平成20年1月 第2302号(1月23日)
■人間形成と教養
松蔭女子学院の歴史は一一六年になりますが、高等教育機関としての大学の歴史は、一九四七年の松蔭女子専門学校から始まります。その後、短期大学、四年制大学、大学院へと発展して、昨年の二〇〇七年には大学六〇周年を迎えました。人間で言えば六〇歳の還暦であります。六〇年は一つの経過点にすぎませんが、これまでキリスト教主義に基づくリベラル・アーツ教育を堅持してきた歴史を振り返り、先人達の労苦を思い、大学還暦の祝いをいたしました。
大学生の年代は子どもから大人になる過渡期で、子どもでもない、また大人でもない中途半端な不安定な時期にあたります。この時期に大人になる準備をするのが大学生の課題であるといっていいでしょう。この課題をどのようにして達成すべきか、ギリシャ、ローマの時代から人類は考えてきました。そこで考えられたカリキュラムが哲学、文学、修辞学などの文科系科目と、数学、幾何学、音楽理論、天文学などの数学系科目です。これらの学芸が人間を人間らしくする学芸として自由学芸、すなわちliberal artsと名づけられました。現代の大学カリキュラムでいえば教養科目にあたります。
本学の場合、教養科目は七つどころではなく、人文系、社会科学系、自然科学系の科目が、約六〇科目用意され、学生達が自由に関心のある科目を履修しています。ともすれば教養など何の役にも立たないから、早く専門の技術を学んだ方がいいと思われがちです。それでは精神的に成熟した人間形成は難しいでしょう。大学は基本的に「教養教育」をまず目指す教育機関であります。その教養の土台の上にそれぞれ自分の専門科目を深めていくべきだと思います。
卒業生が社会の中で認められるのは、単に学力だけが評価されるのではなく、人間として成熟しているかどうか、教養を豊かに備えて、社会の中で相手の意見を聞き、自分の意見をしっかり発言できるかどうかという人間力ではないかと思います。松蔭では人間を人間たらしめるキリスト教主義に基づく教養教育を営々と築いてきましたし、これからもこの方針を堅持していきます。