平成19年9月 第2288号(9月19日)
■京都外国語大学の地域連携 −2−
京都外国語大学(堀川徹志学長)は、一九四七年に京都外国語学校として設立された。同大学が特に重視する「人間力」を高めるため、地域社会との関わりにおいては、各言語の文化圏に関する豊富なデータと交流実績をもつ外国語大学という特性を活かした連携を継続して行っている。しかしながら、同学の地域連携は、大学が所在する限られた地域との連携に留まらない。このたびは、同大学の堀川徹志学長に地域との連携についてご執筆を頂いた。
しかし、本学のような小規模大学では、むしろ多くの窓口を設けて、異なる視点から地域連携を考え、実行するメリットの方が大きいと考える。これは教職員の意識向上に資するものである。
2、京都における地域連携 ―「官学連携による観光振興」―
本学は京都市域の観光振興の分野において、京都市と連携協力するための協定を二〇〇四年六月に締結した。今回は、この協定に基づく一連の地域連携のうち、二〇〇五年度に「官学連携による観光振興」というテーマで「現代GPプログラム」に採択された取組みについて紹介する。
(1)京都から世界へ、世界から京都へ
この取組みは、「文化の翻訳・翻案」という新たなコンセプトにより、多言語で京都を表象(新たな京都の創造)し、それをますます多様化しつつ社会に供することによって、地域への貢献を図ろうとするものである。具体的には、京都の文化と伝統を比較文化の視点から研究し、本学で開設している学科の七言語でその研究成果をまとめて蓄積し、多言語データベースを構築して情報を発信する。そのほか、観光案内機能の充実、海外からの観光客誘致、国際交流推進事業等の分野においても協力を行うことにより、京都市の活性化・発展に寄与することを目指すものである。
上図は、本学の教育・研究活動と京都市の都市活力の創造とは、観光振興を通した「京都のまちの発展」という一つの目標に繋がっていることを示している。
京都には豊富な文化資産があり、その資産は京都を総合的に構成しているさまざまな要素によって成り立っている。これまでも京都にある文化資産は観光資源として役立ってきたが、今後その価値を一層高めるためには、新たな視点による観光開発が必要である。本取組みは、京都に関する情報を、受信する側それぞれの言語圏の文化的特性に合わせて翻案した上で提供するという、新しいアプローチによる情報提供の方法・形態を構築することで、新たなマーケット開拓の手段にしようとするものである。
学生の視点から見ると、日本を代表する文化遺産を多く持つ京都で、外国語と異文化を学びながら、同時に比較文化の視点から「京都文化」の研究と多様な観光振興活動に関わることによって、独自のアイデンティティーを確立することが可能になるとともに、豊かな教養を持った国際人としての資質を養うことに繋がる。
(2)取組みを支える活動
これは大学所在地の特性に着目した地域貢献のあり方であるが、主に次のような概念及び活動によって支えられている。
@「京都文化論」講座
京都文化に対する認識を深め、祭り、行事、伝統工芸、伝統芸能、文化財についての専門的知識を身に付けるための「京都文化論」を二〇〇四年度から開講している。複数の専任教員をコーディネータとして配置し、文化の翻案という共通認識の基に、専門・教養を担当する専任教員と京都市や各界から招く講師のリレー形式で授業を行い、京都文化に関する理解を促進している。
(3)「京都研究」のためのプロジェクト
この取組みの中心的な機能を果たしているのが「京都研究プロジェクト」による多言語データベースの構築と公開である。七学科の外国人教員がチューターとして個別指導する体制を取り、正確で充実した内容の研究成果を公開できるように支援している。公開までの過程は、デジタルポートフォリオとして学内の研究用データベースに登録し、コーディネータとチューターが適宜指導を加え、十分な成果が達成された段階で公開を承認し、学外に向けて発信するもので、グループワーク支援システムを構築している。英語・スペイン語・フランス語・ドイツ語・ポルトガル語・中国語・イタリア語等による研究成果は、二〇〇五年度から順次、WEB上で公開するとともに、京都市の観光文化情報システムともリンクし、外国人の情報源として活用できるようにしている。
もう一つの京都研究プロジェクトの具体的な活動は「駒札の翻訳」である。京都市では約四七〇か所の社寺等に設置している立札の説明文に、英語・中国語・ハングルでの併記を計画し、順次整備を図っている。京都市からの依頼は年間一〇件程度であるが、この取組みには留学生も参加している。最終的には英語・中国語・ハングルを担当する教員が、作成した説明文に間違いがないかを確認して京都市に提供している。
このプロジェクトによって、学生の京都文化への理解が深まり、地域社会との連帯感が促進される効果がある。
B海外プレス等の取材への語学ボランティアの派遣
京都市では海外からの外国人観光客の一層の誘致を図るため、海外の旅行エージェントやプレス(テレビ局・新聞社・雑誌社)関係者等を招致している。この取材に対する通訳補助に本学学生ボランティアを派遣している。その背景には、課外活動で、清水寺・金閣寺・平安神宮など名所旧跡に出かけて、ボランティアで外国人に京都をガイドするという「Free Guide Club」の長年の実績がある。
(3)課題と展望 ―継続的な取組みに向けて―
京都御所・知恩院・南禅寺についての研究成果をまとめた学生の感想にこういうのがあった。「普段何気なく通っている京都に改めて目を向け、新しい発見をするたびに胸が躍った。研究するお寺に実際に出向き、日本文化に直接触れて感じた気持ちを精一杯英語で表現し、外国の人に京都の見所を伝え、それが京都の活性化に繋がれば嬉しく思う」、この感想文に代表されるように、参加した学生は、学習成果・研究成果を目に見える形で世界に発信できたことに大きなやりがいを感じている。こういった実践型・体験型のプロジェクト科目は、今後、増やしていくことが望まれる。
一方、行政と連携協力したプロジェクトを行う場合の問題点としては、年度途中での予算、組織、スタッフに関する臨機応変な対応が困難という点が挙げられる。予算面については、本取組みは幸いにして現代GPプログラムに採択されたため、データベースやWEBシステムの構築など、初期投資部分での大学の負担は最小限に留めることができた。しかし、学生の自由な研究活動を全面的に支援するために「京都研究プロジェクト推進室」を設置したが、当初は現員の教職員が通常業務と並行して担当したため、過度の負担がかかることになった。
なお、このプログラムは現代GPプログラムの補助金支給期間が終了した後も、本学の特色ある教育研究プログラムとして継続する方針である。
(つづく)