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平成20年5月 第2316号 (5月21日)

"学士課程教育"でヒアリング 私大団連が意見発表
 改革への財源確保、私大の充実発展訴える

 日本私立大学団体連合会(安西祐一郎会長)は、去る五月十三日、文科省内講堂で開催された中教審大学分科会制度・教育部会委員懇談会での、「学士課程教育の構築に向けて(審議のまとめ)」に係るヒアリングにおいて、同連合会高等教育改革委員会の鈴木典比古委員(国際基督教大学長)が意見発表した。意見では、我が国の国力の源泉が高等教育であることに鑑み、答申にあたっては国民が納得できる国家的方針の提示を求めるとともに、教育振興基本計画における公財政支出の引き上げ、さらに、私立大学に対する教育投資の充実・拡充なくして具体的方策の実現は到底成し得ないとの総論を述べた上で、五項目にわたる意見開陳を行った。なお、当日は国立大学協会、公立大学協会からも財政支援等の意見が述べられた。

 同連合会の意見は、先立つ九日開催の第一回高等教育改革委員会(黒田壽二委員長)で取りまとめられたもので、その概要は次のとおりである。
 一、我が国の学士課程教育が目指す方向性を明確に提示すること
 全編を通じて、我が国の教育制度全体、さらに言えば学士課程教育が目指す方向性が明確に示されていない。文科省は、いわゆる欧州型(高度専門職養成)を目指すのか、合衆国型(学部段階では一般教育、大学院段階では高度専門職教育)を目指すのか、外国に範をとらない日本型とも言うべき新しい理念を構築するのかなど、その方針を明確に提示すべきである。
 なぜならば、「審議のまとめ」に示された改革の具体的諸方策は、国の方針を踏まえつつ、各大学がそれぞれの教育理念に基づいて実現していくべきことと考えるからである。
 二、分野別の質保証においては「教育の多様性」を十分斟酌すること
 分野別評価の実施を視野に入れて、到達目標の設定、コアカリキュラムの策定、FDプログラムの研究開発など、分野別の質保証の枠組みづくりを日本学術会議に審議依頼した上で必要な取組を行うとされているが、分野別の到達目標やコアカリキュラムの設定等が、ともすれば、他律的かつ一律的な教育の標準化につながる懸念を払拭できない。「我が国の高等教育の将来像」答申において、大学は“自らの選択”により、緩やかに七つの例示に機能別分化していくことを提言されているが、各大学の掲げる教育目標によって、その到達目標やカリキュラムは自ずと異なったものとなる。各大学の自主性に基づく多様な教育が阻害されることがないよう「教育の多様性の確保」に十分斟酌すべきである。
 三、改革の具体的方策実現に向けた安定的財源確保を明示すること
 改革の具体的方策が「大学の取組」、「国による支援・取組」として示されているが、その実現のためには財源の確保が急務である。しかしながら公財政支出の具体的目標がまったく数値化されていない。
 「審議のまとめ」にあるように「社会からの信頼に応え、国際通用性を備えた学士課程教育の構築に向けて、これらの方策が確実に実行されることを期待する」のであれば、国の責任において、その礎となる教育投資の充実、効果的な教育投資の在り方等についての明確な施策として、〇・五%と極めて低い我が国の国内総生産(GDP)に対する高等教育への公財政支出比率を、欧米諸国並みの約一%程度まで早急に引き上げることを明示すべきである。
 四、教育立国の実現には、私立大学の充実発展が不可欠であること
 「おわりに〜改革の加速に向けた社会全体の支援を〜」の(教育費負担の在り方の見直しを)では、学士課程教育に果たす私立大学の大きな役割についてまったく触れられていない。日本の国力は、大学教育の七五%を担う私立大学によって保持されている現状を踏まえれば、教育振興基本計画の答申でも謳われている「我が国の教育立国の実現」に向けては、私立大学の充実発展が国の最重要課題である。そのためには、いわゆる『骨太の方針二〇〇六』に明記された「私学助成は対前年度比▲一%とすることを基本とする」考え方は撤回すべきである。
 私立大学における教育環境の改善は、自らの学費負担のほか、税金を通して国立大学に通う学生の授業料の分まで「二重負担」を強いられている学費負担者の学生納付金に、その大半を頼らざるを得ないことは周知の事実である。国は、すでに受益と負担の公平を自明の理とする先進諸国に倣い、財政に裏打ちされた国立大学法人との懸隔を解消する施策(アクションプランを含む)を提示すべきである。
 五、大学団体として日本私立大学団体連合会が果たす役割
 私立大学は、それぞれの建学の精神に立脚しつつ、社会の基盤となる人材を育み、多様な知を創出して、社会の発展に大きく寄与してきた。本連合会は、構成する三大学団体の協力・連携の下、文科省をはじめとする関係機関との信頼・協力関係を築きながら、私立大学の教育研究条件の充実・向上のみに偏することなく、我が国全体の学術・文化の振興と社会の発展に力を尽くしてきた。
 今後とも、大学団体としての役割を厳しく受け止め、国と適宜連携してその機能を強化し、学士課程教育の構築のためにも、その役割を果たしていくことを表明する。

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