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平成20年4月 第2312号 (4月16日)

地域に開かれた大学
  開学8年 東北公益文科大学

「大学まちづくり」発信 地域共創の仕組みに腐心

 公益大が進めてきた地域との連携・交流は、どこの大学でも多かれ少なかれ行われている。公益大の特色は、創設時に「地域に開かれた大学」として計画され、大学が「大学まちづくり」をうたって発信してきたことに呼応して、地域の側(行政、市民団体・NPO、各種機関・施設、企業、市民個人など)から、連携を期待し、積極的に進めようとする強い意思と働きかけがあったところである。
 「大学まちづくり」とは、大学が地域の一員として、地域全体のまちづくり、環境づくりを視野に入れ、それらと調和する大学づくりを進めることである。一般に大学は、高度な教育研究を推進し、その成果を地域に還元し、優れた人材を送り出すことで地域に貢献することが求められている。それに加えて、「大学まちづくり」は、よりよい暮らしとよりよい地域の実現を大学と地域の共通の目標として、大学教職員・学生と地域の市民・諸機関・団体等が手を携え、協力しながら、地域の課題解決に向けて進んでいくことをめざしている。つまり、大学から地域への一方向の「貢献」に止まることなく、双方向の「協働(協力してともに働く)・共創(ともに創る)」を志向しているのである。
 地域共創センターの開設
 地域の方々からも具体的な連携の働きかけを数多く頂き、交流や活動が活発に繰り広げられてきたものの、当初から、それを受け止め、実現していくためのしくみが大学側に整っていたわけではなかった。また、連携・交流活動の集約・記録、あるいは活動相互の関連づけ、さらには総合的・計画的な推進が行われてきたとはいえない。
 そこで、地域との連携窓口を一本化し、地域と協働・共創するしくみが必要であるという認識が、小松隆二学長をはじめとする教職員の中に高まっていった。何度も集まって議論を重ね、構想されたのが、「地域共創センター」(以下、「共創センター」)である。
 二〇〇六年五月、酒田市公益研修センター(公益ホール)内の一室に、東北公益文科大学地域共創センターが誕生した。
 共創センターの役割は、大学まちづくりの更なる充実にむけて、行政や企業、地域の人びとと大学を「むすぶ」ことであり、大学の教育研究の成果と地域の課題解決、地域活性化とを「つなぐ」ことであり、また、大学の教職員・学生と地域の様々な人びとがともに活動して「つどう」ことの推進である。すなわち、地域と大学との間を「むすぶ・つなぐ・つどう」拠点として、設置されたものである。
 主な事業の中の、公益教養プログラム「フォーラム21」は、二〇〇一年の開学以来継続してきた公開講座である。市民と学生を対象に行われる講演会、シンポジウム、ワークショップ、音楽鑑賞、映画鑑賞、学生による発表・報告会等が毎月のように開催されており、いまや市民の間にしっかりと定着した感がある。大学が単独で主催するばかりでなく、県や地元市町、NPOなどとの共催事業も数多く行われている。
 学生まちづくりサミット(まちサミ)
 二〇〇六年十一月、共創センター開設記念事業として、「学生まちづくりサミット二〇〇六 in 酒田」を開催した。全国初の、まちづくりに関わる学生が一堂に会しての(一二大学が参加)、二日間にわたる活動報告と交流の場で、全国の学生たちの活動を知りたい、まちづくりに関わる学生たちと交流したいという思いを形にしたいと、公益大の学生たちにより企画されたサミットであった。
 二つの分科会において、八大学、二高校による事例発表や、宣言起草会議の開催、学生以外の教職員・市民による「教職員セッション」では、まちづくりと教育研究をめぐって、熱心な議論が続けられた。また、酒田市交流ひろばでワークショップを行い、さかた街なかキャンパスにおける「学生まちづくり宣言 in 公益大」を採択した。宣言には、理念として「人のために、まちのために、私たちのために」が掲げられ、行動指針として「学生まちづくりにおける課題の共有」「全国から継続的に集い共に学びあいながら、学生の輪を広げること」「継続性のある活動」「まちづくり活動を通して楽しむこと」がうたわれている。
 武蔵弘幸実行委員長(第四期卒業生)は、まちサミで多くの発見があり、その一つが「公益大の学生と教職員の隔たりの無い関係の再発見」だと述べている(「地域共創センター通信」vol.11)。短い準備期間にもかかわらず、参加者が満足してくれるまちサミができたのは、そのおかげだと言う。主体は学生であり、教職員・市民はその支援に回るという実行委員会のあり方は、課題も残したものの、学生たちが協働の成果を実感してくれたとすれば、幸いなことである。
 まちサミは、全国的な賞を受賞するとともに、二〇〇六年二月の関西学院大学における「全国学生まちづくりフォーラム」、そして二〇〇七年九月の愛知大学を中心とした「全国学生まちづくりサミット二〇〇七 in 豊橋」へと発展した。公益大の学生も引き続き、発表や運営に参画している。
 市民交流ミーティング
 共創センター事業のなかで、市民との協働・共創のしくみの中心となっているのが、市民交流ミーティングである。様々な立場の市民(行政、企業、学校、NPO・市民団体、他大の学生、個人など)と教職員・学生との話し合いと交流の場を創ってきた。
 毎回のテーマは、「大学と市民の共創について語り合いませんか」「市民と大学が共創する活動は、まちづくりにどのように貢献できるか?」「市民と考える『大学祭』」など。いずれも、「一緒に考えましょう」と市民に語りかける内容である。
 全員での意見交換、小グループに分かれて話し合い、発表し合うワークショップ形式など、回を重ねるごとに様々な方法で行ってきた。ワークショップの際は、学生たちがファシリテーターやグループワークの進行係・大判用紙への記録係などを積極的に引き受け、その中でファシリテーションや事業を運営する力をつけてきた。市民・教職員・学生の中で経験を積むことによって鍛えられ、学生たちはまちづくりの手法としてのワークショップや「対話」の重要性を学んでいる。
 市民交流ミーティングでの話し合いが元になり、大学と市民が協働し、実現に至る企画も生まれてきた。「大学祭」における市民によるナチュラル・カフェ、全国唯一の学生による参議院選公開討論会、砂防林育成ボランティア活動などである。このような成果がある一方で、参加者の固定化や減少傾向など、ミーティングの問題点も見えてきた。メーリングリストによる情報交換・交流というITを活用した手法の活用も課題である。
 二〇〇八年三月の第五回市民交流ミーティングでは、「共創センターの課題である地域との共創は、大学全体として取り組むべき」「大学のセンターとして、しっかり機能してほしい」といった市民からの厳しい意見が出された。市民対大学という構図にならないよう、大学側はつねに「ともに」という姿勢で臨むよう心がけてきたが、それだけでは十分でないことに気づかされた。学内において共創センターの位置づけを明確化し、より多くの教職員・学生をまき込んだ「大学まちづくり」の拠点としていくという課題が、明らかになってきたのである。
 (つづく)

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