平成20年1月 第2299号(1月1日) 2008年新春特集号
■2008年―年頭所感
後回しにしてきたことを考え直す新しい年
新年明けましておめでとうございます。
旧年中、皆様方には、日本私立大学協会の運営や活動などに対して、多大なご支援・ご協力を賜り、厚く御礼申し上げます。本年も倍旧のご高配を賜りますようよろしくお願い申し上げます。
ご承知のように、大学は真理を探究し、知識を広く伝達し、教育研究を通じてそこに学ぶ学生の人格形成に資する場であり、人類の学問的・文化的遺産を次世代に継承するという極めて公共性の高い使命を負っています。その中で私立大学は、独自の建学の精神、それぞれの学風のもとで個性豊かな人材を養成する高等教育機関であると同時に、人類社会の「この先」を見据え、歴史が誤作動を起こさないように大事なことを議論し解決して積み上げていく人間的な共同体でなければならないと考えています。
戦後日本、この六〇年間に取り残してきたこと、後回しにしてきたことを、たとえ時間と手間をかけても考え直す作業が必要であり、それがいま生きる私たちがまず果たさなければならない責任ではないかと思っています。具体的には、「自然をこれ以上壊さない」、「日本の歴史を学び直す」、「国際感覚を磨く」。この三つの教育実践こそ、いま私たちに課せられた大きな責務であると考えています。
司馬遼太郎さんが亡くなる前に話しています。「一億の人間のうち八〇〇〇万人ぐらいが合意できることを一つぐらい見つけて、それをきちっとみんなして守るようにすれば、日本の明日はあるだろう」。それは、「日本の自然をこれ以上壊さないということなら八割が合意できるはずだ」と言っています。戦後の日本を一所懸命つくり上げるために突っ走ってきたために、後回しにしてきたことの一つが自然破壊だというわけです。そして、わき目をふらず走り続けてきたことで私たちは、歴史を知らない国民になってしまいました。また、人とのつき合いができない孤立した多くの若い人を見ていると、国際感覚どころではないといった悲観論で滅入ってしまいますが、これではいけないとみんなが思い始めるためにも、大学という自由な場で、大事なことをもっと議論して解決して積み上げていかなければならないと思います。
言うまでもなく、教育というものは、いま生きる私たちだけの固有のものではありません。次世代へと継続発展させていかなければならない人間の営みであります。そして不変であることは、大学というところは社会を形成している大きな存在としてこれからもあり続けなければならないということです。
新しい二〇〇八年も、確固たる信念のもと最大限の努力をしてまいりたいと思います。
皆様方のご多幸を心よりお祈り申し上げます。