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平成19年10月 第2290号(10月3日)

筑波学院大のオフ・キャンパスプログラム
  つくば市がキャンパス社会力育成教育 −3−

筑波学院大学OCP推進室社会力コーディネーター 武田直樹

 筑波学院大学(門脇厚司学長)の教育目標は、「社会力」豊かな人間を育てることである。社会力とは、誰からも好かれ、社会の役に立ち、社会作りやその運営に積極的に貢献できる力である。同大学では、社会力を育てるために、学生一人ひとりを様々な社会参加活動に参画させ、学生は社会の動き等を学ぶ。この取り組みは、オフ・キャンパス・プログラムとして、文部科学省の現代GPにも採択された。この取り組みについて、同大学社会力コーディネーターの武田直樹氏に寄稿してもらった。

 これまで二回に亘りOCPの概要や仕組みについて説明してきたが、最後にOCPの実践事例や評価、今後の課題について述べることとする。
 《OCPの実践事例》
 1. 活動事例
 これまで学生が取り組んできた具体的な活動は以下の通りである。@医療・福祉:福祉施設での障害者補助、知的障害児との遊び、知的障害者との芸術活動・農作業、障害者スポーツ、乗馬セラピー、アジア盲人マッサージセミナー運営補助、盲導犬ユーザーや高齢者との交流、A環境:里山保全、農作業、外来魚の駆除、リサイクルマーケット・ショップの運営補助、筑波山や街の美化活動、B街づくり:クリスマスイベント、民間企業の行う社会貢献イベントの補助・スーパーマーケットツアーの補助、つくばサイエンスツアーのバスガイド、C社会教育・子供:リバーキャンプ、フリースクールでの子供との遊び、冒険遊び場作り、子供とのおもちゃ遊び・おもちゃ修理、学校図書館・公立図書館での運営補助、子育て安全情報の収集と情報配信、Dスポーツ:霞ヶ浦での障害者ヨットクルーズ、茨城ゴールデンゴールズ、サッカー指導・サッカーイベント、ダンスイベント、ドッジボール大会、テニス大会、つくばマラソン、全国高齢者スポーツ大会の運営補助、ライフセービング活動、子供向けスポーツイベントの企画・運営、E国際:国際協力・国際交流イベント補助、外国人への日本語教授、インターナショナルスクールでの英語での勉強や遊びの補助、東南アジアに送る絵本作成、タイ語勉強会でのタイ語講師、F女性:育児、授乳服イベント、ピンクリボン活動補助、G文化:ストリートミュージック、大学周辺で行われる祭り、世界オセロ大会の運営補助、H情報・科学・学術:インターネットTV番組の製作補助、ラジオ番組作成、つくば市や市民と連携しCGを活用した観光マップ作成、高齢者へのパソコン教室、ロボットセラピー、子供へのレゴロボット製作教室、つくば科学フェスティバルの運営補助、など。
 多岐に渡る学生のニーズに対して、これだけ様々な分野の活動に学生が参加できたのも、中間支援団体であるつくばEPOと連携していることが大きな強みである。
 2. 活動期間
 学生は都合の良い日程や時間帯を選んで、団体の活動に参加している。従って、一年生の多くは週末に、二年生は夏季や冬季の長期休業期間に活動をする場合が多い。短い場合だと、夏休み中の宿泊を伴う二泊三日のキャンプにスタッフとして参加するなど、集中的な活動に取り組む学生がいる一方、平日の空き時間や休日を利用して、毎週、隔週、毎月と団体が定期的に行う活動に関わる学生もいた。
 昨年度は一、二年生ともに、複数の活動に取り組む学生も少なくなく、また、単位取得に必要な活動を終えた後に、OCPがきっかけとなって団体と個人的に繋がりを持ち、自発的に活動を継続する学生も少なからず見受けられた。
 《社会力育成教育に対する評価》
 OCPは文部科学省の現代GPに採択され、社会力を育てる本学の教育そのものの意義を高く評価されたが、学生や受入れ団体はどのように評価しているか報告しておこう。  1. 学生からの評価
 OCP学生スタッフが平成十八年度末に一、二年生に行った実践科目に対するアンケートによると、「楽しかったし何か得られた」四八%、「楽しくなかったが何か得られた」二一%、と「何か得られた」と回答した学生が六九%を占め、「楽しくなかったし何も得られなかった」一五%、「楽しかったが何も得られなかった」一二%、と「何も得られなかった」と回答した学生二七%を大きく上回った。
 また、活動を選んだ理由は、@興味があって二九%、A楽しそう二七%、B友達に誘われて二〇%、実践科目を通して得たものについては、@人との繋がり五〇%、A実績・経験二三%、B知識・技術一三%、が多かった。
