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平成19年9月 第2288号(9月19日)

筑波学院大のオフ・キャンパスプログラム
 つくば市がキャンパス社会力育成教育 -1-

筑波学院大学OCP推進室社会力コーディネーター 武田直樹

 筑波学院大学(門脇厚司学長)の教育目標は、「社会力」豊かな人間を育てることである。社会力とは、誰からも好かれ、社会の役に立ち、社会作りやその運営に積極的に貢献できる力である。同大学では、社会力を育てるために、学生一人ひとりを様々なボランティア活動に参画させ、学生は社会の動き等を学ぶ。この取り組みは、オフ・キャンパス・プログラムとして、文部科学省の現代GPにも採択された。この取り組みについて、同大学社会力コーディネーターの武田直樹氏に寄稿してもらった。

 《はじめに》
 筑波学院大学は、平成十七年度に東京家政学院筑波女子大学を改組・改編し、新たに男女共学として再スタートした大学である。
 本学は、情報コミュニケーション学部に情報メディア学科と国際交流学科を擁する一学部二学科で構成されており、平成十六年度から着任した門脇厚司学長の造語である「『社会力』の豊かな人間」を育てることを教育目標として掲げ、市民と協働で作り上げる新しい姿の大学を目指して、日々邁進しているところである。ここで言う「社会力の豊かな人間」とは、様々な人たちと良い関係を作りながら、仕事や様々な活動を通して、自分から進んで「社会の一員」としての、「市民」としての義務と責任を当たり前のこととして果たすことを喜びにし、生き甲斐に、社会の運営に参加することのできる人間のことである。
 では、具体的にどのような教育的取り組みを通して「社会力の豊かな人間」を育もうとしているのか?
 本学では、平成十七年度から「つくば市をキャンパス」にするという構想「オフ・キャンパス・プログラム(Off Campus Program:OCP)」を通して、一年生から三年生までの学生全員が三年間に亘り、一人の市民として様々な社会活動に参加することで、社会の仕組みを実感できると共に、幅広い人間関係を築くことができると考え、全学を挙げて実践に取り組んでいる。
 また、平成十八年四月に経済産業省は、大学を卒業し、社会人になる人間に求められる資質能力を「社会人基礎力」とし、大学教育によってそうした資質能力を育てて欲しいと要請した。このような大学への要請は、本学の取り組むOCPを通した社会力育成と同様のことである。
 このOCPは、実践を開始してわずか二年目の平成十八年度、文部科学省の「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)/地域活性化への貢献」に採択され、昨年度から同省の助成金を得ながら、社会力を育てる教育を実践している。
 本稿では、本学の行うOCPを通した社会力育成教育の意義や概要、そのための仕組み作り、実践事例などを紹介することで、少しでも他大学の参考になれば幸いである。
 《筑波学院大学の強み》
 OCPを本学が行う意義、また、より効果的につくば市をキャンパスにしての社会力を育てる教育が行える条件は以下のように考えられる。
 1. 小規模の私立大学であるため、フットワーク良く学校運営ができ、学生一人一人にきめ細かな対応ができる。
 2. 多くの学生、さらには教職員が茨城県南地域から通っており、地域に根差した大学である。
 3. 本学が位置する人口約二〇万人強を擁する茨城県つくば市は、筑波研究学園都市として国や民間企業の多くの研究機関や教育機関が集積しており、多数の研究者(約一・二万人)や外国人(約七〇〇〇人、一三〇カ国強)、学生(約一万人)が居住している。そのためか、様々な市民活動が盛んに行われており、茨城県に登録されているNPO法人の約五分の一はつくば市に集中している。
 また、つくば市は、平成十七年八月のつくばエクスプレス開通に伴い、東京の秋葉原までの所要時間はわずか四五分となった。それに伴い、行政の強いイニシアチブの下、先端科学技術施設と筑波山に代表される豊かな自然や名所旧跡とを一体化した「観光立市つくば」として、また、魅力ある住まい方を提案する「つくばスタイル」を合言葉にして、新たなまちづくりに取り組んでいる。
 このように、様々な特徴や魅力のあるつくば市には、人的にも、組織的にも、環境の面でも多様な資源があり、大学との協働の可能性を秘めた街である。
 《OCPの実践科目》
 OCPは一年次から三年次の通年の必修科目として、年次が上がる毎に取り組むレベルが高度になっていく、ステップアップ型の実践科目(各二単位)から成り立っている。
