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教育学術オンライン

平成20年7月 第2322号(7月2日)

「学力低下は錯覚である」 神永正博 著

 理系の思考回路は文系とはいささか異なっているようだ。本の帯に「明治大文学部教授、斎藤孝さん推薦」。こう書いてある。
 〈イメージで語られやすい学力低下問題を、客観的データに基づいて、冷静に議論しようという科学的態度が素晴らしい〉
 「学力低下」の原因はゆとり教育にあり、「円周率を3と教えている」という風説を、こう論破する。
 〈学習指導要領には「円周率としては3・14を用いるが、目的に応じて3を用いて処理できるよう配慮するものとする」とあるのみ〉データで詰める。
 〈「ゆとり教育は円周率を3と教える愚かな改革だ」と信じていたのだ。信じた理由は「周囲がそういっていたから」ということだけのこと〉自省する。
 著者は、日立製作所勤務のかたわら博士号を取得、四年前から東北学院大で数学・情報工学を教える。
 「理工系離れ」については〈昭和四十五年も平成十七年も男子の四人に一人は工学系に進学している〉〈女子学生が増えれば工学系の学生比率は下がる〉
 文系に比べて生涯賃金が五千万円も違うという通説への反論も切れ味鋭い。
 〈五千万円は、文系で最も稼げる金融業を含む社会科学系と医・歯学部を含まない工学系一般を比較した差だ〉数字で雪隠詰め。
 政府の教育振興基本計画策定の際、議論となった教育予算の大幅増にも言及。
 教育費支出割合の国際比較などのデータを示しながら〈何らかの公的な補助を与えるなどの施策が望まれる〉数学者の言だけに重たい。
 常識といわれる通説に理詰めで挑む理系の神永先生。文系の先生方も落ち落ちしていられないぞ。

 「学力低下は錯覚である」
 神永正博著 森北出版株式会社
 TEL:03-3265-8341
 定価1800円(+税)
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