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平成19年8月 第2285号(8月22日)

恵泉女学園大学のコミュニティ・サービス・ラーニング −1−

恵泉女学園大学人間社会学部特任教授 山本悦子

 恵泉女学園大学(木村利人学長)の人間社会学部では、日常的かつ継続的に現場を体験する科目として、コミュニティサービスラーニングという専門科目を置いている。サービスラーニングは、サービス(貢献)とラーニング(学習)をつなげ、ボランティア活動を学外で行い、その体験を通して学びを獲得することを目指す教育である。地域(コミュニティ)におけるサービスラーニングについて、同大学で取り組みを進めている山本悦子人間社会学部国際社会学科特任教授に寄稿して頂いた。

I はじめに
 1、恵泉女学園大学の紹介
 本学は一九八八年に開設され、現在二学部(人間社会学部・人文学部)五学科からなる小規模女子大学である。学園の創設は一九二九年にさかのぼり、「平和のために貢献できる広い視野を持った女性の育成」を教育の目標としてきた。
 東京世田谷区に中学・高校、多摩市に大学・大学院がある。教育の場のみならず日常の学園生活においても大切にしている三つのことは、@「聖書」を通して人間を尊ぶ心を育てる、A「国際」交流を通して平和を求める心を育てる、B「園芸」を通して自然を慈しむ心を育てる、である。
 2、コミュニティサービスラーニング取り組みの契機
 一九九八年に開設された国際社会文化学科では、教員の専門地域や領域を追体験する「フィールドスタディ(以下FS)」を専門科目としていた。海外での現場体験が主となる体験学習プログラムである。二〇〇一年に開設された人間環境学科は、地域に根ざして「人間と自然環境の共生」を実践する市民を育成することを教育目標とし、より身近な国内で実施するFSを専門科目とした。これらのFSは両学科の学生に相互開放された。
 二〇〇五年には学部・学科の再編を行い、両学科は人間社会学科と人間環境学科として人間社会学部を構成することとなった。人間社会学部ではFSを従来どおり専門科目として開設すると同時に、日常的かつ継続的に現場を体験する科目として、コミュニティサービスラーニング(以下CSL)を専門科目に加えた。身近な施設や組織においてボランティア的な活動を行うことを主体とした体験学習である。こうして体験学習プログラムにFSとCSLという二つの要素を組込み、学生がローカルな問題とグローバルな問題の関連性と異質性を立体的に理解できる教育プログラムができあがった。
 人間社会学部では「大学の外にあるキャンパス」での学びとして、@国内外のフィールドで様々な社会問題に触れるFSと、A身近な地域社会で社会貢献活動をするCSLの二つの体験学習を学部の専門科目の中に体系的に位置づけている。
 @は、すでに一九九九年から取り組みが始められ、実績の積み重ねがあるが、Aは前述のとおり、まだ経験が浅く、発展の余地が大いにある取り組みであるが、その内容と活動した学生の学びについて以下にご紹介したい。

II CSLの進め方と内容
 1、CSL小委員会と体制づくり
 新しいCSLプログラムを作るに当たり、まず人間社会学部に体験学習CSL・FS委員会があり、その下に国際社会学科と人間環境学科の教員六名でCSL小委員会が置かれている。CSL小委員会は、ほぼ毎月一回開かれ、CSLの方針や具体的な進め方について検討を重ねている。また、時には時間をかけて話し合うために「合宿」と称する会議も開いてきた。従って、委員の中でCSLの学生の指導に直接当たっていない教員もCSLの現状に理解を深め、プログラムの展開に積極的な関わりをもっている。
 当初(二〇〇五年四月)私は、CSL先輩校である国際基督教大学(ここではサービス・ラーニングと呼ばれている)から多くの情報や経験談を伺ったが、CSLのイメージを描く間もなく学生を前に授業や活動を始めるという状況であった。その過程で、本校のカリキュラムの独自性や専門性、あるいは学生の動向などをふまえ「恵泉女学園大学としてのCSLとは」という課題に向かいつつ、その基礎を固めてきたが、結局は活動に参加した学生達から教えられることが多々あった。
 約二年半の短いCSLの取り組みの経験から見えてきたことを二点にまとめると、一点は本校ではFSが大学の組織の中に体制として既に位置づけられていたために、そこに新たに加わったCSLが組織上円滑にスタートできたこと、もう一点はまだ少人数のCSL活動参加者ではあるものの、その教育効果は大きく、個々の体験から自ら気づき、学びを得ている点である。
 表は、CSLプログラムの展開である。
 学生が活動先を決定するに当たって、「福祉・環境・国際交流」の三分野を設定し、活動例を紹介しながら、学生自身が活動先を探す努力も促している。この段階から、環境分野と国際交流分野を専門とする教員が加わり、学生の個別の相談に応じる(SL方法論の担当教員は福祉分野が専門)。活動先を決めるプロセスでは、@学生にとって関心がある活動であること、A継続して通える場所であること、B活動団体(組織)がCSLの活動先として適切であり学生の受け入れの了解が得られること等を検討する大切な時期である。
 また、CSLT、U、V(各一単位)と三段階になっており、各段階は活動先での実働時間が約五〇時間である。従って、活動先により各段階の終了時期は異なる。学生は途中で経過報告のために教員を尋ね、教員は活動先に連絡あるいは訪問する。
 CSLの各段階への進み方速度は、全く個別的で、例えば一学期間かけてコツコツ行う学生もいれば、長期休みに集中して行う学生もいる。活動先の了解が得られれば、継続を前提にさまざまな活動の形態を認めている。取り組み始めて日が浅いため、学生の動向を見ながら柔軟にプログラム化している。
 2、CSLをどのように学生に周知させたか
 長年取り組んできたFSの存在感が大きいだけに、新しいCSLを学生に伝えていくことは当初困難であった。そもそもCSLの言葉そのものが学生にはなじみがなく、しかも「サービスラーニング方法論」の授業との関連も分かりづらかった。周知への工夫としては以下の方法をとった。@「社会福祉入門」(二学部対象課目)を履修した学生には、毎学期授業の中でCSLの説明をする。福祉分野で活動を希望する学生の多くはこのルートからCSLにつながっている(二年目からは人文学部の学生も「SL方法論」を履修できるようになり対象が広がった)。A大学の行事や大学祭等でCSLを紹介する展示を出す。またCSL活動報告会を昼休みに開催。B参加学生が友達に勧める。参加学生の傾向として、同時にあるいは前後してFSに参加、または大学祭や学生会の役員として活動している学生が多い。C受験生向けの大学案内にFSとCSLを紹介。三年目にやっと効果が表れ“入学前からやりたかった”との言葉が聞かれるようになった。(つづく)

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