平成20年8月 第2327号(8月20日)
■e−サイエンスの新しい展開
金沢工大で国際ラウンドテーブル会議
金沢工業大学(石川憲一学長)は、同大学ライブラリーセンター(竺 覚暁館長)と米国図書館・情報振興財団は、国際交流基金の後援により、去る七月十日・十一日の両日、同センターにおいて、「図書館・情報科学に関する国際ラウンドテーブル会議」を開催した。今回のテーマは「e―サイエンスの新しい展開」。昨年の同会議のテーマであったe―サイエンスについてさらに論議を深めるため、各機関におけるe―サイエンスの活用などについて講演や討論が行われた。
開会式では、石川学長が「同会議は、今回で一五回目。グリッドコンピューティングを用いた学術研究分野に生じている情報の共有等の課題を論じることは、教育研究図書館の学術情報提供に対して大きな変化をもたらすもの。大いに討論、情報交換を行っていただきたい」と挨拶を述べた。
続いて、米国議会図書館准館長のディアンナ・マーカム氏が、同会議の主題などについて説明し、先進的な取組を行っている講師陣を紹介した。
第一日目は米国から招待された五人の講師の講演で、はじめに、ワシントン大学図書館サイバーインフラストラクチャー・イニシアチブ・ディレクターのニール・ランボー氏が「e―サイエンス・イニシアチブの結果としての研究図書館の変化:二〇〇八年の概況」と題して基調講演を行った。ランボー氏は、e―サイエンス・イニシアチブによって研究図書館に生じている変化に関する評価について、自ら所属する北米研究図書館協会の会員基盤に焦点を絞って考察を述べた。北米では、@図書館の大幅な組織変動を伴う「大きな変化」、A取組、コスト及びリスクに関して中間位置の「中程度の変化」が生じた研究図書館がほとんどないことを示した。研究図書館の変化が要求されるのは必至で、協同的な複合領域的科学を支援する、ユーザーを中心に据えた強力なインフラストラクチャーの創造が求められている、と述べた。
米国図書館・情報振興財団(CLIR)プログラム・ディレクターのエイミー・フリードランダー氏は「夢の実現に向けて:科学、サイバーインフラストラクチャー、そしてCLIR」と題した講演を行った。e―サイエンスはサイバーインフラストラクチャーの作用によって実現するものであること。また、図書館の保存機能に対して幅広い支持があることを明らかにしながら、アクセスの相互運用可能なネットワークの構成要素として機能することが求められているとも指摘した。こうした現状を踏まえ、同財団はサイバーインフラストラクチャーの開発における調整的役割を果たしていくのみならず、他の機関との協力や提携を模索していること等について述べた。
休憩の後、米国国立農学図書館館長のピーター・R・ヤング氏が「米国国立農学図書館とe―サイエンス」と題し、同図書館の使命と目的、現在のイニシアチブについて講演した。まず、同図書館は関連する情報資源と情報サービスにより米国農務省の任務の支援と協力を行っていること、コレクションとその構築・保存、配信サービス等について紹介した。また、五○○万件を記録し、インターネット上で検索可能な同図書館コレクションの目録兼インデックスをはじめとする、情報管理と情報技術から、農業e―サイエンスおよび農業・農学のための国立電子図書館(NDLA)の構想に至るまでを述べた。
ジョンズ・ホプキンズ大学図書館准館長のG・サイード・チョードリー氏は「ジョンズ・ホプキンズ大学におけるe―サイエンス」と題した講演を行った。三次元宇宙地図作成プロジェクトである@スローン・デジタル・スカイ・サーベイと、A国立仮想天文台という二つのデジタル天文学プロジェクトについて説明を行った。それらプロジェクトの基幹技術であるデータベース技術とウェブ・サービスは、データの相互運用性と用途を拡大させ、データを取得するにつれ、データを体系的に分類するためのプランとインフラストラクチャーが必要になったことを例に挙げた。図書館のデータ・キュレーションに関する専門技能が高まるにつれ、データの長期保存と長期的アクセスに対するサポートを図書館に求めるe―サイエンス・プロジェクトの数も増加すると述べた。
第一日目最後に、カリフォルニア大学サンディエゴ校ガイゼル図書館館長のブライアン・E・C・ショットレンダー氏が「カリフォルニア大学サンディエゴ校におけるサイバーインフラストラクチャーに基づくe―サイエンス支援の推移と進展に対する個人的見解」と題して講演を行った。同大学とサンディエゴ・スーパーコンピュータ・センターの各時代の各プログラムにおけるサイバーインフラストラクチャーの変遷、日々増加するデジタル資産を整理、保存、アクセス可能にする必要性を提唱してきたこと等を解説した。
第二日目は、質疑討論が行われ、参加者はe―サイエンス進展に関するより詳細な問題について討論した。