平成20年2月 第2304号 (2月13日)
■普遍的価値の創造めざす
「何ドシですか?」と聞かれて答える時に、いつも少しの抵抗を感じてきた。子年から相手が五穀豊穣や俊敏のイメージを連想することはなく、落ち着かず絶えずチョコマカ動き回る小物といったイメージから逃れることはできないような気がするからである。なので日頃干支を意識するなどということをしないで過ごしてきたが、徒然に平成六年生まれの我が大学は何ドシ?と調べてみたら酉年であり、なんと酉と子は相性が良いとあるではないか。六巡目にしてやっと心安らかに年男であることに甘んじていられる。
さて、長岡造形大学は「造形を通じて、真の人間的豊かさを探求する人材を育成する」ことを建学の理念としている。では「真の人間的豊かさ」とは何であろう?
地球上のごく一部の人だけが享受している突出した物質的豊かさを、他の人たちが得ようとしても、地球はそれに足る資源を持ち合わせていないだけでなく、すでに豊かさを手にした人も、その豊かさを実感していないというのが、今われわれが置かれている状況である。限られた資源をあまねく共用しながら、皆が満ち足りた豊かさを感じられる世界、これこそが人類が実現しなければならない究極の目標であり、われわれが次の世代に託す夢なのである。人類が積み上げてきた哲学、科学、芸術といった知的資産の全てを若者たちに引き継ぐとともに、彼らがそれを新しいヴァージョンに引き上げるに必要とするであろう道具をすすんで提供しなければならない。私は、そのための最も有用な道具となり得るのが想像力、創造力、造形力、表現力であり、デザインする力であると考えている。
われわれのキャンパスを廻る豊かな自然、それはあらゆるデザインのアイディアの源泉であり、その完璧な秩序に潜む神秘と合理性は瑞々しい若者の感性に限りない創造の種子を植え付ける。自然から生まれたアイディアが自然を破壊することがあってはならない。自然への畏敬、そして自然と人間の共存を最重要問題と考えるデザイナーの育成こそがわれわれの目指す人づくりなのである。
時代のトレンドのみを追うのではなく、自然という偉大なデザインの先生の下で物事の本質に寄り添い普遍的価値の創造をめざしてゆっくり時間をかける…地方に立地する大学ならではの強みであると考えている。