平成20年7月 第2324号(7月16日)
■「基礎学力不足」「学習意欲低下」 大学の授業 私情協が"授業改善白書"
私立大学情報教育協会の調査から、大学の授業で直面している問題は、「基礎学力の不足」、「学習意欲の低下」であることなどが浮かび上がった。このことは、去る六月の平成十九年度「私立大学教員の授業改善白書」で公表されており、その概要は次の通り。
基礎学力不足と学習意欲低下は、特に理学系・工学系で七割に近い教員が問題視。初等の数学や読解力の不足は授業の障害になっており、初年次教育等による組織的な対応が急がれる。
しかし、学習意欲向上の工夫が容易ではないことも調査から明らかになった。教員も、今後は学生の動機付けを実現する授業デザインの工夫や理解度に応じた授業だと考えている。なお、学びの動機付けを高める手法として、二割強の教員が授業で獲得できる能力、授業価値の明確化の徹底を挙げた。
大学に関する問題では、教育に対する危機意識の低さと、組織的な支援がないことが指摘された。教育力の向上やFD等は、組織的な取組が前提となる。大学が持つ基本的な教育目標の共有化、意識合わせを大学の責任の下で進めることが望まれる。更に、教員の意識改革と学習到達度の点検による出口管理の徹底が課題とされた。
四割の教員が知識偏重型の教育から達成感や自己実現力などの人間基礎力の向上を目指した教育を求めており、三割が教育力の再開発を課題としていることも分かった。こうした背景や義務化もあり、FDは八割以上の大学で実施され一般的となった。
しかし、FD推進は問題意識を持つ教員に留まっている。内容も、講演型が多い。FDの成否は教員の自主参加であることから、四割近くが教員の「教育力の自己点検」、「優れた授業を評価・顕彰する制度の導入」が重要であると考えている。今後は、専門分野ごとに教育力の点検項目を整理し、教員が自主的に自己点検・評価ができるしくみが望まれるが、教員の参加と大学の組織的な取組が求められる。
授業にITを活用している教員の割合は大学で三割(六万五九〇三名)、短大で四割(三七三一名)であった。
情報技術の使用状況では、「理解困難な理論のアニメーション化・映像化」、「理論と実際の映像によるマッチング」が三年前と比較して二倍以上となった。新しいIT活用法としては、授業の理解度把握に携帯電話の活用が一割程度で今後も増加。ネットを活用した授業アンケートは、現在は一五%程度だが、二年後には五割の教員が企画している。
eラーニングの使用については、今後拡大することが予想されるが、一方で、教員側の希望と大学側の対応とにずれがあると計画通りには実現できない。教員の希望に即して、大学側がどこまで教育改善に力を注ぐことができるか、大学の姿勢にかかっている。
情報技術は、先に挙げた問題である動機付けや学習意欲の向上にも繋がっている。効果を認めた教員は二割から三割に達する。しかし、成績の向上には直接寄与していないなど、効果を発揮しないものもある。
一方、問題もある。ノートやメモを取らなくなる傾向が顕著になっている点だ。学生が「理解しているようで、理解していない問題」は、三年前と同じ五割程度で解決策は見つかっていない。
こうした課題に対して、「パワーポイントを使用する際は、メモを取らせる工夫や一方通行的な説明を中断して質問を投げかけるなど、情報技術とアナログを織り交ぜた授業設計の工夫が必要」などと提言している。教員の六割は、授業シナリオの作成過程で、学生の理解度を高める工夫をしている。
私立大学情報教育協会は、私大・短大等の情報教育の振興・充実を図ることを目的に、平成四年に発足した。約三三〇学校法人から構成される。
調査は、同協会加盟の大学・短大の専任教員(助教以上)が対象。回収率は大学で三三・一%の二万一七九七名、短大で四八・四%の一八〇六名だった。