平成20年2月 第2304号 (2月13日)
■私大財政基盤充実の研究協議会開く 文科省担当課長等が詳細に解説
競争的研究資金など私学振興関連予算の活用を
日本私立大学協会(大沼 淳会長)は、去る一月二十八日、東京・市ヶ谷のアルカディア市ヶ谷において「平成十九年度私立大学財政基盤の充実に関する研究協議会」を開催した。私学経営にとっての基盤的助成の「私立大学等経常費補助金」が減額されたものの、国公私立大学共通の大学教育改革支援の充実、科学研究費補助金の間接経費の拡充など、私学振興関連予算が措置されていることから、厳しい競争的環境ではあるものの、これらの資金を積極的かつ有効に活用することも必要不可欠である。そこで、同協会では、@私立大学が獲得できる補助金等関係予算、A枠組改編等の大きな変更事項、B今後の公募・申請関係に備えた留意点等の把握、C不明事項等の解消・解決、D効果的な導入方策、E学内体制の構築等について、文部科学省等の関係部課長を招いて解説を聞くとともに、私大財政基盤の充実に関する研究・協議を行った。
開会に際し、大沼会長は「私学助成が年々一%削減される状況があるものの、平成二十年度の私学振興関連予算として、地域振興のための三〇億円、科学研究費補助金の間接経費措置や人文・社会科学分野振興も視野に入れた「新学術領域研究」の創設など、各大学の特質を活かした取り組みのできるものが多数ある。様々な目的をもつこれらの補助金の趣旨や中身を十分に理解し、法令に反することなく、多くの申請に心がけていただきたい。我々は質の高い学生を育成して地域に貢献し、自分の大学をそれぞれの地域にしっかりと根付かせていただきたい」と挨拶した。
続いて、同協会の小出秀文事務局長からは、地域振興のための新規事業等、私大協会が予てより研究し文科省と折衝の上、予算計上された事業等には、その制度設計の有り様をしっかり理解し、積極的な申請に努めてほしいと促した。
協議に入り、始めに「平成十九年度私立大学等経常費補助金配分基準の改正」について、日本私立学校振興・共済事業団の今福康夫助成部長が解説した。
同氏は、個性豊かで活力ある私学を支援すべく、教育研究活動の活性化に向けて、特に特別補助を大幅に見直し、文科省の高度化推進特別補助を私学事業団執行分の特別補助に一本化し、メニュー化、ゾーン化に組み直したことなどを説明した。また、一般補助についても、学部等系統区分等の見直し(補助単価、調整係数表、助教・助手の限度数など)、定員割れ学部等の減額強化及び減額緩和措置(収容定員充足率が六八%以下の学部等の減額率の強化〈平成二十年度以降の減額強化は、今年度早期に通知〉)などのほか、定員割れ大学等に対する助成として、「改善に取り組んでいる大学等に対する特別補助」の新設では四億円を措置している(定員割れ解消等に向け、募集停止、改組転換、定員減や統合等により適正規模への脱皮を図る大学等を支援)。
なお、平成二十年度以降の補助金が不交付となる定員超過率の取扱いでは、収容定員の一・五〇倍以上、入学定員の一・三〇倍以上(ただし平成二十二年度までの経過措置)、また医・歯学部の入学定員では一・一〇倍以上。
次に、「国公私を通じた大学教育改革の支援」について、文科省高等教育局の中岡 司大学振興課長が解説した。
同氏は、今後の大学改革の方向性・目標は、「高い教養と専門的能力を培い、深く真理を探究して新たな知見を創造し、社会の発展に寄与する」ことであり、大学本来の教育研究活動の推進と各大学の自主的な判断による多様化・機能別分化をする。機能別分化の例としては、@世界的研究・教育拠点、A高度専門職業人養成、B幅広い職業人育成、C総合的教養教育、D特定の専門的分野(芸術・体育等)の教育・研究、E地域の生涯学習機会の拠点、F社会貢献機能(地域貢献、産学官連携、国際交流等)がある。
その他、高等教育の質保証をめぐる世界の動向、学士課程教育の改革等のほか各種事業内容を説明した。
「新たな学生支援の在り方―学生の立場に立った大学づくり―」について、同局の村田義則学生支援課長が解説した。
