでは、地域の各機関等と包括的地域連携協定を結ぶなど、今後一〇年間のビジョンづくりを推進している。
そのほか、同大学独自の特徴である「岐阜県コミュニティ診断士の派遣事業」について紹介があった。二〇〇二年度からスタートしたこの事業は、岐阜県知事と同大学学長の共同認証を得た診断士(二〇〇七年度現在一五〇名)を育成し、同センターに依頼のあった事業に派遣するもので、多くの実績が紹介された。
各講演、事例発表とも、終了後にはフロアとの質疑応答もあり、全日程をとどこおりなく終了した。