平成19年10月 第2290号(10月3日)
■「シニア世代受入れ」で協議会 基調講演「大学と生涯学習」/清水司氏
日本私立大学協会(大沼淳会長)は、去る九月二十七日(木)、東京・市ヶ谷のアルカディア市ヶ谷において「平成十九年度シニア世代の受入れ推進に関する研究協議会」を開催した。
同協議会は私立大学発展構想委員会(黒田壽二担当理事)が準備を進めてきたもので、今年で三年目を迎えた。
はじめに、黒田担当理事が「十八歳人口の減少等を受け、大学全入時代とも言われる状況下、私大協会が“シニア世代の学び直し”を提唱するとともに、文部科学省にも働きかけ、今年度には「社会人の学び直しプログラム」に一八億円の予算措置がとられており、二十年度の予算要望でも五四億円を計上している。さらに、非学位課程だが一定の教育内容を系統的に履修したことを証明する「履修証明」の発行ができる制度も予算化されており、生涯学習の充実が図られようとしている。今日は、第一四期中教審会長の時に“生涯学習”を強調された清水司東京家政大学理事長に、生涯学習社会の構築についてお話しいただき、併せて具体的事例等の発表もあるので、それぞれの大学全体の中で、生涯学習の具体的な在り方をご研究いただきたい」と開会の挨拶をした。
協議に入り、まず、清水理事長が、「大学と生涯学習」と題する基調講演を行った。
同氏は、世界と日本の生涯学習の歩みを説明するとともに「時代の変化、環境の変化の中で、人間は常に何かを調べ学ばなければならない、人生一〇〇年とも言われる時代では、二〇歳代で社会に出てから五〇年ぐらい働くことになる。そこには、必ず生涯学習が必要となり、このことは、欧米では“限界なき学習”として認識されている。我が国では学校制度が始まって一〇〇年余を経過したが、昭和四十六年の“四六答申”以来あまり研究されずに今日に至っている」などと述べた上で、“体験なき学習は、学習なき体験より劣る”として、単なる知識ではなく人間社会での実際に活きる力(人間力)の大切さを強調し、知識より物事に対応する能力が重要であると論じ、「二十一世紀の時代変化の激しい時代こそ、常に学ぶ生涯学習の考えが必要である」と締めくくった。
次に、同協会の小出秀文事務局長が、シニア世代受入れの必要性等を、文科省の学校基本調査の各種データ、政府の各種会議等の審議内容、私学事業団の入学志願動向、同協会の地域振興調査結果等により「私立大学の将来像と振興施策」と題する解説を行った。
引き続き、取り組み事例として、広島大学の杉原敏彦入学センター長・教授が「シニア学生の受入れと支援―広島大学フェニックス入学制度の取組み」と題して講演した。
同氏は、二〇〇一年から実施しているフェニックス入学制度の概要(特長)として、シニアを一般学生との区別なく正規学生として受入れていること、AOの特別選抜実施、学部・大学院課程での実施などを挙げた。また、同制度のねらいについて、@高齢社会で自己実現を図る機会や学位取得をめざす人が増加していること、A蓄積された知識・経験を学術的にまとめ、生涯にわたって学び続けることができることなどを挙げた。
そのほか、フェニックス生の各種アンケートを紹介した上で、今後の検討課題については、志願者増と受入枠の問題、フェニックス入学生への支援拡大の要否、支援窓口の開設、若年学生との関係とフェニックス学生の活用などを挙げた。
休憩をはさんで、長崎ウエスレヤン大学の南 慎郎企画広報課企画課長が、「導入一〇年、シニアスチューデント入試」と題して、同大学の取組を紹介した。
同氏は、同大学の歴史を紹介するとともに、一九九九年に導入した満六〇歳以上を対象とした「シニアスチューデント入試制度」の概要を説明した。
この制度は、面接のみで入学が決まり、入学金(二五万円)は全額免除、授業料は半額免除される。少子化が進む中で入学生の確保の視点から、平成十八年には、新たに五〇歳台の社会人対象に、「ブロンズスチューデント」の募集も開始している。
同大学では、社会福祉学科、国際交流学科のほか地域づくり学科を設置しており、今後とも、高齢者の高い学習ニーズに対応し、地域に生涯学習の組織的な学習機会を提供するなど、充実させることにしている。
次に、文部科学省の井上卓己高等教育局大学振興課大学改革推進室長が「国公私立大学を通じた大学教育改革の支援」について、各種支援プログラムの紹介をした。特に「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」については、二〇年度予算として今年度の一八億円の三倍の五四億円を要望していること、また、学生以外の者を対象に開設する講座や授業科目の一部で体系的に編成できる履修証明制度についても詳細に解説した。