平成20年7月 第2325号(7月23日)
■教育学術充実協議会を開催
文科省・清水生涯学習政策局長が"高等教育の将来像"を展望
日本私立大学協会(大沼 淳会長)の平成二十年度(通算第三六回)教育学術充実協議会(担当理事=中原 爽日本歯科大学理事、福井直敬武蔵野音楽大学理事長・学長)が、去る七月十四日、東京・市ヶ谷のアルカディア市ヶ谷において、加盟三八二大学から一九五大学の学長等を中心に二五八名が出席して開催された。メインテーマを「学士課程教育の構築と教育の質保証」とし、「二十一世紀の大学―新たな戦略と挑戦―」と題する清水 潔文部科学省生涯学習政策局長(前高等教育局長)の講演をはじめ、「二十一世紀のリベラルアーツ―ICUの挑戦―」、「学士課程教育の構築とその質保証の動向」と題する三つの講演のほか、講師を交えてのフロアとの意見交換等の研究協議も行われた。なお、協議終了後には情報交換会も行われた。
開会に当たり、中原担当理事は「ユニバーサル時代となって、だれもが大学に入学できる時代になり、単に学部教育の修了者に与えられた称号としての“学士”から学位として規定される学士課程教育においては、その教育の質の保証が重要になる。今日は、中教審の審議に深く関わられた皆さんから、教育現場に携わられる先生方にとって大いに参考となるお話が聞けるものと期待しております」と挨拶した。
さっそく協議に入り、まず、中教審の大学分科会等で答申案の審議等に精力的に取り組んできた清水生涯学習政策局長が「二十一世紀の大学―新たな戦略と挑戦―」と題し講演した。
同氏は、まず、高等教育政策の国際的な動向についてEUのポローニャ・プロセス(二〇一〇年までの「欧州高等教育圏」構築)として@学士三年、修士二年、博士三年の学位課程制度の導入、A単位互換システム等の導入、B質保証の共通システムの構築、Cエラスムス計画が進んでいること、また、中国の国家教育事業第一一次五か年計画など、質保証を含めての世界の動向を紹介した。その上で、我が国のこれまでの高等教育改革の取組として、制度改革、財政支援などを具体的に解説した。
次に、去る七月一日に閣議決定した教育振興基本計画を背景にした今後取り組んでいく五つの挑戦について解説した。「挑戦その一」は、『世界最高水準の大学の形成』として、日本の大学の英国TIME誌等における世界トップ二〇〇大学入りめざしての“留学生比率”や“外国人教員比率”の拡大をめざす必要があること、「挑戦その二」は、『「留学生三〇万人計画」と大学グローバル化』として、二〇二〇年を目途に留学生受入れ三〇万人を目指す受入れ体制等について、外務省、経済産業省、法務省、国土交通省、厚生労働省等の総合的連携のコンセンサスを得て推進すること、「挑戦その三」は『大学の質の保証』として、事前評価(設置認可)と事後評価(認証評価)のほか、分野横断的に共通して目指す学習成果の参考指針、個々の大学の学位授与の方針等、分野別質保証の枠組み作りを目指すこと、「挑戦その四」は『教育研究の基盤整備』として、教育研究及びその施設・設備の強化を支援すること、「挑戦その五」は『評価・資源配分』として、国立大の運営費交付金の在り方等について、教育振興基本計画に関わる議論等も踏まえ、中長期的な視野から我が国の高等教育の将来像を展望した。
引き続き、佐藤東洋士桜美林大学理事長・学長をコーディネーターに、「学士課程教育の構築と教育の質保証」をテーマに、鈴木典比古国際基督教大学学長が『二十一世紀のリベラルアーツ―ICUの挑戦―』と題して、実効性のある教育課程の構築に向けて鍵となる種々の取組みを有機的に統合する授業マネジメントの導入等について解説した。
同氏は、まず、リベラルアーツ教育のしかけとしての対話の必要性を強調した上で、ICUの開学以来の一貫したリベラルアーツ教育について、教養学部一学部制、日英両語を公用語とするバイリンガリズム、学問分野間の境界を超えた知識の探究、学生の自律的学修を挙げるとともに、クラスマネジメントの在り方に関連して、@授業は肉体労働である(教員は授業中に万歩計)、A机椅子は移動可能なタブレット型、B教員の花道(動く空間)をつくる、C前回の授業での不明点を解消する(コメントシートの活用)、DTAの活用、ディスカッションセッションの利用、E教員は授業を独占しない、F授業工程表としてのシラバスの充実(予習のため)などのポイントを示した。そのほか、改革のポイントとしてICUでは、二年次の終わりまでに三一のメジャー(専修分野)から専攻を決めることやいろいろな場面での教員アドヴァイザーの役割を述べ、今後の課題に触れて講演を終えた。
次に、黒田壽二金沢工業大学学園長・総長が『学士課程教育の構築とその質保証の動向』と題して、国際的通用性を備えた学士課程教育の構築に向けた中教審の審議内容について概観するとともに、急速に検討が進む学士課程教育の質の保証の取組みについて講演した。
同氏は、「学士課程教育の構築に向けて(審議のまとめ)」をもとに、今後取りまとめられる答申案の特徴について、「大学の取組」と「国の支援・取組」とに分けて記され、より実効性のある形になると述べた上で、学士課程教育の構築の具体的方策として、@ディプロマ・ポリシー、Aカリキュラム・ポリシー、Bアドミッション・ポリシーの三つの方針に基づいた組織的教育活動に加え、C教職員の職能開発、D質保証システム等によって教育活動の実質化を促進することが重要になると強調した。
学問分野を横断した共通的な教育成果である「学士力」については「二十一世紀型市民」としての基礎的な力であり、経産省の「社会人基礎力」、厚労省の「若年者就職基礎能力」といった社会的要請とも一致した力であると述べた。
また、質保証システムについて、大学設置基準等の見直し、第二クールを迎える認証評価の在り方、分野別評価の導入等の必要性、さらに、大学団体の役割として教育研究の自主性・自律性の確保が期待されることなどを挙げて各項目を詳細に解説した。
さらに、教育の質を最終的に誰が保証するのか、国際的通用性をどのように図るのか、分野別質保証をどのように図るのか、「学士力」の学習成果をどう図るのか、といった今後の課題を述べて締めくくった。
最後に、講師を交えてのフロアとの意見交換等の研究協議に移り、会場からは、「医学部等六年の修業年限を持った学部や、国家試験と直結する学部等の学士課程教育としての在り方については、どう審議されているのか」、「レイトスペシャライゼーション型の教育を小規模の大学で実践する場合難しい点は何か」といった質問が投げかけられた。また、黒田氏は、質保証の問題として、大きな大学と地方の小さな大学とを一律に評価して良いのか、その偏りを正していくためにも大学団体の果たす役割は大きいと述べた。
協議の終了後、福井担当理事がお礼を述べるとともに「国際化が進む中で量的拡大ということと質的保証を両立させていくことは難しいが、究極的には各大学が責任を持って解決していかなくてはならない。課題は山積しているが、今後も登録委員一丸となってこの協議会を一層充実させ、課題に取り組んでいきたい」と締めくくった。