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平成20年1月 第2302号(1月23日)

6年で2300億円の費用対効果 大学の知財・産学官連携総合評価

 文部科学省は、昨年十二月、「大学等の研究成果を社会還元するための知的財産戦略・産学官連携システムに関する総合評価報告書」をまとめた。平成十三年度から十八年度の予算投入額一一〇〇億円に対し、直接的な効果は二三〇〇億円と見積もられ、費用対効果は充分と考えられる。概要は次の通り。

 我が国の産学官連携システムが、構築段階から成果創出段階に移行しつつあり、これまでの施策の成果を総合的に分析・評価し、今後の施策の実施等に役立てる目的で、@大学知的財産本部整備事業、A産学官連携活動高度化促進事業、B産学共同シーズイノベーション化事業、C独創的シーズ展開事業、D技術移転支援センター事業を対象に評価した。評価の方法は、研究成果が実用化に至るまでの各過程(科学的新知見→共同研究等→権利化→ライセンシング等・大学発弁はー起業→実用化、事業化)において分析すると共に、資源投入量との関係など施策の効果を評価した。
 一、大学知的財産本部整備事業:大学等における知的財産の創出・管理・活用のための体制整備等
 ○評価―四三の実施機関における産学官連携ポリシーや知的財産ポリシー等学内ルールや体制が整備されると共に、それが非実施機関にも配給され産学官連携や知的財産管理の体制整備が進みつつあり、大学等全体の共同研究件数や特許出願件数の大幅な増加を支える基盤となっている。また、事業実施機関の共同研究・受託研究、特許及び大学発ベンチャー設立に関する指標の伸び率は、非実施機関を上回っており、事業実施の直接的な効果もはっきりと表れている。
 また、共同研究一件あたりの受入額は二〇〇万円程度で顕著な増加はみられないが、同整備事業の一環として大規模共同研究の実施体制や制度整備の追加的な事業を実施することにより、共同研究の大型化の動きが出始めている等、組織的・戦略的な共同研究の取組が開始されている。
 同事業には、平成十五年度から平成十八年度までの四年間に合計一〇二億円が充当されており、大学等が知的財産活動に自己資金を投じるための「呼び水」効果を生んでいると考えられる。その効果は、平成十八年度で約四〇億円であり、今後四年間では約二〇〇億円に達すると見込まれる。また、同事業の実施が、全大学約九〇〇〇件の特許出願を行うための体制の基盤を支えていると考えられる。事業の実施により加速された知的財産・産学官連携活動の効果及び「呼び水」効果を加算したものを効果として推計すると、平成十三年から十八年合計で二三六億円となり、充分な費用対効果を有していると考えられる。
 二、産学官連携活動高度化促進事業:産学官連携コーディネーターを大学等に配置
 ○評価―共同研究の実施から起業まで、産学官連携・知的財産活動に幅広く効果を及ぼしており、予算・配置人数が減少傾向にある中、コーディネーターのスキルアップ等により効率が上昇している。なお、知的財産本部の整備などに伴い、コーディネーターの役割は大学等シーズと企業ニーズのマッチングや産学官連携プロジェクトの企画などの活動に重点化されつつある。
 なお、産学官連携のために特に何が必要かとの問いに対して、「産学官連携を推進するコーディネーター等の人材の育成・充実」をあげる回答が最も多かった調査もある。これまでの事業予算累計額六〇億円に対し、コーディネーターが直接関与した共同研究費、受託研究費及び特許実施料収入の累計は一〇〇億円を上回っている。また、この他にもコーディネーターは産学官連携体制の構築支援など大学全体の産学連携活動に大きく貢献している。
 三、産学共同シーズシーズイノベーション化事業:産学協同研究による大学等の研究成果の育成のための研究開発、独創的シーズ展開事業:大学等で生まれた独創的な研究成果の技術移転のための研究開発
 大型の協同研究を中心としており、特許の実施料収入に対する寄与度は大きく、平成十六年度以前は大学等の全体の過半数を占めていた。大学等全体の活動の拡大によりその割合は徐々に減少しつつある。成果が実用化されるまでには長い時間を要するため注意を要するが、開発費と効果の中長期的な分析からも、研究開発事業が充分な費用対効果を上げているものと考えられる。平成十三年度から十八年度の効果は、一六一二億円となった。
 四、技術移転支援センター事業:海外特許出願の支援など大学等の研究成果の技術移転を総合的に支援
 大学見本市等の開催、ライセンス活動等により、共同研究や特許実施の成果があがっており、その効果は年々高くなっていると同時に、充分な費用対効果を上げていると考えられる。また、全大学等の海外特許出願経費の約半分を支援している。平成十三年度から十八年度の効果は、二七二億円となった。
 今後の課題
 1組織的・戦略的な共同研究の推進―現状は受入金額が二〇〇万円程度の教員個人単位の共同研究が大半を占めるが、大学等の「知」の集積を活用した本格的なイノベーション創出のためには、必要に応じて、研究開発型独立行政法人等の公的研究機関との連携も図りつつ、多様な分野の研究者の参加が可能な組織的な共同研究などを推進する必要がある。このための大学等の体制整備や教員の意識改革、中長期的視点に立った産学の対話と連携活動の深化が必要である。
 2特許の実施、研究成果の事業化、大学発ベンチャー―米国の実績と比較して、特許実施件数や実施料収入は桁違いに少ない。ベンチャー創出数は諸外国に比べて少なく、昨今はその質も問われている。学生や教職員の起業に対する理解や意識の向上、各種企業支援の充実を図ることが必要である。
 3戦略的な海外特許取得―経済社会がグローバル化する中、国際競争力のあるイノベーション創出のためには、基本特許となり得る発明等の海外における権利化は不可欠であるが、特許出願のうち約八割は国内のみ出願となっている。海外特許の出願支援を充実すると共に、大学等は海外特許を戦略的に取得していく必要がある。
 4特許関係経費及び知財人材の確保―特許の出願、取得及び管理等に必要な経費は、今後とも増加していこうことが見込まれ、必要な人材と共に競争的資金の間接経費等の財源を確保していくことが不可欠である。
 5戦略的な施策の実施―大学等独自の産学官連携活動が活発化し、共同研究や特許実施の実績が増大するにつれ、量的な面での国の施策の効果は必然的に薄れてくる。このため、国の施策の重点を質の向上に移行し、国際競争力の向上やリスクの高い研究開発への支援などに重点化していく必要がある。
 6評価方法の開発―産学官連携システムは広範かつ多様な形態を伴うシステムであり、それを網羅的に把握し評価するための指標を用意することは極めて困難であり、今回用いた指標においても、必ずしも産学官連携システム全体の効果等を表しているものではない。同評価の経験も踏まえて、評価方法を研究していく必要がある。



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