平成20年4月 第2313号 (4月23日)
■改革担う大学職員 大学行政管理学会の挑戦@
学事研究会
学事研究会の活動 "学士課程"審議まとめも研究テーマ
大学改革を高度化していくには、大学職員の活躍が不可欠であることは議論の余地はない。大学行政管理学会(横田利久会長)は、プロフェッショナルとしての大学行政管理職員の確立を目指して、「大学行政・管理」の多様な領域を理論的かつ実践的な研究を通して、全国の大学横断的な職員相互の啓発と研鑽を深める専門組織として一九九七年に発足した。今号から月に一度、同学会の各研究会などにおける取組内容を報告する。
1. 学事研究会について
学事研究会は二〇〇四年十月に発足した研究会で、教育施策、教育行政及び学事法制の研究、各大学の事例等を通じて、そこから課題を発見し、将来に向けて大学における学事とは何か、学事におけるアドミニストレーターの機能・役割とは何かについて追究することを目的としている。
発足の背景には、ともすれば従来の研究会が人事、財務といった法人業務中心になりがちだったので、大学における学事(教学)事項の重要性に鑑み、その研究の活発化に資するための活動が求められていたことが挙げられる。
会員数は登録会員が現在四〇名程度で、年間七回(五〜七、十〜十二、三月の原則として第二土曜日)、研究会を開催している。内容としては、研究発表、事例発表および講演などを行い、幅広く活動している。講演を実施する場合でも必ず研究発表または事例発表は盛り込むようにして、会員の研究意欲・能力の向上を目指している。
これまでの四年間の発表テーマの幾つかを例示すれば以下のとおりである。
〈研究発表〉
@教養教育の系譜―大学職員のための教養教育論、Aアメリカの大学におけるエフォートの管理、B一三〇〇年前の学則―学令を読む、C学生支援における組織改革の影響要因について
〈事例発表〉
@芸術教育の現状と学生サービス、A前納入学金・授業料返還訴訟を通じて見えてきたこと、Bグローバリゼーションにおける法学教育の発展と可能性―アメリカと日本の法曹教育制度、C学生満足度向上のための学生モニター制度「教務課って…」からの脱却
上述の事例発表のうち、CはD大学において教務課が講じている施策や取組みの多くが、学生のニーズと合致していないか、理解されていないことに大きな危機感を抱いた課の職員が管理職に働きかけ、プロジェクトを発足させ、学生モニター制度を導入する過程・結果の報告であった。
学生モニターを学部・学年を考慮しつつ募集して、モニター対象項目のa. 刊行物(時間割、シラバス、履修の手引き)、b. 履修登録(ガイダンス、相談)、c. 教務課窓口(取扱事務、応対、場所)、d. 定期試験(レポート、試験科目、試験時間割)について課題をモニターの座談会によって抽出してもらい、学生・職員双方により改善項目と解決策を具体化していった。このことにより、教務課としての施策が客観化され、学生と職員との意識の共有化が図られるとともに職員が自分の業務の振り返りをする習慣が生まれたとのことであった。
本学でもオープンキャンパス等で大勢の学生スタッフを活用しているが、熱心さ、親切さで高校生、その父母に好評である。学生を活用して業務改善・改革を進めることの効果及び重要性を示したものといえる。
2. 「学士課程教育の構築に向けて(審議のまとめ)」を読んで
先月三月二十五日に中央教育審議会大学分科会制度・教育部会から「学士課程教育の構築に向けて(審議のまとめ)」が公表された。二〇〇五年一月に出された中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」において「現在、大学は学部・学科や研究科といった組織に着目した整理がなされている。今後は、教育の充実の観点から、学部・大学院を通じて、学士・修士・博士・専門職学位といった学位を与える課程(プログラム)中心の考え方に再整理していく必要がある」との指摘を踏まえての提言である。学士課程教育は、どのような学位を与えるのか、それに相応しい学習成果(アウトプット)から教育プログラムの構成を考えなくてはならないということである。
同まとめでは、各大学に「三つの方針」を確立することを期待して、その実践を担う教職員の職能開発の重要性を提起している。
三つの方針とは@アドミッションポリシー(入学者受入れ)、Aカリキュラムポリシー(教育課程編成・実施)、Bディプロマポリシー(学位授与および実践の必要性)のことであり、このことは今月十八日に出された中教審答申「教育振興基本計画について」でも強調されている。今後の状況によっては、@〜Bについて文部科学省から大学設置基準等の法令改正によって実施の具体的担保を求められることもあり得るのではないかと思う。
同審議のまとめでは、学士の質保証を図るために「大学間の健全な競争環境の下、各大学が自主的な改革を進めることと同時に自律的な知的共同体を形成・強化し、大学間の連携・協同や大学団体等の育成を進めることが極めて重要である」としている。「競争」そして「連携・協同」がこれからの大学改革のキーワードであると考えると、今後これに関連する研究テーマが本研究会で更に取上げられることが望まれる。
さらに教育研究活動の質的向上を支援する組織やネットワークの必要性も論じられ、大学団体、各分野の学協会、職員の職能団体などの果たす役割・機能の重要性を指摘している。このことからも本学会そして各研究会活動の意義や期待される役割を読み取ることができる。
3. 今後の研究会活動について
本研究会では年間の統一テーマを定め、その大枠内での発表、講演等を計画・実施している。二〇〇六〜二〇〇八年の統一テーマは「大学の競争力」であり、本年二〇〇八〜二〇〇九年は「大学の個性と教職員の役割」と定めている。発表は必ずしも全てこのテーマ範囲に拘束されるものではないが、予め示すことによって、学事という幅広く、奥が深いテーマの下、取上げる課題の方向性になるべくバラツキが出ないよう配慮している。
過去の活動内容・回数を区分すると@研究発表:一六、A事例発表:一四、B講演:四、であり、研究発表と事例発表のバランスがとれている。
さらに毎年度「年次報告書」を作成し、一年間の活動記録を纏めると同時に、各メンバーの関心事項についてのレポートを採録し、研究成果の集積にも繋がるようにしている。
二〇〇七〜二〇〇八年度については「大学用語の基礎知識(仮題)」の作成作業に着手している。各メンバーが大学に関連する用語を教育、研究、社会、団体等のカテゴリーに分類・整理して冊子に纏めようとするものである。このような試みはこれまであまり聞いたことがなく、意味のある取組みと認識している。
今後の活動の方向性として、統一テーマに沿った形での講演を増やすこと、ならびに事例研究を単なる大学での取組み紹介等に終わらせず、なぜあの大学では実現できたのか、実現できなかったのかなど、その要因を報告者と参加メンバーで探り出すような、実質的な意見交換の場としていきたいと考えている。
今年度第一回の学事研究会は五月十日(土)一五時から「学籍」をテーマとして大正大学(東京・豊島区)で開催される。研究会は原則としてオープン形式で会員以外の参加も可能なので、奮って参加頂きたい。