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平成19年12月 第2297号(12月5日)

学生から大学改革
  −OSUプロジェクト共有について− 大阪産業大学山田修副学長が語る

 大阪産業大学(籠谷正則学長)は、一九六五年に「偉大なる平凡人たれ」を建学の精神に設立され、以来、交通・産業を中心に教育・研究を展開し、有為な人材を育成してきた。特に、同大学のものづくりへの取り組みは、平成十六年度の特色GPに採択。「Teaching is Learning」の実践の場として、「ものづくり教室」を開催するほか、学生自らがテーマを決めての「プロジェクト活動」等も行われている。このたびは、昨年度より全学的に展開する新しい教育の仕組みである「プロジェクト共育」について、同大学の山田 修副学長と学生に話を聞いた。

―大阪産業大学では、全学を挙げて「OSUプロジェクト共育」を推進されていますが、具体的にはどのような仕組みでしょうか。
 元々、大学院の「アントレプレナー専攻」で、学生にとって魅力的と思われるテーマを教員あるいは学生自身が提案し、学生が自主的にそのテーマに取り組むことによって、問題解決できる能力を養えるプログラムを提供してきました。具体的には、ソーラーカープロジェクトや燃料電池車プロジェクト、鳥人間プロジェクト、オキシライド(乾電池)プロジェクト等です。
 その本質は、学生の積極的な関わりによるプロジェクト・ベースド・ラーニング(PBL)です。PBLには三つの特徴があり、それは@チームで問題を解決する、A問題となるのは、正解がはっきりと提示されていない、実社会で問題になる曖昧な課題である、Bその解決の過程で必要な専門知識と各種スキルを同時に教育し、身につけさせる、ということです。
 一方的に教員が教える既存の教育手法は、学生のモチベーションが希薄な場合、意味がないというか、何かが身につくとは思えません。それならば、具体的なプロジェクトに取り組みながら、必要だと感じたその時に初めて授業を受ければいい。
 一方で、世界の教育標準では、半年一科目二単位の場合、勉強時間は九〇時間が必要です。九〇分授業を一五回行うのですが、その講義時間は二二・五時間にしかなりません。それ以外の六七・五時間は自己学習となります。
 日本の学生が、「自分には必要ではない」と思っている科目に、残り約七〇時間も本当に勉強するかどうか疑問です。「プロジェクト共育」は単位化していませんが、その取り組みの中で必要と感じた基礎学力は授業でちゃんと取ってもらいます。つまり、プロジェクトに関わることをベースに、自分に必要と思った知識のために無理なく九〇時間の勉強をするのです。
 こうした取り組みを、アントレプレナー専攻でモデルケースとして先行実施していたのですが、昨年度から学長主導の下、全学的な取り組みとして実施し始めました。それが、「OSUプロジェクト共育」です。

―特徴の一つに、エルダー制度が挙げられますが、どのようなものでしょうか。
 一言で言えば、教員の代わりに、先輩学生が後輩を育てていく制度です。人に教えることによって、実はそれが非常に難しいことだと気付き、学生は自ら勉強し始めます。知っていることと、人に教えることができることの差はものすごくある。まさに、「Teaching is Learning」の言葉の通り、この仕組みを最大限に教育に応用しています。
 また、こういう制度を取り入れないと、三〇〇人に満たない教員で一万人の学生を充分に教育できません。エルダーが三〇〇人育てば、教員とあわせて六〇〇人になりますね。特に後輩を引っ張ってくれるエルダーを育てられるか、が重要です。

―エルダー制度は、大学改革を進めるうえでも効果的であったようですが。
 大学改革について、執行側が教員に押し付けたところで、動いてはくれません。最も効果的なのは、エルダー制度で育った学生が「こういう教育のやり方にして欲しい」と声を上げることです。学生に言われれば、旧態依然とした教員も意識改革をせざるを得ない。取り組む教員が増えれば、全体の大学改革に繋がるのです。トップダウンで大学改革を実行しようとしても、現実は、現場に立つ教員が「これは良いんだ」と思って理解し、実行してくれないとうまくいきません。