 これらのことから、約七割の学生がOCPを通して何か得られたと回答しており、全体的に楽しく、一定の達成感を得ているとプラスの評価が、特に中長期的な活動を行う二年生ほど高かったことが伺えた。一方で、「友達に誘われて」といった消極的な態度で、自分の意思で参加しなかった場合は得るものも少ないという結果も得られた。
 2. 受入れ団体からの評価
 実践科目Bの学生を受入れた全四九団体に対する五段階評価では、「学生の参加は団体に役立ったか」の問いに平均で四・一と高い評価が得られた。「学生の参加により刺激を受け、人材不足を補うマンパワーとして役立った」との評価を得た一方で、一部主体性に欠ける学生への対応が課題に挙がった。「社会活動参加が学生の社会力向上に役立ったと思うか」の問いに対しては平均で四・一と評価は高く、「社会と関わり、人とコミュニケーションを図る体験自体の大切さ」を回答した団体が多かった。「学生の活動状況」についても、平均で三・九と評価は高く、「ほとんどの学生が積極的に活動に参加した」というコメントであった。
 3. 経済産業省「社会人基礎力」政策担当官からの評価
 平成十九年八月、経済産業省「社会人基礎力」政策担当者三名が、本学の社会力育成教育に注目し視察に訪れ、学生の活動を視察すると同時に、学長や教職員・社会力コーディネーターと意見交換し、つくばEPOの視察も行った。視察後、担当官からは、「貴学の教育には『地域に貢献する』だけでなく、『地域と共に成長する』という新しい大学の存在意義を見せていただいた。この取り組みが、学生の成長と地域のNPOやボランティアの活性化を促進し、それが地域の人々の繋がりの強化、幸福の増進に繋がっていく起爆剤になり得る。また、社会力コーディネーターの存在は、日本社会が、人間同士をつなぐ役割をどこまで重視するのかという重要な試金石になるだろう」との高い評価をいただいた。
 《OCPの今後の課題》
 このように、本学が実践している社会力育成教育は、文部科学省や経済産業省など国の政策推進レベルでも、学生の社会参加活動の実践レベルでも高い評価を受けているが、より良い教育プログラムとするには、まだまだ課題が多い。主な課題を挙げれば次のようになる。
 1. 教育プログラムとしての更なる確立
 教育プログラムであるOCPは、事前学習、目標設定、社会活動参加、活動時の振り返り、まとめ、事後学習という、教育プログラムとしての一連のプロセスが重要である。OCPでは個々の学生が多種多様な場所とスケジュールで活動を行ってくるため、学生全員に直接、最適なタイミングで中間振り返りを行うことは難しい。そのためには、より十分にクラス内での振り返りや発表の場を設け、各学生の学びを更に深め、共有するなど、社会力向上のために学生の可能性を引き出すことは、さらにレベルの高い次の実践活動に繋げるためには不可欠である。
 2. 学生の動機付け・意識強化
 OCPは全学生が必修科目であるため、学生が学外に出る前に、社会参加活動を行う意義やその楽しさを伝え、感じ取ってもらうことが非常に重要となる。その一つとして、オリエンテーションの充実が挙げられる。特に、実際に活動を体験し、意義や楽しさを感じた学生自身が、後輩である学生に直接語りかけることは、我々学校側がそれを行うよりも、何倍もの説得力があることは言うまでもない。そのためにも、学生スタッフを中心とした学生自身がアドバイスや広報活動をより強化できる工夫を一緒に考えていく必要がある。
 3. 教員の専門領域との融合
 学生の行う社会参加活動と教員の持つ専門領域や論理的な物事の考え方・進め方を如何に融合し、応用していけるかが、OCPを真の意味での全学的な取り組みにできるかどうかの大きなポイントであると考える。学外での学びを、学問への関心に向け、学術的・論理的に整理した上で、改めて学外で学び直す。この繰り返しこそが、学生の学びと活動をより意義深いものへと深化させるだろう。
 学生の秘めた能力と、失敗を恐れないチャレンジ精神、その長所を教職員が引き出し、後押しをする。そして学生が学外で世界の広さや深さを体感し、さらに市民にエンパワーメントされる。これにより、学生の社会力が育まれ、市民に新しい風を吹き込むことができる。真の意味で、市民と協働で作り上げる大学となるにはまだ時間が掛かるかもしれないが、この取り組みが長期的に継続され、本学の学生が街の至る所で当たり前のように社会活動に参加し、卒業生をも巻き込んだプログラムとして発展していけば、個々の学生のみならず、つくば市全体が社会力豊かな街になることは、決して、夢物語ではないであろう。(おわり)

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