同氏は、はじめに、平成二十年度の「新たな社会的ニーズに対応した学生支援プログラム」(学生支援GP)の説明を行い、このプログラムは四年間の継続支援を行うもので、二十年度も新規に三〇件程度選定する予定であること、また、奨学金事業の充実策として、二十年度は、貸与人員で一二一・九万人、事業費総額で九三〇五億円を措置すること(特に大学生等の場合〈有利子〉に月額一二万円の選択を新設した)などを説明した。次に平成二十年度の留学生交流関係の予算案について、外国人留学生奨学金制度等の充実、私費外国人留学生等への援助などについて予算額等の説明をした。
引き続き、「科学研究費補助金(以下、科研費)の現状と課題」について、同省研究振興局の磯谷桂介学術研究助成課長が解説した。
同氏は、科研費の意義、予算とその配分等を説明するとともに、科研費の制度改善(平成十九年度)について説明した。
新設の「若手研究(S)」は四二歳以下を対象に導入したこと、「基盤研究(B)・(C)」に間接経費三〇%を措置したことのほか、間接経費の在り方については、必要な事務スタッフの配置費用、研究棟など施設整備の費用、研究成果発表・シンポジウムの開催経費、その他(特許関連経費、雑役務費、通信運搬費、光熱水費)などを例示した。
また、補助金の翌年度への繰越し及び補助金の不正使用防止対策についても詳細に説明した。
なお、今後の課題として間接経費未措置の研究種目への導入や経費執行の弾力化促進等を挙げた。
「私立大学における共同研究拠点等の整備と重点的支援〜人文学・社会科学における共同研究拠点の整備推進事業(二十年度新規)等〜」について、同局の森 晃憲学術機関課長が解説した。
同氏は、学術研究の推進体制に関するこれまでの審議経過を振り返り、共同研究拠点等による学術研究の効果的、効率的推進の在り方として、従来、国立大学の附置研究所等に位置づけている共同利用・共同研究拠点を私立大学に拡大すべく、今後は国全体の学術研究の発展のため、国公私立を問わず大学の研究ポテンシャルを活用し、国として最善の研究体制を整備する観点から、公私立大学についても、共同利用・共同研究の拠点としてふさわしい研究環境や特色ある設備・資料等を有する場合には、拠点として位置づけ、重点的に支援すべきであるといった議論の経緯を説明した。
また、平成二十年度事業として「人文・社会科学の振興」(約六億円)については、政策や社会の要請に応じた人文・社会科学分野のプロジェクト研究(三〜五年)を公募・委託により、大学等のポテンシャルを活用して実施するもので、@世界を対象としたニーズ対応型地域研究推進事業(一億一〇〇万円)、A近未来の課題解決を目指した実証的社会科学研究推進事業(一億四九〇〇万円)〈新規〉(例:東アジアの環境問題解決のための国際的な枠組みの構築)など、成果を社会へと還元するもの。B併せて、人文学及び社会科学分野における共同研究拠点の整備の推進事業(三億五一〇〇万円)〈新規〉(例:イスラーム地域研究、服飾文化など)も説明した。
次に、「今後の高等教育政策と私学振興・私学助成の充実方策」について、同省高等教育局私学部の芦立訓私学助成課長が解説。
同氏は、私立大学をめぐる厳しい環境の中で高等教育政策のトレンドを考え、それぞれの大学が持っている魅力を再確認し、個性・特色を発揮するなど機能的に分化していくと論じた。平成二十年度の私学関係予算の構成を見ても、例えば「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」〈新設〉による大学の機能分化支援、「改善に取り組んでいる大学等に対する特別補助」による経営の効率化や規模の適正化など経営改善に取り組む大学等への支援など、高等教育政策のトレンドは、“将来像答申”の路線に沿ったものとなっていると説明した。最後に、「この機能別分化を念頭に、今後とも私立大学の特色・個性を発揮できる施策(例えば地域連携など)に大きな声を上げていただきたい」と述べて締めくくった。
なお、協議終了後の会場を移しての情報交換会では、多数の出席者がそれぞれの解説者に質問するなど熱心な議論が行われた。