Home日本私立大学協会私学高等教育研究所教育学術新聞加盟大学専用サイト
教育学術オンライン

平成20年4月 第2312号 (4月16日)

FDの本質は日々の地道な活動
   FD義務化 田中毎実 京大高等教育研究開発推進センター長に聞く

 本年四月より、学部教育でのファカルティ・ディベロップメント(FD)が義務化された。このたびの義務化に際して、文部科学省は、個別の教員ではなく、大学組織全体として取り組むこと、また、単に講演会を開いたなどの取組では不十分であること、などを示している。FDに長年取り組んでいる京都大学高等教育研究開発推進センター長の田中毎実教授に話を聞いた。

 ―田中教授は、「相互研修型」のFDを推進していらっしゃいます。これはどのようなものでしょう。
 私は京都大学で、長い間、いわゆるFDの活動と組織化を行ってきました。FDは下の図にあるような種類に分けられると思います。「講演会」に代表される、外部から講師を招いて研修を行うパターンは、左上の「IV型(伝達講習・制度化型)」ですが、一般的にはこの活動が多いと思います。
 しかし、教員が本当に意味がある、意義があると感じるのは、右下の「II型」だと思います。日々の講義の中で行っている工夫や改善について、感じている疑問や気付きを教員同士で共有、相互に議論ができる活動です。
 このII型のFDを「相互研修・自己組織化型」と呼んでいます。新しいことを始めたり、学んだりというよりは、日々行っている活動を捉え直すことが中心となります。
 「I型」は教員が自発的に、外部の講師を招いたりして研修を行う「伝達講習・自己組織化型」。III型は、日々の活動を捉え直す相互研修型ではあるのだけど、トップダウンで参加が義務付けられているような「相互研修・制度化型」です。
 昔ながらの講義を変えない教員もいますが、日常的な工夫や改善をしていないと、なかなか「相互研修型」にはなりづらい面もあります。
 ―昔ながらの授業を変えない教員に対して、どのようなアプローチを行えばよいのでしょうか。
 どのような集団でも、二割は怠け者がいますから、仕方がないのかなと。しかし、現場の多くの教員は、社会で言われている程、怠けていませんよ(笑)。色々と工夫をしています。教員は講義内容について全て自己責任ですから、学生の反応がまずければ、全て自分の責任になります。それを自覚して、日々、改善している方も多いと思います。
 ―FD義務化に際しては、FDを実行しているか、していないか、という明確な説明責任が問われることになりますね。
 非常に面倒な問題です。何故なら、義務化になると、図のIV型である伝達講習・制度化型に取り組む大学が増えると考えられるからです。IV型は、実行したか、していないかが明確で、単なるアリバイ作りのため、「こういう研修をやりました」と簡単に言えてしまいます。しかし、教員からすると、研修のテーマが、本当に知りたいこと、興味のあることばかりではないため、余分な負担ばかりが増えて、行きたくもないのに行って、つまらないと思って帰ってくることにもなります。
 今でも、講演会も研修会もワークショップも、何を目的にやっているかはっきりしないものがありますよね。授業評価アンケートもやって、「これをどう活用すればいいんですか」と質問されたこともありました。改善に繋がらず、かえって負担を増やすことをやっていては意味がありません。
 また、IV型が注目されると、日々の地道な活動が軽んじられるのではないか。「FDの義務化」が日常のFDをつぶしてしまう可能性もあるのではないか、という危機感を抱いております。日常の相互研修型のFDでも、説明責任は充分に果たせます。何時何時にこれをやってきた、また、ここに弱点があるからこういう取組みをしてきた、と丁寧に記録し説明していくことができます。
 外部から見れば、「何か教員が目を輝かせながら、熱心にFD活動に取り組んでいる」ことを期待するのかもしれませんが、FDが派手に見えることは絶対にありません。
 日々のFDの本質は、ぱっとしない地道で冴えないものです。だから、外部からは「何もやっていない」ように見えてしまう。その辺に、FD義務化の功罪があるのではないかと・・。
 ―学内の誰がFD推進役を担うべきでしょうか。
 まず、初期の段階で、とても熱心な教員が核となって学内全体を回している「ボトムアップ型」が一つの方法です。
 また、現場で頑張っている教員に対して、学長等トップが協力的であることも重要ですし、トップが危機感を持って自ら取り組んでいる場合もあります。
 ―京都大学ではどのように行っていますか?
 大学の様々な研究科で、どのような問題が起きているか把握していませんでしたから、まずは学内のヒアリングをしました。工学部での連携事例ですが、かなり詳細なアンケートから講議を丁寧に分析しました。それから、どのようなことが行われているかといった情報を収集して、シンポジウムを開催し、アンケートから見えてくる問題や工夫を議論させるワークショップをやっています。一二〇人程の教員が集まります。
 まだ、その効果が明確に出ているわけではありませんが、今後やってきた活動の効果をきっちりと見ていきたいと思います。
 ―FDにおいて、特に気を付けて行うべき点は何でしょうか。
 FDは、「教員が動くスイッチがどこかにある」というような、簡単な話ではありません。文部科学省から言われたから、これだけやっていればいいというものでもありません。
 繰り返しになりますが、「FD」と呼んでいないだけで、日々、教員は教育改善の努力をしています。言葉として「FD」と捉えていないだけ。「FDが広がらない」のではなく「現場ですでに取組はあるのだけど、こちらがその活動を把握できていない」だけなのです。つまり、FDはすでにあるものを引き出していくプロセスが重要なのです。
 だから評価も難しいのですけどね。
 ―FDは、今後どうなっていくのでしょうか。
 現在は、FDをテーマとした広域の大学間連携が広がっています。京都大学では、関西地区のFD協議会を作ろうとしています。こうした連携を生かしながら活動していくこともいいと思います。 本年四月より、学部教育でのファカルティ・ディベロップメント(FD)が義務化された。このたびの義務化に際して、文部科学省は、個別の教員ではなく、大学組織全体として取り組むこと、また、単に講演会を開いたなどの取組では不十分であること、などを示している。FDに長年取り組んでいる京都大学高等教育研究開発推進センター長の田中毎実教授に話を聞いた。
 FDのワークショップでは、各大学が自分の授業評価アンケート用紙を持ち寄って、他大学と照らし合わせて、意見交換をします。このように、II型の相互研修は大学間においても可能ですから、多くの大学に取り組んで欲しいと思います。


 FD組織化の4類型
 クリックしていただくと拡大された画像をごらんいただけます。

Page Top