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平成20年2月 第2303号 (2月6日)

医療人養成に思う−医学教育の在り方について−

昭和大学学長 細山田明義

 新春を迎え、今年が平和で穏やかな佳き年になることを期待したいものです。
 昨年は様々な不祥事に加え、格差社会の問題が世間で大きなニュースとなり、その一方で、年毎に進む少子高齢化社会は、我が国の社会保障制度の根幹を揺るがすことになりそうです。
 私供の周りでは、医師不足による地域医療崩壊を心配させる事態が起きましたが、事柄は単なる医師絶対数の不足に起因する問題として解決できそうにありません。医学教育を担っている教育機関の責任ある立場としては、考えさせられることが多々あるように思われます。
 生命科学の発達が医療の進歩に大きく貢献し、医療は高度・細分化して、専門性が強く求められるようになりました。それに伴ない医学教育に求められる内容も、高度で膨大な量となり、多くの知識や技術の習得が求められているのが現状です。そのため、医療は人間相互の強い信頼関係が大切であるにもかかわらず、知識や技術が重要視され、知識偏重の教育に陥って、人間性を育む教育が蔑ろにされていたと反省せざるを得ません。
 その結果が、今日の多くの医療訴訟や医療崩壊につながる要因になっていることも否定できません。専門性の高い教育環境では似たような状況が予測されます。もっとも、人格形成の教育の基本は、別の視点で考えねばならない問題かも知れません。
 戦後の日本は高度経済成長と科学技術の発達によって豊かになり、人間社会にとっては、便利で、お金があれば何でも手の届く、物質文明社会に成長しました。しかし、それに十分に応えられる人間性を養う教育がなされたかは疑わしい限りです。家庭における躾や学校教育の方針に誤りは無かったか、権利や平等を主張するわりには、義務や責任意識の欠如した人が多いように思えます。豊かな人間性が培われる教育は非常に大切な事だと考えています。
 私供の大学の建学の精神は「至誠一貫」です。創設者、上條秀介先生は、当時の動物実験や研究だけを重視し、医療現場を蔑ろにしていた医学教育の風潮を批判して、学校を設立されました。真心のこもった医療が提供できる優れた臨床医を養成することを目標にされ、これは教育理念として大切に守られています。
 今年、本学は創立八〇周年を迎えますが、この理念こそ、現在の医療に必要な姿だと痛感させられます。理念に沿った教育で、優れた医療人を育成することに、力を注ぎたいと思っています。

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