―数値化できない学習成果をどのように表すのですか。
 参加しているプロジェクトの作業日報を、ほぼ毎日のように書かせています。どういう作業をしたのか、それによって何を感じ、どう勉強になったのかを詳細に書かせます。作業日報を書くことは、もちろん学習成果の可視化でもあるのですが、教員が成績評価をするために残しているというよりも、むしろ就職活動に行ったときのアピールポイントとして活用させています。面接で他の学生と何が違うのか、「自分の大学四年間の歴史を語れる」という証拠になるからです。

―今後の展開は。
 学生の「顧客満足度」をいかに上げていくかを最重視して大学改革に取り組んでいきます。教員が良いと思ってやっても、学生もそう思ってくれなければ改革の意味はありません。しかし、これまでの大学はそういうことが多かったと思うのです。教員の意識改革は難しいですが、今の時代はそれを待っていたのでは潰れてしまう。大学改革は教員の意識改革よりも、学生のモチベーションを上げるほうが早いのです。学生が育って教員に声を出し始めたら、大学も変わるだろうと思います。そもそも、意識改革を行って成功し、ガラリと変わった大学など聞いたことがありません。ならば、学生からです。若い人材を育てるのが先です。他の大学は、そこで失敗しているのではないかと思います。学生から、教員に「こんな勉強がしたい」と言ってもらって、教員を変えればよいのです。
 若い教員が、自分たちでやり方を身に付けて、学生を育ててくれればいいと思います。もちろん年配の先生方には、主にマネジメントの面に期待しています。
 学生の成長を学力だけで測るのではなく、一人ひとりの独自の能力をどれだけ引き出せる環境と技術を持っているかが、これから大学が発展できるかどうかのカギではないでしょうか。

 プロジェクトに参加している学生たちに話を聞くと、自信に溢れた表情で、堂々と答えてくれた。
 特に、プロジェクトを通して、チームワークの大切さを学んだり、リーダーの大切さを学んだ学生がいたが、経済産業省の発表した「社会人基礎力」の中にも「チームで働く力」があるように、実社会で必要な能力も身につく。ある学生は、困難な壁を苦労して乗り越えたときに自信に繋がった、と語る。「自信や意欲」も、仕事をしていく上で欠かせないものである。また、展示や発表等で人前で話す機会も多く、コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力も向上させることができる。
 さらに、先輩が後輩に教育を行うことで、先輩も成長する「共育」の仕組みを、学生自身も有用であると感じており、大学側の意図が確実に伝わっているようだ。
 学生たちは「大学とは何か」についても明確な考えを持っている。
 これまでの知識重視型の教育手法も大事だが、これがどういう風に今後に生かされていくのか、見えてこない。専門知識よりも、目標を達成するための「物事の進め方」を学ぶことの方が大事だ、と感想を述べている。極端な話、テーマは何でもよく、それを実行していく過程で身に付くものの方が大事だと実感している。
 また、PBLに対する学生側から見た「効果」をこう語る。
 「プロジェクトに関わる前までは、大学は寝に来る場所だった。先生の言うことを聞いていれば卒業できると思っていた。しかし、プロジェクトは自分で考えて行動して、毎日来て何かをしないと進まない。だから、『まずは大学に行こう』という意識が生まれた。今は生活の中心になるところ」
 「大学は、自分で何かをする場所。オープンキャンパスでも、高校生に『大学は自分で何かをつかむところだ』と言った。自分で動かないと誰も何も与えてくれない。入ってから動く意志がないと、何も起こらない。先生からアドバイスをもらうにしても、自分で研究室に行かないとだめ」
 プロジェクトを担当する職員は、「学内の多くの教職員は、プロジェクト共育の実績や成果について、多少は分かってくれるかと思うが、どういうプロセスで学生が変わっていくかが分かっていないので、時間を掛けて学内でアナウンスをしていく必要があります。徐々に浸透していくのを待ちながら、進めていきたいと思います」と意気込みを語った。

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