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平成20年3月 第2309号 (3月26日)

創立60周年を迎え「逞しい前姿」も

(学)武田学園(広島文教女子大学)理事長 武田哲司

 親の後ろ姿を見て子は育つ―先達の真摯な生き様は後進の感動を呼び覚まさずにはおかない。自分に感動を与えてくれた生き様は目指すべき目標として価値づけられ、自らを律し支えるものとなる。このように考えれば、それはまさに教育の原点を言い当てた言葉であると言うことができるだろう。広島文教女子大学、同附属高等学校、同附属幼稚園を擁する私ども武田学園の歩みは、この教育の原点を踏み外すことなく辿ってきたものであった。学園創設者・武田キミの教えは、「心を育て 人を育てる」という教育理念として我々の胸に刻みつけられている。第二次世界大戦による悲しみを背負わされた広島にあって、ただ女子教育一筋に捧げた武田キミの生き様は幸いにして多くの人々の心を打ち、学園の今日の礎となった。そしてその教育活動は折りあるごとに振り返られ、私どもの現在を見つめ直すきかっけであり続けている。まさに私どもは、学園創設者・武田キミの「後ろ姿」を見て、歩んで来たのである。
 本学園での教育もまた同様である。学園を愛し、学生・生徒・園児を愛する教職員の真摯な取り組みに支えられ、学生・生徒・園児はそのような教職員の生き様をまっすぐに見つめてきてくれた。これまでも、現在も、そしてこれからも、変わることなく続いていくべき本学園の教育の原点である。
 ただ、顧みて、反省すべき点がないとも言い切れない。「後ろ姿を見て」とは、後ろ姿を見て、育ってくれた学園生の側に多くを負わせた言い方ではないだろうか。真摯な後ろ姿を見せるべきことはもちろんであるが、他方、「逞しい前姿」で学園生と向き合う営みも、これまで以上に必要となってくるのではないか。すでに言われ続けて久しい少子化の波は、多様な個性と学力を抱えた学園生の在籍という形で、現に本学園にもその影響を及ぼしている。このような今だからこそ、一人一人の顔を見て、一人一人が活かされる教育を展開することが求められる。一人一人と向き合って一人一人の成長に関わる一瞬一瞬を大切にする、泥臭いが人間味溢れる学園であり続けることが肝要であろう。
 年男の今年、学園は創立六〇周年を迎える。この節目の年にあたり、あらためて、学園生一人一人と正面から向き合う教育実践の更なる強化を誓いたい。
 真摯な後ろ姿に加えて、「逞しい前姿」を。

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