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平成20年8月 第2328号(8月27日)

高めよ 深めよ 大学広報力〈3〉
  トップの理解を得よ 広報力が大学救う 高いアンテナ持て

 広報セミナーから(下)
 「大学広報セミナー」(FCG総研の主催、七月二十四日、二十五日)の様子を二回に分けて紹介してきた。主に大学広報の現状やあるべき大学広報の姿を追ったが、二日間のセミナーで、参加者の関心をひときわ集めたのが大手商社広報部長によるワンポイントアドバイス。プロローグは二回で終わる予定だったが、大学広報の先輩格にあたる企業広報からの「大学広報への助言」を書き加えた。次回からは特色、実績ともにある広報活動を実践している大学を紹介していく。(文中敬称略)

 企業広報からの助言
 大学広報が世間で注目され出したのは数年前から。少子化時代を迎えUI(University Identity)が問われ出したのがきっかけだが、こと広報に関しては企業の方が先駆者だ。
 セミナー二日目の二十五日午前の講演は、住友商事広報部長、井場 満。タイトルは「わが社の広報一企業からのワンポイントアドバイス」。
 井場は、七五年、関西学院大経済学部卒業後、住友商事に入社。人事、自動車本部、デトロイト支店などを経て〇四年から広報部長に。四年四か月に及ぶ広報生活の体験を交えて語った。
 「大学にもステーク・ホルダー、いわゆるお客さんはいる。民間企業と根っこは一緒だと思う。住友商事の広報をしゃべることになるが、住商を○○大学と置き換えて聞いてくれればいい」
 攻めと守りの広報
 ユーモア交じりの大阪弁で話し始めた。最初のテーマは「攻めの広報と守りの広報」。
 「攻めの広報は、うちは、こういうことをやっている、こういう施設をつくった、など会社(大学)を世間にアピールする直接的な広報のこと。
 企業も大学も世の中からの理解度、認知度を上げるためには普段からの努力しかない。それによって企業は株価が、企業、大学はリクルート効果が上がる。
 この六月、日経新聞の『私の課長時代』という企画に当社の社長に出てもらった。六段の記事で、広告料金に置き換えると六六二万円といわれたが、これがタダでやれた。
 これはうちの広報が努力した結果だ。新聞の記事は広告と違って読まれるから効果はより大きい。こんなタダのツールを使うことを、もっと考えるべきだ」
 「守りの広報は、事件、不祥事、訴訟など危機管理の対応だが、私企業にとっては、きわめて大事だ。内部告発が当たり前の時代、対応を誤ると『船場吉兆』のように会社がなくなる。
 今年四月にまとめた、事故や不祥事を起こした企業に対する非好意的記事を広告換算(単位 百万円)したデータがある。
 野村證券  387
 JR東日本 216
 JR西日本 208
 野村はインサイダー取引、JR東は変電所火災、JR西は福知山線事故を起こした。三年経っても、非好意的記事が出る。
 商社、メーカー、そして大学にもマイナスイメージにつながる材料はごろごろころがっている。不正経理、パワハラ、セクハラ…。業界は関係ない。
 企業にとって事故や不祥事の対応はことのほか大事だ。対応を誤ると信用回復には相当な時間がかかる。うちは関係ない、と思わず、対応を誤らないことだ」
 井場は講演する際にパワーポイントを使った。プロジェクターから、こう映し出された。
〈広報 企業(大学)の全情報をコントロールし、戦略的・効果的に情報を発信する→企業活動に対する理解度アップ→企業イメージ、株価、信頼度アップ、リクルート効果〉
 「住友商事の広報戦略」でも「住商は、報道される質も量も“三井(物産)、三菱(商事)に追いつき追い越せ”と意識改革を図った」と腹蔵なく語った。
 つねに先手を打て
 「意識改革の第一歩として『社員一人一人が広報パーソン』という小冊子をつくって、東京の本社、大阪ブロックやグループ会社で説明会を重ね徹底させた。
 広報マンは社内外にセンサーを持ち、アンテナを高くしておく必要がある。他の鉄鋼会社で不正な事件が起きたら、うちの取引先は大丈夫か、とすぐに調べる。先手を打つことだ」
 井場は、神戸製鋼の元広報、山見博康が書いた「広報の達人になる法」から企業広報担当者が「日頃心がけている事」をコピーして出席者に配ってくれた。
 そのなかのいくつかを紹介したい。
 〈@何に対しても好奇心を持つことA人の話をよく聴くことB目的を持って、社内外のいろいろな人と会うこと アサヒビール広報部長〉
 〈@逃げないAめげないB嘘はつかないC労はいとわない 伊勢丹広報IR担当シニアマネージャー〉
 〈@クイックアクション、クイックレスポンス(いずれも信頼を得る源泉)A自社トップと極力毎日会話する機会をつくる(最低でも顔を見る) 三菱化学広報・IR室長〉
 〈@目標あるいはアウトプットイメージを明確にしてから仕事にかかるAリスクをとることを恐れないB迷ったら、楽しそうなほうを選ぶ ジョンソン・エンド・ジョンソン広報部長〉
 最後に、井場は「大学広報への提言」をしてくれた。
 「企業広報と(大学広報は)違いがない。攻めの広報が大切で、施設の近代化、一味違ったオープンキャンパス、市民講座など、広報面で仕掛ければ、学生募集に効果が出るはず。
 不祥事対応など守りの広報も避けられない。不祥事はどこの大学でも必ず起こる。起こったとき、どうするか、では遅い。日頃からメディア・トレーニングが必要だ」
 今回の大学セミナーには、井場と同じように、かつての企業の広報担当者が講演した。彼らも大学広報に暖かい助言をくれた。
 パネルデスカッションに出た広報コンサルタントの萩原 誠は元帝人広報部長。現在、企業のほか自治体のアドバイザーとして活躍。著作「広報力が会社を救う」(毎日新聞社刊)には、こうある。
 〈経営そのもの、行政そのものとしての広報が機能するには、有能な広報マンの存在が不可欠だ。また、トップの広報に対する姿勢によって“機能する広報”と“機能しない広報”が決まってしまう。広報はトップとの密接なコンビがあって初めて力が発揮できる。〉
 世の中の動きをつかめ
 「広報力が組織の明日を築く」と題して講演した広報コンサルタントの青柳栄一は元ミサワホーム広報部長。青柳は、講演で、こう語った。
 「私は広報の役目を四つの言葉で表現している、広める(大学の理念を広く知ってもらう)、創る(世相、トレンドを創る)、溜める(情報、人脈)、止める(イメージダウンの防止)。
 大学をよくしていくのが広報の役割。広報担当者は、世の中の動きをつかむことが大事。世の中の動きが自分の大学にどう関わっているか、自分で見つける。それには学内外にアンテナを張り巡らせることだ」
 企業広報の担当者が「大学広報」について語るとき、表現は異なるが共通して言うフレーズがある。井場、萩原、青柳の発言に出てくる「トップの理解」と「社内外に高いアンテナを持つ」。大学広報は「質も量も、企業広報に追いつけ、追い越せ」。

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