 1. 実践科目A(A1:キャリア実現基礎講座、A2:社会参加基礎実習)
 一年生を対象とし、クラス毎に外部との繋がりの中でやり遂げてみたい企画を立案し、実行する。また、市民活動団体の活動に体験的に参加し、社会で必要な能力について知る(「ふれあい型」、「体験型」)。
 2. 実践科目B(B1:社会力強化実習1、B2:社会力強化実習2)
 二年生を対象とし、学外の市民活動団体などと連携し、地域での活動にスタッフとして三〇時間以上中長期的に参加することで、社会の現場で必要な能力を高める(「中長期型」、「一定タスク達成型」)。
 3. 実践科目C(市民実践活動)
 三年生を対象とし、社会の様々な資源やネットワークを活用して、自分が取り組みたい六〇時間以上の活動を計画し、実際に社会に飛び出し実践する(「実践型」、「自己実現型」)。  授業の担当者は実践科目Aと実践科目Bをクラス担任が行い、実践科目Cは活動分野ごとに担当教官を置き、学生の指導及び評価を行っている。
 《実践科目の概要》
 1. 実践科目A:一年生は、前期から後期にかけて、クラス担任の指導の下、クラス毎に外部との繋がりの中でやり遂げてみたい企画を立案し、実行する。並行して前期後半に、社会力コーディネーターが体験的な社会参加活動についてのオリエンテーションを実施する。具体的には、OCPの説明・手続きの仕方のガイダンス、先輩の発表、実際に市民活動を行っている方からの話を聞く場などを設けている。
 社会参加活動に当たっては、社会力コーディネーターが社会参加活動に関するイベントリストを定期的に作成し、学生はその中から体験してみたいイベントを選択するか、または、自分で探してきたイベントに参加する。なお、参加申込のあったイベントは、社会力コーディネーターが主催者側と調整を行う。学生は活動終了後、まとめのレポートを作成し、クラス内や学年内で報告会を行う。
 2. 実践科目B:前期前半を社会力コーディネーターが行うオリエンテーションの期間としている。具体的には、実践科目Aをふりかえるとともに、実践科目Bの説明・手続きの仕方のガイダンス、先輩の発表、実際に市民活動を行っている方の話を聞く場、受入れ協力団体による合同説明会、個別相談会、専門教員によるビジネスマナーや正しい日本語の使い方の指導などを行っている。
 特に、受入れ協力団体による合同説明会には、昨年度、今年度と三〇を超える市民活動団体に参加いただき、その団体もNPO法人、行政、民間企業等と多岐に渡っている。この合同説明会は、学生が直接、数多くの市民活動団体から話を聞くことができる絶好の機会でもあり、市民活動や社会貢献活動の幅広さや意義について考えることのできる場ともなっている。また、参加いただいた団体からも、直接学生と話ができるのみならず、滅多に一同に会することのない市民活動団体同士の横の繋がりを作る良い機会でもあると評価をいただいている。
 参加団体の決定に当たっては、学生の希望の多い団体から順次申込締め切りを設定し、社会力コーディネーターが受入れ団体と学生との間で三者面談を行い、活動内容、活動期間、活動場所等の諸条件をお互いに確認し合った上で、大学と受入れ団体との間で確認書を締結する。これにより、受入れ団体が決定すると共に、学生が活動を開始できる状況となる。
 活動開始後、学生は目標設定に対する中間ふりかえりを書き、活動終了後、まとめとして最終レポートを作成し、クラス内や学年内で報告会を行う。
 3. 実践科目C:OCPは開学から開始し、今年度で三年目の取り組みとなるため、一期生となる現三年生が、現在、実践科目Cに初めて取り組んでいるところである。実践科目Cでは、活動分野毎に担当教官を置き、担当教官の指導の下、学生は個人又はグループで活動し、企画立案を自ら行い、実行する。外部との交渉は基本的に自分たちで行い、また、活動前に自分が強化・克服したい点を挙げ、活動終了後に、どのような変化が、何が要因で起こったのかを自己評価・分析する点が特徴である。さらに、活動開始後、学生は目標設定に対する中間ふりかえりを書き、活動終了後、まとめとして最終レポートを作成し、学年内で報告会を行う。
 実践科目Cでは、つくば市をキャンパスとした活動に留まらず、海外プロジェクトとして、ニュージーランドでのアウトドアスポーツ、イギリスでの観光、私の担当するタイでの国際協力を切り口としたフィールドスタディも計画している。
(つづく)

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