平成20年1月 第2299号(1月1日) 2008年新春特集号
■2008年―年頭所感
日本再生のための高等教育のグランドデザインづくりを
明けましておめでとうございます。
過ぎし一年、国内外ともにまさに波乱続きでありました。特に日本の政治は昨年夏の参議院選挙などをきっかけに一挙に流動化し、国会での党略がらみの混迷状況をはじめ、偽装続きの企業の実態や世相人心の乱れの報道を見るにつけ、ここ半世紀にわたり次世代の教育や人材育成をして来た世代の一人としてじくじたる思いを禁じえません。
もちろん、あの廃墟から平和で豊かで世界一の長寿国家をつくり上げて来たという自負は無きにしもあらずですが、反面、戦後教育において人間形成の基本部分に重大な欠落があったのではないかとも思えるのです。
今こそ「戦後復興は教育から」を合言葉に、連合国の占領下に米国の指導で導入された新教育制度の実現に奮起した先人の志を想起し、私どもは改めて「二十一世紀の日本再生は教育から」の決意をもって自ら抜本的な教育改革に取り組むべき時と思います。そして戦後の改革は初等中等教育中心でしたが、これからは少子化、大学全入時代に照応し高等教育の質的充実や生涯学習の振興がますます重要となりましょう。
また、新年に当って私学や地方立地大学の立場でより根源的な二つの点についても触れざるをえません。一点は、相も変わらぬ大学への公的資金の配分における国私間の世界的に見ても異常なほどの格差についてです。学生総数の四分の三を収容している私学の学生一人当りの額は、国立の一六分の一に過ぎません。少子化の中で法人化された国立と私学が現実に競合している以上、競争条件は同一でなければフェアとは言えないと思います。
もう一点は少子化の中で国立も含め地方大学の二〇年、三〇年後の運命です。北海道を例にとると現在五六〇万の人口は、二〇年後に四〇〇万人台に減ることが予想されます。自然減よりも社会減が多く、現在すでに始まっている関東、関西、中京圏などへの人口移動が急速に進んでおり、しかもそれは若年層が中心で残るのは高齢者です。第一次産業は後継者難、地方の商店街はシャッター通、病院は医師不足、学校も統廃合されるなど、マイナス要因の相乗作用で地方都市は衰微の一方で、過疎地では限界集落が続出しています。
このような状況下で道内の特に小規模私立大学は、存廃の岐路に立って悪戦苦闘しながらも、地域の知的資源の蓄積や人材育成の拠点として努力をしてきています。一体この全国的な過密過疎の両極分化現象を政府は国家としてどう考えているのでしょうか。そもそも国民の安心、安全のために外交・防衛はもちろん、教育・文化、医療・福祉、ライフライン確保などの社会生活機能の整備は国政の第一義的責任であり、日本の社会、経済を大恐慌に陥れている市場原理主義に立つ自由競争に任せておいて良いものでしょうか。新しい年が、高等教育機関の全国的な配置や役割分担の明確化と公私格差の抜本的解消の年となることを期待しています。そして、昨年改正された教育基本法に初めて高等教育や私学振興が明文規定されたこの機会をとらえ、同法に義務づけられている教育振興基本計画の樹立に当り、二〇年、三〇年先を見通した高等教育のグランドデザインを大胆に織り込んで頂きたいものであります。