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平成19年11月 第2296号(11月21日)

研究成果を地域へ還元 −3−

沖縄国際大学南島文化研究所専任所員 崎浜 靖

 沖縄国際大学(渡久地朝明学長)の南島文化研究所(小川 護所長)は、一九七八年の創立以来、沖縄諸島を中心とする琉球列島とその周辺の東アジア地域を研究対象に、「南島」文化圏(中国福建省、韓国、沖縄〈琉球〉)として認識し、基層文化と自然環境について文化人類学、歴史学、文学、自然科学などの分野の研究を積み重ねている。さらに、これら様々な研究成果を講演会(市民講座等)、研究会(シマ研究会、南島研セミナー)といった市民向け事業を通して地域社会へ積極的に還元している。昨今の「沖縄ブーム」もあり、今日では沖縄屈指の「資料センター」として大いに利活用されている。そこで、同研究所の活動内容について、崎浜 靖専任所員に執筆いただき、三回にわたって連載する。

 B国際交流の時期(一九九二年〜現在)
 前稿では、南島文化研究所(以下、南島研)の研究活動の基礎が築かれた九一年度までの研究活動を紹介した。本稿では、琉球列島の調査活動を継続しながら、韓国、台湾、中国福建省などの海外調査を行うようになった近年の活動状況も紹介してみよう。
 多良間島調査
 宮古諸島の多良間島において総合調査を実施したのは、一九九二年〜九四年度であった。下地町調査に引き続き宮古地域における調査を実施した。この調査では、高橋俊三所員(言語学の「多良間方言の語彙」、特別研究員である杉本信夫氏(音楽)の「多良間村水納の昔歌」などの論考が『多良間島調査報告書』に掲載されている。
 宮古・平良市調査
 下地島、多良間島と続いた宮古地域における調査のまとめとして平良市総合調査が実施された(一九九五年〜九七年度)。この調査では、これまで手薄であった財政学、経済史を専門とする特別研究員の参加があり、春日文雄氏の「沖縄の土地整理事業ノート―宮古を中心に―」、渡辺精一氏の「平良市の財政分析」などの論考が『宮古、平良市調査報告書』に掲載されている。
 またこの時期に、旧平良市(現、宮古島市)からの委託事業として、来間泰男所長(当時)を中心に、地質学、土壌学、地形学、植物生態学など自然科学系の所員・特別研究員による『平良市自然環境保全基本構想』が刊行された。この報告書は、宮古島の開発と保全について総合的に検討したものであり、宮古島市の環境政策のバイブルにもなっている。
 竹富町調査
 宮古諸島での総合調査を終えた一九九八年からは、八重山地域の竹富町で総合調査が開始された(〜二〇〇一年度迄)。八重山地域における総合調査では、とくに、文化伝播や離島の経済・社会、観光等について、フィールドワークによる研究が多くみられるようになった。主な論考には、特別研究員の波照間永吉氏(文学・民俗学)の「小浜島の種取り祭の儀礼と歌謡」、岩田直子所員(社会福祉)の「西表島における社会福祉実践―民生委員の実践を中心に―」などの論考が掲載されている。
 また、この竹富町調査期間の二〇〇〇年には、初代専任所員の仲地哲夫教授が所長(当時)に就任し、新しく崎浜 靖が専任所員に採用された。
 この時期のユニークな事業としては、近世琉球の「人頭税」に関する研究会が挙げられる。この研究会は、琉球王国時代の租税制度について、学際的に検討したものであり、その成果は『近世琉球の租税制度と人頭税』として、二〇〇三年に日本経済評論社から刊行されている。
 石垣島・与那国島調査
 二○○二年度からは、竹富町調査に引き続いて、石垣島で総合調査が開始された(二○○四年度迄)。さらに二○○五年度からは、八重山地域の与那国島において調査を実施中である。この両調査の成果は、竹富町調査以降の八重山地域における調査結果を踏まえて、二〇〇六年には『八重山の地域性』(東洋企画)が発刊された。この本は、所員・特別研究員一五名が、一般の方々にも読んでいただけるように執筆したものである。主な論考には、小川 護副所長(現所長、地理学)の「石垣島における農業の地域特性」、西岡 敏所員(言語学)の「石垣方言の敬語概略」、片本恵利所員(心理学)の「今日を生きる人々の自己実現とアイデンティティ形成のプロセス」等が掲載されている。
 韓国・台湾・中国との学術交流
 南島研では、波平勇夫所長(前学長)時代の一九九二年から、韓国・台湾の海外調査が開始された。とりわけ平識令治所員(元学長、故人)、稲福みき子所員、小熊 誠所員等の文化人類学・民俗学を専攻とする所員を中心に、韓国研究者との学術交流が積極的に行われるようになった。その成果が、文部省科学研究費国際学術研究として、日韓共同研究が実現し、その後、この共同研究がきっかけとなって一九九七年には、韓国全南大学校湖南文化研究所と学術協定を締結するに至った。
 また、中国研究者との学術交流は、福建省をフィールドとしている小熊 誠所員(文化人類学)を中心に展開され、二○○二年には、福建師範大学中琉歴史関係研究所と学術協定を締結した。南島研では、これら韓国・中国の国立大学附属研究所と学術協定を結ぶことで、人的交流が増え、これまで以上に周辺地域との比較研究が推進されるようになった。その成果の一端は、学術交流講演会の開催や紀要『南島文化』への論文掲載にもみられる。
 例えば、紀要には、上原靜所員(現副所長、考古学)の「沖縄諸島における高麗瓦の系譜―韓国済州島出土の高麗瓦との比較―」、呉錫畢所員(経済学)の「済州国際自由都市の構想と地域発展」、名城 敏所員(土壌学)の「韓国済州島土壌の理化学性」など、沖縄との比較からの興味深い論考がまとめられている。
 このように海外における学術調査が推進される過程で、昨年度からは私立大学教育研究高度化推進特別経費による「協定校間国際学術シンポジウム」を二度開催することができた(次年度まで開催の予定)。このシンポジウムでは、学術協定を結んでいる三研究所の研究者が沖縄で集い、お互いの研究成果を議論することで、東アジア文化の一端を検討する主旨で企画されたものである。多くの学生・大学院生、市民の参加があり、内容的にも概ね好評であった。
 おわりに
 これまで、琉球列島を中心に海外でも地域研究が推進できた背景には、大学当局の理解と支援、そして事務職員と所員(教員)との連携が挙げられる。さらに財政的には一九八四年から九九年まで、私立学校振興・共済事業団からの学術振興資金によることが大きい。しかし、今後は厳しい財政事情をみこして、新たな事業を企画・実践する時期にさしかかっているといえる。
 なお、本欄では、若手研究者育成の「窪徳忠琉中関係研究奨励賞」など他の事業も紹介する予定であったが、紙数の関係で割愛させていただいた。細かな事業内容については南島研ホームページを参照されたい。
(おわり)

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